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四話

 ホワイトウータンの群れが正常に機能していたらシュテーゲン兄妹はもっと多くの白毛と戦闘していただろう。


ホワイトウータンは仲間と認めた同族の気配をある程度の距離までなら察知する能力がある。


 基本的に敵を狩る時や睡眠時などは小グループで動くが他の小グループも察知できる限界距離以内にいるため気配がしなくなるとすぐさま合流し、情報交換を行う。鎌の男の時は正常に機能していたと言えるだろう。


 若干の疲れは感じるけど問題は無いみたいだ。五日間寝ずにひたすら魔法を唱えさせられた時の方がきつかった。


「雨だ」


 雨脚はどんどん強まり、体を打つ。


「あの洞窟に入ろう」


 レイの指差す方にはかなり大きい洞窟があり、魔物の気配はしない。


「魔物はいないか」


「うん。でも少し変かも」


「変って?」


 レイは難しい顔で違和感を説明しようとしたようだけど言葉にするのは難しかったらしい。でもレイの勘は当たる。用心した方がいいのか。


「どうする」


「とにかく行ってみる」


 俺たちは山道をそれて木々の中を通って洞窟に入った。


「結構でかいな」


 十人は余裕で通れそうな巨大な入り口と先が暗闇で見えなくなるほどの奥行きがある。


「やっぱり何かおかしい気がするんだよ」


 レイはさっきからずっと固い表情のままだ。雨脚は強くなる一方で草木が雨風に打たれて揺れている。今日はここで眠るのが無難だが。


「分かった。調査しよう」


「調査って」


「この洞窟の隅から隅まで調べてみるんだよ。もしかしたら僕やレイの察知に漏れている魔物だっているかもしれない。でも一回調べれば安心でしょ」


「うん。じゃあ探検してみようか」


 難しい顔をしていたレイもようやく笑顔を浮かべた。

俺とレイはバッグからランタンを取り出し、火を付ける。ランタンの温かい光が真っ暗な洞窟を照らし出す。察知の応用で暗闇でも空間を把握することはできるけど色まではつかない。幸い魔物もいないようだし、しっかりと周りが見える方がいい。


 二人でバッグを降ろして洞窟探検を始める。


「お宝あるかな」


「どうだろう」


「あるよきっと」


 期待に反して、洞窟には何もなく談笑しているうちに行き止まりになった。


「うーん。やっぱりおかしい」


 レイが行き止まりを見ながらいうので、見やすいようにランタンを行き止まりに近づける。


 レイは岩肌に鼻が当たりそうなほど接近する。


「この奥なんかある」


 レイの口調からは先ほどまでとは違い確信めいたものが感じられた。


「どうすれば奥に入れるのか」


 レイはペタペタと岩壁を触っているかと思えばそれを止めると反対側の電車に岩壁に右手を乗せた。レイの手が岩壁に触れた瞬間、行き止まりをつくっていた岩壁が扉のように開いて先を示した。


「ハハハ。マジかよ」


 驚く僕とは対照的にある程度確信があったのかレイは興奮を隠せていないようだ。


「どうして分かったの」


「すっごい集中したらあそこだけ誰かが触ったような痕が見えたの」


 跡とは物理的なものではなくレイが察知によって視覚的に捉えた痕のことだろう。


 行き止まりの奥はランタンが必要なかった。


 青白い光を発する光虫が岩壁にポツポツと付いている。幻想的な輝きは人を惹きつける魅力がある。


「綺麗」


 光に照らされたレイはその美貌が一際際立って見える。


「この虫は」


「青光虫っていって光のない暗闇で光るのが特徴でこの色の他にも黄色や白に発光するタイプの光虫もいるらしい」


「他の色も見てみたいね」


「今度光虫の生息地でも探しに行こうか」


「いいねそれ」


 光虫の魅了から先に解かれたのは僕だった。興奮覚めあらぬまま奥に進むと今度は木造の扉があった。こっちは何の仕掛けもなく開きそうだな。


 戻って早速レイに奥の扉のことを伝える。レイはようやく探検の目的を思い出したようで光虫を名残惜しそうに見つめた。


「やっぱり魔物はいないか」


 レバーに手を掛ける。


「うん。いない」


 その言葉を聞いて俺はレバーを下げた。ガチャと音がして扉が開く。


「なんだここ」


 まず真っ先に目に飛び込んできたのは照明の白い光。その後で沢山の実験器具が広い部屋に配置されているのが分かる。他にも本棚だったりキッチンだったりともう訳が分からない。


「家?」


 レイの発言が正しい。僕達が掘り当てたのは宝ではなくただの家だった。


「でも何の気配もない」


「そうだね」


 僕達は何を言うこともなく部屋を調べていく。まあ調べるといっても実験器具など何の知識もないためパッと見て終わりなので自然と僕とレイの足は立派な本棚の前で止まる。


「見たことない本ばっかりだね」


「ああ」


 パラパラと表紙が煤けて見えない本を捲る。専門的な用語が多すぎて全く読めなかった。


 僕の目がそれを収めたのは本棚の前から数歩進んで左を見た時だった。


 入り口からは死角になって見えなかったベッドの上には全裸の裸体の女性が横たわっていた。

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