三十五話
カイムたち三人は再び合成獣を発見した場所の周辺を散策していた。
先に手がかりになりそうなものを見つけたのはこの散策を提案したカイムだった。
空中から地上のヒルダとアグニを呼び、発見した洞窟に案内する。
「ただの洞窟?」
外見を見た感想をヒルダはそのまま述べる。
「中に入れば分かる」
カイムを先頭に中に入るとまず目に入ったのが巨大なポイズンスコーピオンのバラバラになった死骸。次に照明の光と大量の本、そしていかにもな実験器具と明らかに人の手が加わった痕跡が残っていた。
「このスコーピオンすっごくむごい死に方してるね」
「色や大きさから見るに希少種だな」
アグニの意見にカイムも同意する。
「うん。僕もそう思う。こいつを倒したのは相当な手練れだよ。……あと後ろ」
ヒルダがポイズンスコーピオンの後ろに回り込むと床にはべっとりと血痕が残っていた。
「誰か殺されたのかな」
「それは分からないけど何かあったのは間違いない」
ヒルダは本棚に近づき適当な本を手に取る。ヒルダはパラパラと本のページをめくって元の位置に戻す。埃がないことからヒルダはつい最近までここが使われていたと推測した。
「つい最近まで使われてたみたいだね」
「うん。そして実験内容は多分魔物の研究だ」
「何か見つけたの?」
少なくともヒルダはそう断定する証拠になるものは見つけていない。本棚の本も研究と一括りにすれば同じ分類だが、魔物の生態についての本もあれば魔法の実用性についてなど本だけでは何らかの研究をしているくらいのことしか分からなかったからだ。
「……こっちに来い。見れば分かる」
奥から戻ってきたアグニがヒルダたちを呼ぶ。
奥に行ってヒルダはカイムの予想の根拠を発見した。鉄格子に入れられた魔物の数々。そのほとんどが色や形状などに何らかの変化があり、人の手が加わっている証拠だった。
「……でもみんな死んでるね」
「僕が来た時にはもう死んでた。僕はあの合成獣はここで作られたんだと思う」
ヒルダがカイムの指差す方を見るとゴブリンの腰あたりからリザードマンにそっくりの尻尾が生えていた。
「合成獣の研究をしてたのは確かみたいだね」
「ただ研究者を特定できる手がかりがない」
アグニの言葉にカイムは血痕の付いた床を思い出し、いう。
「あの血の量からして怪我をした何者かは死んでいた可能性が高い。誰かが死体を持ち去ったとも考えられる」
さらに時間をかけて洞窟内を隅々まで調べてヒルダは言った。
「多分、何かの手がかりになるようなものはない。もう戻ろう」
結局カイムたちは何も突き留めることができないまま帰路に着いた。
討伐隊が来てから一週間が経過した。僕たちはカイムさんたちの見送りに城門の外に出ていた。僕やレイ、ガリュームさん含め職員以外にもかなりの人が見送りに来ている。少ない時間だったが各々が交流を深めていたのだろう。握手を交わし合う人もいればいつのまにそこまでの仲になったのか泣き出す人もいれば熱烈なキスをする男女もいた。隠れているつもりだろうが全く隠れられてはいなかった。
「次はレイちゃんたちがこっちに遊びに来てね。私たち暇なときは帝都の方にいるから」
「すぐ行きます」
レイの口調で分かる。多分本当にすぐに僕らは帝都に行くことになるだろう。
「本当にお世話になりました。何度も助けてもらって」
「何かあったらすぐに報告すること。二人のためな5日でこっちまで飛んでくるから」
ガリュームさんと話していたカイムさんがこっちに寄ってくる。
「結局何にも解決できなくて本当に情けない限りだよ」
「そんなことないです。カイムさんたちが来てくれなかったら強化種も合成獣も倒せませんでしたし、盗賊だってきっとまだ悪さしてましたよ。それにレイや僕もカイムさんたちがいなかったら今ここにいなかったと思います」
カイムさんは僕の言葉に少しだけ救われたように微笑む。
「そう言ってくれると嬉しいよ」
カイムさんは最後に真剣な表情でこう言った。
「これはもう絶対の忠告なんだけど必ず何かは起きる。それはこの街のことかもしれないし、ロアくん個人のことかもしれない。でも何は起きてもいいように体だけはしっかりと鍛えておくこと。いいね?」
「「はい」」
隣で聞いていたレイも同時に返事をする。
「はは。でも二人なら大丈夫かな。じゃあそろそろいくよ」
討伐隊は馬に乗るとあっという間に行ってしまった。速度を上げる魔法でもかかっているのかもしれない。
「お兄」
「何?」
「また特訓だね」
レイは久しぶりの特訓に心が踊っているのか楽しそうに笑う。
「うん。また頑張ろっか」
特訓を初めてすぐにその何かが起きることになるとは僕は思っても見なかった。




