三十四話
男たちは今日も獲物を探し、帝都の夜を徘徊していた。
「いやーなかなかいないっすねー。金もってそうなやつって」
「みんなほんとは貧乏なんだろ。服装も俺らと変わりゃしねえ」
「はっはっは。上から下まで盗んだ金で買ったものっすけどね」
男たちは人目もはばからずに笑いながら、街を我が物顔で歩く。ギラついた雰囲気に通行人たちもなんとなく距離を取る。
「兄貴ー、目ぼしいやつはいないんすか」
「さっきからそればっかりかよ。……そのうち見つかる」
三人の盗みはいたってシンプルだ。夜に金を持ってそうな人を路地裏に追い詰めて金品を強奪するだけ。金を持ってそうかそうでないかの判断は兄貴と呼ばれた男がしている。
別に周到な計画があるわけではない。ターゲットを決めたら顔を隠すことと場所はバラけさせることの2つのみ。
「あっそういえばこんな噂知ってます?」
「何だ?」
「最近ワル仲間の間で話題になったんですけどね。金を取ろうとしたチンピラから逆に金を奪う奴がいるって」
大柄な男の話を聞いた二人はマヌケな同業者を想像し、笑う。
「そりゃ傑作だ。被害者の話が聞きたいっすね」
「まあでもそんな奴がいるなら是非会ってみてぇもんだな……いた。あいつにするぞ」
兄貴分の目が一人の男を捉える。誰が見ても一目で分かる豪奢な服に装飾品の数々。
ほか二人は盗んでくださいと言わんばかりの装いに笑いを堪えきれない。
「昨日のやつも相当きつかったけど上には上がいるもんすね」
男たちは顔をスカーフで隠して一気に詰め寄り、声をかける。男たちは近づいてみてわかったが獲物はまだ少年だった。
「おい、坊ちゃん。ちょっとこっち来てくれねえか」
兄貴分は目線で路地裏を指す。
「い、嫌だ」
「痛い目あいたくなかったらこっちに来な。出すもん出せばいてぇ思いはさせねえからよ」
少年は助けを求めるように周りを見るが厄介ごとに巻き込まれたくないのか誰も目を合わせようとはしない。
渋々路地裏に入った青年の逃げ道を塞ぐように男たちは後ろから歩く。
「夜にこんなとこ出歩いてんのがいけないんだぜ坊ちゃん」
「いくら持ってますかね」
「昨日のデブより持ってたりしてな」
青年が行き止まりに差し当たったところで兄貴分はいう。
「さ。そろそろ出すもん出して貰おうか」
青年がこっちを振り返りさえしないのを見て男が煽った。
「どうした?ビビっちまって顔さえ合わせらんねえのか」
唐突に汚れひとつない煌びやかな服を邪魔だと言わんばかりに少年は脱ぎ捨て、男たちの方を振り返った。
少年の右側の口角のみが上がった異様な笑みと吸い込まれそうになるほど真っ黒な瞳に男たちは恐怖を覚える。
「なんだおま……ガッ」
恐怖を振り払うため一歩前に出た瞬間流れた強烈な痛みに男は腹を抱えて倒れこむ。
「クソ野郎が!」
大柄な男は目の前の少年が単なる獲物ではないことを理解し、一瞬で距離を詰めた少年を殴りかかる。
「なぜ!?」
大柄な男が感じたのは圧倒的な違和感。本来なら少年の顔面を殴り飛ばしていたはずの拳がまだ自分の顔のそばにあることを確認し、時間がズレたような感覚に陥る。
だが不思議な感覚もすぐに終わる。心臓を貫くような痛みに大柄な男は意識を失い、倒れた。
「……どうなってんだよこれは……」
兄貴分の思考は一向に現実に追いつかない。地面をのたうち回る仲間と既に気絶した仲間。この数秒に起きた全ての出来事が数分前にイメージしていたものとはかけ離れていたためだ。
思考も定まらないまま取り出したナイフはいつのまにか少年の手に渡り、いつのまにかそのナイフは口の中にあり、切っ先の冷たさが兄貴分を我に返した。
ただそれも遅い。もう兄貴分には唾液を垂れ流し、擬音のような謝罪を口にするしかなかった。
「…ぐ……ま……で……がぁ……ぁ……」
空虚な瞳が心を恐怖で埋め尽くす。
「あれー聞こえないなー。お金盗もうとしてすいませんでした。そんなことも言えないの?ねぇなんとか言いなよ。さっきまでの威勢はどこ行っちゃったんだよー?」
涙、汗、唾液、さらに粘着質な液が唾液と共に出ようが少年は気にも留めない。
「……ぐ……ぃ……ぁ……ぇ……ぅ…………」
そこで兄貴分の意識は異物を断ち切るようにシャットアウトした。
「チッ。もう終わりかよ」
白目を剥いて倒れた兄貴分を見て男は吐き捨てるように言うと、恍惚とした表情を浮かべる。
「でもやっぱり最高だな。大義名分っていうのはよぉ」
のたうち回っていた男は分かった。こいつがさっきの話の男だと。
少年は未だ意識を手放せずにいる男には目もくれず、落ちていた財布を拾い上げ、気絶した二人のポケットも漁り、財布と現金を抜き取った。
「うわぁーこいつら10万硬貨とか持ってんのかよ常習犯だな。やっぱクズのいいところは良心が全く痛まねぇとこだけだな」
少年は落ちていた服を拾い上げ肩に乗せる。
「なんで高い服はこんなに重たいんだ?ほんとにバカ吸い寄せるしか能がねぇな」
路地裏から何事もなかったような顔で出るとまた夜の街を次の獲物を求めて彷徨っていく。




