三十二話
「普段の集会所はこんな感じなのか」
集会所にたくさん人がいるのを見るのは初めてだった。掲示板を見ている人もいれば備え付けの飯屋やバーで酒を飲む人もいる。
「おっ。オーガハンターが二人揃ってるぜ」
オーガ討伐以降、ちょくちょくこうして声をかけられるようになった。冒険者は気が強いのか初対面でもグイグイくるタイプの人が多い。
「お前ら今日も二人一緒かよ。仲良いなーおい」
「うん、そうなの。分かる?」
レイが笑って返すと、男は照れ隠しかビールを一気飲みした。
「いないな」
辺りを見回すがそれらしい人は見当たらない。レイも同様に周囲を見回しているが見つからないようだ。
「ちょっと聞いてみるか」
僕は思い切って暇そうにしていたフローラさんに話しかける。
「フローラさん」
僕が声をかけるとフローラさんは驚いた顔をして、その後僕とレイを見て安心したような表情を見せた。
「心配したんですよ。一日中寝たきりだったって聞いて」
「すいません。心配させてしまって」
「もう元気だよ」
レイはそう言って笑顔を作る。
「ならいいですけどもっと安全に冒険してください!
命がけの職業なんて言われてますし、まあ実際その通りですけど、危険を減らすことだって出来るんですから」
予想だにしない早口と長台詞に僕は面食らった。そんな僕を見てかフローラさんは耳を真っ赤に染める。
「すいません。つい熱が入ってしまって。私のバカァ」
いつもはもっと落ち着いているフローラさんの恥ずかしそうにしている姿はとても印象に残った。
「ううん。心配してくれてるの伝わった。兄も気をつけようね」
「ん?あっ、うん、もっと気をつけます」
そっちから話を振られるとは思わなかったから少し反応が遅れてしまった。
「君たちは」
声の主はガリュームさんだった。すぐにこっちに寄ってくる。
「目が覚めたのか。怪我はもう大丈夫か」
僕の想像以上に僕たちを心配してくれてた人は多かったようだ。思わず昔と比べてしまい、目頭が熱くなる。
「......ええ。まだ痛いところは痛いですけど大体治りました」
レイは僕の顔を覗き込み、言う。
「あれ。もしかしてお兄泣きそう?」
「泣きそうじゃない!ちょっと目にゴミが入っただけ」
自分でも無理な言い訳だと思ったが三人の視線が集まる中否定せずにはいられなかった。
「ほんとに?」
レイはニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?」
フローラさんのからかいゼロの心配を聞いて余計に恥ずかしくなる。
「泣きたいなら泣くといいぞ」
ガリュームさんに関してはよく分からないがとにかく恥ずかしさだけが溜まった。
「レイ、もう行こう。心配してくれてありがとうございました!」
空気に耐えられずレイの手を引いて扉まで向かう。
集会所を出てレイの手を離すと、今度はレイから握ってくる。
「帰るまで......ダメかな?」
そんな顔をされたら断るなんて僕にはできなかった。
「帰るまでなら」
「やった!」
レイは嬉しそうに笑った。
家に帰るとガイさんは店番をしていたが、暇なのか弓の手入れをしていた。
いつもさっぱり人が来ないのを疑問に思っていたのかやっぱりレイが聞いた。
「ねえ。おじさんの店はなんでお客さん来ないの?」
「ガッハッハッハ。ようやく帰ってきたと思ったら第一声がそれか。......別に客が来ないわけじゃない。客に値しないだけよ」
「あの矢を避けられる人がそういてたまるかって話ですよ」
もし、全ての人間があの矢を避けられるなら魔物の数はもっと少ないはずだ。
「ガッハッハ。そりゃ違いねぇな。ほら、とっととそんなとこ突っ立ってねえで中入れよ。おもしれぇ冒険してきたんだろ」
ガイさんの酒のつまみにはちょうど良かったらしい。ガイさんはレイが話す主に僕らが死にかける話を上機嫌で聞いていた。
「そりゃ楽しい冒険だったな」
ガイさんは酒をぐびっと飲み干す。
「楽しくないです。三回くらい死にかけたし」
「死にかけねぇ冒険者なんていねえからな」
ガイさんは少し真面目な顔になって言った。
「またお前ら強くなったな」
「分かる?」
レイが笑顔で返す。
「おう、分かるさ。死地を乗り越えた冒険者の面ぐらいな」
「おじちゃんは何回ぐらい死にかけたの?」
「......数えたらキリがねぇな」
ここで話すと死にかけたことも笑い話になるようで不思議だ。
後半はレイが間違えて酒を飲んでたり、僕が笑いすぎて椅子から落ちて悲鳴を上げたりと散々で話疲れて気づいた頃には三人仲良く床で眠りについていた。




