二十五話
「これで逆に乗り込むってことか」
「そうゆうこと。メンバーは」
ヒルダさんはそこまで言って全員の顔を一瞥する。
ヒルダには一つの懸念があった。魔法陣はあくまで街と森を繋ぐだけ。街で魔法陣を使うとランダムで森の数カ所と繋がる。森のどこに転移するかは運任せということだ。
その点、ヒルダたちは運が良かった。転移したのは盗賊団アジト本部。ただ出迎えたのは人ではなく魔物。目は血走り、獰猛でひたすら餌を喰らうように変化したいわばホワイトウータンの強化体。盗賊団は魔物に食われ、乱雑に散らばった肉だけが過去そこにいたことを示す証拠だった。
「いやー何ていうか大変なところに落ちちゃったね」
ヒルダの声には相変わらず緊張感というものがない。良くも悪くもいつも通りのヒルダにアグニは呆れていう。
「緊張感はないのか」
魔法陣に触れたのはヒルダ、アグニ、レイの三人。怪我をしたロアは言わずもがなすでに一仕事終えたカイムもメンバーからは外れている。
強化ウータンの数は十体。圧倒的に箔不足だった。
【悪魔の片眼】
アグニが左目だけが外気に触れるようにスカーフをめくる。それを見た強化ウータンの体は萎縮し、硬直。アグニが背負っているものは雑魚の強化種如きに耐えられる代物ではない。アグニはすぐに目を隠す。
レイは転移前に溜めた魔力を対人用から魔物用に変え動いた。
作戦会議の時、ヒルダは皆に問う。
「話によると転移したらすぐに盗賊たちと戦闘になると思う。だからその前に出来ることがあるなら」
レイの両手がパチパチと音を立てて光始める。
「少し溜めれば色々出来る」
充電とでもいうべきか。瞬間的に唱え撃つ魔法とは格が違う。見たことのない魔法にカイムが飛びつく。
「ねえ。それどうゆう魔法なの」
目が血走っており、レイは困惑した。
「ごめん。これカイムの癖なんだ。いつものことだから」
「あらかじめ魔法を使う前にこうやって溜めておくと色々出来るんだよ」
色々と足りない説明でもカイムは満足したようだ。
「レイちゃんは魔法に愛されてるな」
それはカイムの最上級の褒め言葉であり、言われた人は数少ない。
レイが満足するまで充電して彼らは転移した。
レイの両手が最大の光と爆音を発すると詠唱。
「射出・雷槍」
一つの詠唱で放たれた二本の雷槍は強化ウータンの皮膚をたやすく突き破り、さらに後方にいた個体も貫いて消滅。四体の強化種が一瞬で絶命した。
流石のヒルダもこれには驚かざるを得ない。
「......ありゃ規格外だね」
それでもヒルダは早い。手早く間近の硬直した一体を始末する。
「レイちゃん。一体腕潰して」
「射出・雷撃」
さっきの威力はないにしても腕を使えなくするくらい容易なこと。レイは適当な一体の右腕を狙って雷槍を撃ち、風穴を開けた。
ヒルダはその個体に接近すると左腕を切り落とす。殺さずとも無力化する。ヒルダの狙い通りだ。
「レイちゃん。お疲れ様」
レイは戦闘が終わったような発言を不可解に思う。
ヒルダは悠々と魔物に接近。魔物はまるで殺気のない女がいた場所に拳を振り下ろすはずだった。もうすぐ当たるというところで魔物の右腕は宙を舞った。切り離された断面から感じる痛みがそれが現実だと確認させた。
「ウゴァァァァァァ」
ヒルダの剣が首から上を切り離す。
「次はどいつかな」
その言葉を挑発と受け取ったのかまるで死にに行くように強化ウータンは突進。だが、攻撃することはかなわない。地に転がる首が一つ増えただけだ。
詰め寄る敵との身長差を生かし、潜り込むように間合いに入ると、腹を横薙ぎにする。吹き出す鮮血さえヒルダに付着することはない。徐々にスピードを上げ、最後の一体に接近すると流れるように跳び、回転を加えた一振りで首を落とした。
たった数秒間の出来事にレイは目を奪われていた。ヒルダは血のついた剣を振り払うと、鞘に収める。
「じゃあ帰ろっか」
まるで遊びに来たような口調でヒルダは闘いの終わりを告げた。




