二十三話
洞窟の出口は変異ウータンに完全に塞がれていた。ロアは隙を見つけてここを出る方針に決める。
必ずしも倒す必要はない。ロアは呼吸を整え、下半身に力を込める。そこで倒れ込んでいたリーダー格にが異様な行動をとる。男は安堵に笑う。
「ハハハハ。俺の勝ちだ」
男は躊躇なく変異ウータンに近づく。
「待て」
「誰が待つかよ」
リーダー格は変異ウータンの横を通り抜けようとしたところを変異ウータンに掴まれる。
「何でだよ。お前は俺たちの味方じゃないのかよ」
リーダー格は言語も通じない魔物に叫び続ける。変異ウータンの感情のない目を見てリーダー格は悟った。自分は捨てられたのだと。
「助けてくれぇ」
リーダー格は首から上を噛みちぎられ、絶命。変異ウータンは三回に分けてリーダー格を食いきった。その間、ロアは逃げの一手のため呼吸を整え、精神を集中していた。
ロアはリーダー格の行動の真意を考え、一つの結論に至る。あの時、リーダー格は魔物を敵とは思っていなかった。むしろ、味方と考えていたんじゃないかと。
変異ウータンはゆっくりとロアに詰め寄る。一歩、また一歩。ロアは変異ウータンが洞窟内の広い空間まで前進するのを待っていた。
疾駆。ロアは全速力で変異ウータンの横を通り抜ける。
そのまま出口まで走り抜ける。確かに見えた外の景色には見覚えのある紫の結界が張られていた。何者かがここに閉じ込めてる。結界の前で立ち止まっていると、変異ウータンが追いついてくる。白毛は血で赤く染まっており、他の冒険者も食らったことが伺える。結界について考えても仕方ない。
頭の中で逃走から徹底抗戦へ作戦を改めた。
敵のリーチが僕の剣より断然長い。となるとやはり近接戦。レイがいればな。威力、速度ともに不明。ただ敵の攻撃手段は恐らく腕のみ。
「行くぞ」
身体を低くして魔物に接近。
「ウガァァァァァァ」
右腕のモーションを見て、咄嗟に脇腹を庇うように剣を構える。
予想通り、左脇腹を強く殴打され、洞窟の壁面に激突。攻撃が速く重い。剣でガードしなきゃ危なかった。
追撃を避けるため立ち上がり、魔物と対峙。ただ初手からこれは辛い。痛みから思考が定まりづらい。つぅーと右目に血が伝う。
僕は一つの希望にかけてまた洞窟奥に向かう。
僕の予想通り、奥は悲惨な光景が広がっていた。照明やランタンで照らされた空間にはいっぱいに飛び散る鮮血と食べ残し。吐き気をこらえてあたりを散策する。
「何か助けになるようなものは」
一人の死体のそばに見覚えのある紙を見つけた時、魔物は僕に追いついた。
僕は咄嗟に走り、その丸い紙を拾う。ミラさんが持っていた飛ぶ魔法陣に似て、さらに大きさはあの黒い穴くらいある。
「魔法陣か」
紙には魔法陣が描かれていた。触れただけじゃ反応しないか。
「こいつでワープできたり......」
しないかなの言葉は続かない。魔法陣は男が逃げた時の黒い穴となり、宙に浮かんだ。
「嘘だろ」
魔物がこっちに走ってくるのを見て僕は慌てて穴に触れた。
「ここは路地裏か」
傍らには黒い穴が浮かんでいた。そしてすぐに思い至る。さっきの魔物が触れたらここに現れることに。
走り出すと案の定、少し離れたところでさっきの魔物が出現する。
これはまずいだろ。
さらに狭い路地に入り、身を隠すが、鼻がいいのかすぐに僕を見つけると、僕に向かってくる。明らかに通れないはずだが、念のため逃げる。
「ウガァァァ」
魔物は路地の建物を殴りつけて破壊し、道をこじ開ける。
「逃げといてよかった」
というかここはどこだ。ライエルンか?
とにかく直線的に走り抜けるとついに大通りらしきところに出た。そしてここがライエルンだと確信した。
てゆうか俺が魔物連れてきたんじゃ。人数も多い。このままじゃ被害が出る。
「困ってるなー。少年」
声のした方を見ると、ヒルダさんとアグニさんが立っていた。
「今、路地裏に魔物が」
言った瞬間、叫び声と破壊音が耳に届く。
「うん。そうみたいだね」
「そうみたいだねって」
ヒルダさんは至って冷静で顔に笑みさえ浮かべている。
家を壊しながら魔物がついに魔物が大通りまで出てくる。幸い、みんなは異変に気付いたらしく遠くに離れている。
ようやく体を自由に広げられるからか魔物は叫んだ。
「ウガァァァ」
「うわーうるさいね。この魔物」
「って早く止めないと」
僕が剣を持って突撃しようとすると、アグニさんに肩を叩かれて立ち止まる。
「少し目瞑ってろ」
理由は分からないが従って僕は目を瞑った。
「もういいぞ」
アグニさんの声で目を開けると、魔物の心臓はヒルダさんの剣で貫かれていた。




