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二十二話

 悲鳴を聞いた瞬間から、カイムはフルスピードで駆けた。


カイムの視界にはバッグを持ってひた走る男と座り込んで叫ぶ女。カイムは瞬時に状況を理解すると、手を前に突き出し、炎を射出。


 炎は走る男に追いつくと、その体を包み込み、持ち上げる。窃盗犯は地面を求めて足をばたつかせるが届くことはない。


「離せぇ。クソ野郎が、離やがれ」


 窃盗犯は必死に叫ぶ。


「何があったんですか」


 カイムに追いついたロアが尋ねる。


「もう終わった。この人があの女の人のバッグを奪ったんだ」


 カイムはまるで自分の手のように炎を操り、男を目の前まで引き寄せる。


「君は盗賊団の一人か」


 目元以外を覆い隠した男はようやく熱くないことに気づいたが関係のないことだ。


 カイムが炎を解除すると、男は地面に尻餅をついた。


「君は盗賊団の一人だな」


 カイムの問いに男は答えない。カイムにとって男の回答自体に意味はない。カイムはただ民衆の顔を観察して、異変を探していた。


「答えませんね」


 答える答えないはカイムにとって問題ではない。


 拷問などアグニがいればすぐに終わる。それよりは仲間が近くにいないのかどうかにカイムは注目していた。


「いた......早く行くよ。ロア君」


 カイムは見逃さなかった。この現状を見て、顔を隠すように路地裏に歩いて行った男を。カイムは逃げた男がスカーフの仲間だと確信していた。


 スカーフを放置して、男が逃げた路地裏に走る。


「あの人はいいんですか」


 ロアがこの速度についてくることにカイムは感心した。当の本人はついていくのがやっとだったが。


「あの人はどうでもいい。アグニに渡すだけだ」


「アグニさんに?」


 ロアは男の末路を想像し、確かに適任だと思った。


カイムは追尾用の魔法を使う。


【炎の鱗粉】


撒き散らされた鱗粉はカイム専用の追跡魔法になるのだが、あいにく今は風がない。カイムは使った瞬間に後悔した。


 路地裏の影に足を突っ込んだ瞬間、カイムは視界の端で別の逃げる男を見つけ、ロアに言う。


「僕は別のやつを追う。ロア君は逃げる男を捕まえてくれ」


そこでようやくロアはようやく走っている理由を知った。


「え?」


「頼む。後は託した」


 カイムは踵を返し、男を追いかける。


 ロアは気を引き締めて察知を発動。路地裏を走る存在を捉える。


 路地を右に左に曲がり、遂に逃げる男を視界に収めたが、瞬間男は宙に浮かぶ半径1mくらいの黒い穴に触れて、場を離脱した。

 躊躇ったが、それも一瞬。みるみる小さくなる黒い穴に触れる。

 ロアは穴に吸い込まれるような感覚と同時に転移した。



 転移した先でロアが見たのは獲物を巣におびき出した獣のような目をした男たち。ここが洞窟で、さらに自分が捕食対象であることを知った。


「おいおいどうしたんだよ。にいちゃん。迷子になったのレベルじゃないぜ」


 男たちの下卑た笑い声が響く。

 十二人。広い洞窟。敵は得物を所持。ロアは冷静に状況を把握し、自分が追い詰められていることを理解する。


「お前らやっちまえー」


 その一言で男たちは得物を構えて、ロアに詰め寄る。男の一振りを剣で受け止めて、思案する。


 ロアにとって人間はどんな状況でも殺していい存在ではない。剣を持ち替えて、柄で男の腹を突く。


 男が口からタンを出して、倒れる前に剣をしまいロアは一歩踏み込み、二人目の腹を三発殴打。同じく昏倒させて、さらに一人、顔面を強く殴り、大きく吹き飛ばす。


「強え。こいつ何なんだよ」


 さっきのリーダー格がゲキを飛ばす。

「怖がんな。集団で同時に潰しちまえ」


 そのリーダー格の声が若干震えていることに誰もが気づいていたが触れない。


射出・火炎(フレア)


 炎も当然かわし、疾駆。間に入って両手に手刀を作り、首を打つ。

 胸を狙った剣での突きをかわし、手刀で手を打ち、剣を落とさせ、腹に膝蹴りを入れる。


「......あと、半分」


 恐怖を顔に馴染ませた男たちを沈めるのはロアにとっては容易なこと。


 リーダー格以外を全員、気絶させると、リーダー格は奥に走り出す。


 ロアに油断の二文字はない。

 逃げるリーダー格の背中に追いつき、遠慮なく一発を入れると、制圧完了だった。ロアは崩れ落ちるリーダー格に尋ねる。


「ここはどこだ」


 一瞬男に微かな余裕が顔に浮かぶのをロアは見逃さない。今のロアにとって情報は必要不可欠。逆に男がそれを見抜いたこともロアは知っている。


「誰が言うかよ。クソ野郎が」


 ロアは剣を抜いて、開いた口に剣を差し込み、もう一度尋ねる。とうとう男の余裕はなくなり、恐怖が心を支配する。拷問、脅迫とは甘えを見せれば意味をなさない。それをロアは経験していた。


「別にお前を殺すことはない。ただ嘘をつかずに吐け。ここはどこだ」


「......あがった。がら......がずして」


 剣を引き抜くが、鞘には収めない。


「......ここはナカって森だ。ライエルンの近くの」


 ロアにとってそれは聞き覚えのない地名。


「そうか。お前らは盗賊団だな」


「......ああ。そうだ」


「面子はお前らだけじゃないよな。何人だ」


 男は答えない。


「お前ら以外に街で二人捕まってる。今更黙ったって意味はない」


「......50は超えてる」


「大所帯だな。それでここを根城にしてるのはお前らだけか」


 男は黙って頷く。まだ聞くことはあるかとロアは思考した時、洞窟内にドン、ドンと大きな足音が響いた。


 ロアが察知を発動し、捉えたのはオーガより大きな巨躯を持つ生物。やがて姿を現したのはロアの知識には存在しない魔物。だが、似たような魔物なら知っていた。


「ホワイトウータンか」


 それはホワイトウータンとそっくりの顔つきで白い毛で身を覆っていた。違うのは二足歩行と巨躯。


「ウガァァァ」

 雄叫びが新たな闘いの始まりを告げた。

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