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二十話

 ライエルンに来て一週間と経たないうちうちにお金持ちの仲間入りを果たした僕らは一日で廃人と化していた。


 レイはソファの上で半目を開けてアホヅラを晒し、僕はただひたすら何泊止まれるかを基準に大金の価値を計っていた。


「お兄。これから何してくらすー」


 語尾は完全に伸びきっている。


「そうだなー......」


 こんな沈黙をもう何十回も繰り返している。


 ガチャっと扉が開く音がしたと思ったら頭に激痛が走る。


「イッタい」


「何をやっとるんじゃお前らは!」


 ガイさんは俺の頭を叩くとすぐにレイにも一発お見舞いした。レイがソファの上でジタバタと動き回る。

「レイの頭はお金の使い道を考えるだけで精一杯なんです」


 ガイさんは不敵に笑うと、宣言した。


「家から出ようともせん廃人どもに食わせる飯はない」


 それを聞いて僕とレイは速攻で立ち上がる。


「いやー今日はすっごく体が軽いなー。ねえロア兄」


 片言のセリフに僕は慌てて同意する。


「いやーそうだなー。ちょっとオーガでも倒してくるかー」


「賛成ー」


 レイは手を上に挙げて肯定を示す。


「じゃあ行ってくるね」


 口角を釣り上げて固定したまま、部屋を後にした。


 ドアが閉まってすぐに僕らは顔を見合わせる。レイは明らかに動揺していて、きっと僕も同じような顔をしているのだろうと思う。


「お兄。このままだとレイたち家追い出されちゃうよ」


「分かってる。とにかく依頼をこなして頑張ってるところをガイさんに見せよう」


 レイは力強く頷くと、集会所の方へ僕の手を引っ張っていく。


 集会所に近づくと同時に集会所の周りに結構な人集りができているのが目に入る。


「何かやってるのかな」


 レイは走ってその中の一人に近づくと声をかける。


「ねえ。今何してるの」


 走って追いかけると男が僕に一瞬だけ目を合わせると、すぐに説明を始めた。


「おう。あれを見ろ」


 男は集会所の中を指差す。ガラス越しに見るとどうやら二人の冒険者がガリュームさんと話しているようだ。一人は女性のようか。


「あいつら全員A級冒険者だ」


「でもA級冒険者ってこの街にはいないんじゃ」


 レイは首をかしげる。そうか、討伐隊の人か。


 なんとなく察しはついたが口を挟むのも悪いので話を黙って聞く。


「いやそれがな。この前のオーガ騒動の時の討伐隊がようやく着いたらしくてよ。まあとっくに倒しちまったがな。多分、その時の話を聞いてるんだろ」


「なるほど。教えてくれてありがとね」


 多分、レイの笑顔に当てられたのだろう。ほおが緩んでいる。


「へへ。いいってことよ」


 中にはガリュームさん含む職員と三人の冒険者しか見当たらない。入っちゃダメなのか?


「入っちゃダメなんですか」


「いや、ダメってわけじゃねえが」


 男は僕の肩を押してレイから遠ざかると小声で言う。


「......あいつがよ」


 男はガラス越しにこちらに背を向けている人を指差す。


「あの人がどうかしたんですか」


 男は小声で耳打ちする。別に誰が聞いているわけでもないだろうに。


「......あいつは危ない」


「はい?」


 後ろ姿は少なくとも普通の人間だが。


 それでも男は根気強く続ける。


「あいつはヤバイんだって。なんかこうオーラっつうか、何つうか」


 何が何なのかさっぱり分からないがあの人を皆んなが怖がっているのは近くにいる冒険者の顔つきで分かった。あの人が振り返った時、僕はその理由を知った。


 見るもの全てを威圧し、制圧してしまうほど強力なオーラ。思わず身震いする。白いはずの目が黒く塗り潰されると男がスカーフで目を隠していたことに遅れて気づく。


 でもそれだけだった。スカーフの人はただの人だ。


 瞬間、後ろから暖かい風を受け、思わず振り返ると、ポンと肩を叩かれる。


「君がオーガを倒してくれたんだね」


 不思議な感覚だった。男の声は体を芯から温めるように循環する。


 真っ赤な髪と整った顔が僕の視界を埋める。真っ赤な髪の人の顔に目を奪われた後、僕はようやく自分が話しかけられていたことを思い出す。


「......え。いや、ライエルンの人たちが頑張ったからで。僕は」


 真っ赤な髪の人は人当たりの良さそうな笑顔を見せていう。


「君は謙虚だな。よし、少し中で話さない」


「......はい」


 何故か断るという選択肢は無いように思えた。別に高圧的なわけでもなければ脅してくるわけでも無い。ただこの人は悪い人じゃない。そんな直感のままその言葉に従った。


 ぼくが入ったことに気づいたガリュームさん含む三人の視線が僕に集まる。そこで気づく。スカーフの男と目が合っても何も感じないことに。スカーフの男と10秒近く目を合わせ続けた。見過ぎだと目を逸らした時にスカーフの男は声を発した。


「僕が怖くないのか」


 その声はどこか怯えているように聞こえた。そしてその威圧が彼のコンプレックスだということが何となく分かった。


「最初はびっくりしましたけどそれだけです。今は普通に見れます」


「......そうか」


 不思議な会話に女性冒険者が口を挟む。


「アグニ。言っとくけど怖がらなかった人が必ずいい人とは限らないんだからね」


 アグニさんはどこか自信を持った声で答えた。


「いや、彼はいい奴だ」


 女性冒険者はあっさりと引き下がった。


「そ。それならいいけど。ねえ。君の名前は」


「ロアです」


「君がオーガハンターね」


 後ろの扉が開き、レイと赤髪の男が入ってくる。


「この子がもう一人のオーガハンターだよ」


 明らかにレイはアグニさんと目が合っているが特に怖がってはないようだ。


「そうみたいだね。アグニのこと怖がってないし」


 アグニさんは女性冒険者にいう。


「俺を指標にするのはやめろ」


「分かってる。ねえ、君たちも座ってよ。ゆっくり話聞いてみたいな」


 僕たちは誘われるがまま席に着き、事の顛末を語り始める。

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