十六話
少年とオーガの激戦の火蓋が切られたころ、少し離れた場所でもまたが繰り広げられていた。
まずは敵の把握。レイは冷静にオーガとの間合いを図る。遠距離主体か近距離主体かレイはひたすらオーガの能力の発動を待つ。
普段なら先手必勝とばかりに魔法を撃つレイだが、前回のオーガとの戦闘がその考えを押しとどめていた。雷槍を投げ返すという曲芸のようなあの一撃は今も深くレイの脳裏に深く焼き付いている。
先に行動したのはオーガだった。オーガの口の前で魔力を濃縮したエネルギー弾が肥大化していく。
レイは瞬時にそれが外壁を破壊した能力であること、そしてそれが一度でも撃たせてはならない脅威だということを本能で理解した。
すぐに頭の中で最適な魔法を選択し、創造。
「射出・雷針」
7cmほどしかない短小の針。サイズと威力と引き換えに【射出・雷撃】と比べ、射出までにかかる時間も短く速度も速い。
その選択は正解だった。不純物が混ざった魔力弾はオーガの顔前で暴発。レイがそんな隙を見逃すはずはなく矢継ぎ早に二つの魔法を唱える。
「射出・三重雷撃」
初めて詠唱した魔法が正しく発動されるのはレイが恵まれた才能を持つことの証明に他ならない。
「射出・三重雷槍」
稲妻が三発と雷の槍が三本オーガに飛来する。
暴発に気を取られていたオーガに対抗するすべはなく心臓部に槍が三本、心臓部に深々と突き刺さり、消滅。駄目押しに顔面にも三発、稲妻が直撃した。オーガはドサっと音を立てると地面に倒れた。
この時、レイはある考えが正しいことを確信した。オーガたちに協力という考えはない。
レイの目がロアが一体を討伐し、次のオーガを相手取っている姿と、遠距離魔法を受けながらも着々と前進するオーガを捉える。
レイは息をつく暇もなく次の標的に狙いを定める。
【隠密】
気配を限りなく薄くする魔法で魔法発動時に対象が自分を見ていないことが条件だ。使用者の質によって効果は千差万別。レイはそんな魔法を若くしてほぼマスターしていた。オーガはレイに背を向けており、使うにはまたとないチャンスだった。
早歩きで詰め寄ってレイは心臓部分を剣で突く。
「刺さらない」
オーガが振り返ると同時にレイは警戒し、後退した。
この個体の能力は硬化。通常の個体の数倍硬い皮膚がオーガを覆っていた。
オーガがレイを視界に入れた瞬間、【隠密】の効果も消滅する。
「射出・雷槍」
雷の槍もオーガに当たって霧散する。
「普通に撃っただけじゃ意味がない」
レイは頭の中で一つの技をシュミレート。右手に魔力を集中させる。小さな光とバチバチと静電気が走ったような音が拳から流れ出す。
オーガの本能が危険を察知したのか手に集まる光を見た瞬間、走ってレイに詰め寄り、頭めがけて拳を振り下ろす。
レイはそれを後方に跳ねて避け、目潰しを狙うが、蹴りをかわすためにそれを止め、後方へ跳躍。
そこでレイは見た。ロアが冒険者を庇い、盾になろうとしている姿を。焦る頭を落ち着かせ、今出来ることを選択する。右手に込めるべき魔力を残し、左手に魔力を流し、創造。
「射出・雷槍」
離れた距離でもレイの放った雷槍は正確にオーガの腕を捉えた。だが、レイにはそれがヒットしたかを確かめる時間はない。
レイを追いかけ、オーガは怒涛の攻撃を繰り出す。
それら全てを紙一重でかわしながらもレイは思考を止めない。
そしてレイはオーガに関して一つの結論を出していた。オーガの知能は限りなく低いと。事実、オーガの知能は人間と比べれば大幅に劣る。他の魔物と比べても知能は低いほうだ。ただその知能の低さを補って余りあるほどの攻撃力と下手な剣では傷一つ付かない強固な皮膚がオーガをB級たらしめる所以である。
ただ、考えのないパンチがレイにヒットすることは万に一つもない。
そしてレイはまた一歩長い長い進化の道を行く。
オーガの強力な一撃を読み、その軌道を予測し、剣を這わせる。剣の面を拳が滑り、オーガの身体が前につんのめる。
オーガの本能は正しかった。少しずつ魔力が流れていたレイの右手は閃光玉のように輝きながら、バチバチと最初とは比べ物にならないほどの大きな音を出す。放たれるは通常よりも遥かに硬化した頑丈な皮膚さえも突き破る一撃。
弾速は遅く、射出までにかかる時間も長く、飛距離も短い。ただ、ひたすらに威力と貫通に振り切った魔法。
「射出・零雷槍」
オーガの皮膚を突き破った特大の雷槍はすぐに消滅した。
ロアに加勢すべく倒れたオーガさえ見ずに走るが、魔力を使い果たしたレイは糸が切れたように倒れた。
「兄、後はよろしく......」
そう掠れた声で言い残すとレイは意識を手放した。