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十三話

 いきなりB級からスタートを切った冒険者がいるという噂は瞬く間に広がり、さらにその理由がわかるとオーガハンターなるあだ名まで流れ始める始末だった。


 集会所で200万ギルと一緒に与えられた中級冒険者の位。一生そこにたどり着くことが出来ない一つの壁。それをいきなり打ち破った僕らは速攻でガイさんの家に戻った。


 コーヒーを飲むガイさんに事の顛末を話した。


「ガッハッハ。ロマンじゃねえか。いつだって英雄は追われる方じゃ」


「そうゆうことが聞きたいんじゃなくて」


 僕が村を出た時の想定からは良くも悪くも大幅に変わってしまっている。


良かった点はいきなり大金を手にしたこと。


悪い点は話題になりすぎていることだ。何度かフードをかぶって家を出たが職員たちは一斉に変異オーガを討伐し、B級になった僕たちの存在を街全体に知らしめていた。その行為に悪意がないことは分かるし、誰も歯が立たなかったオーガを倒した存在がいることをアピールすることで冒険者の活気を取り戻そうとしていることも分かっている。


だが、普通に静かに暮らしていくという理想からは初手から遠ざかってしまった。名前はまだ出ていないようだがあそこにいた職員全員が口をつぐむとは思えない。僕とレイの名前が知られるのも時間の問題だろう。


顔がバレてないだけマシか。


「ロア。そうやってひっそりと生きていきたいという考えが悪いとは全く思わんが一つだけ覚えておけ。今この街で変異オーガを倒せるのはお前さんらだけじゃということをな」


 多分それは違う。きっとガイさんだって変異オーガは倒せる。


「ガイさんだって勝てるじゃないですか」


「儂が今さら前線に出てどうするんじゃ。若いもんが頑張らんでどうする」


 レイは先程フローラさんに渡された銀色のバッジを見つめている。これが僕らがB級であることを示す証だから無くさないようにとフローラさんに念を押されたのを思い出す。


 ガイさんは席を立つと、スタスタと歩いてドアに手をかける。


「どこか行くんですか」


「ちょっくら野暮用じゃ。自由に使ってくれて構わん」


 ドアが閉まってなんとなくレイを見ると椅子から立ち、三人は余裕で座れるソファで僕に密着する形で座った。


「もうちょっとそっち行きなよ」


「そんなこと言ってこのままがいいくせに」


 レイはニヤニヤと笑う。少しからかってみるか。僕は真面目な顔を作りいう。


「いやマジで」


 レイはひどく悲しそうな表情になると、素直に離れようとする。


「冗談だよ」


 頭を優しく撫でてやると、すぐに笑顔になる。


「お兄ー」


 レイは肩に頭を乗せる。レイの匂いがした。その笑顔を見るといつも思う。

「レイは絶対に守るよ」


 例えオーガが来ようが龍が来ようが何が来ようが僕が絶対に守る。


「うん。お兄に守ってもらうよ」


 こんな時間がずっと続けばいいと本気でそう思った。



 僕達は職員たちにバレないようにフードを被って顔を隠すと広場に向かった。


 人の数が凄いな。前に来た時より増えているか。


 レイは広場中央にある噴水に夢中なようだ。人の波を抜けて噴水の隣まで行くのが確認できた。念のため察知を展開して万が一を防ぐ。


 嫌でも聞こえるほど大きな声で職員がいう。台を使っているから目の前に似たような身長の男がいてもよく見えた。


「数々の冒険者を死に追いやった禍々しいオーガ。諸君ら冒険者もたいそう不安だろう。帝都からの討伐隊もいつ来るか分からん。だが、もう大丈夫だ。天は遂に救世主(メシア)をここに召喚した」


 両隣に職員が立って二本の角を掲げる。広場中から歓声が上がる。


「驚くなかれ。二人の冒険者はなんと敵のボス。二角のオーガを打ち倒した」


 また歓声が上がる。この人は演説関係の仕事でもしてたのか。というか二角のオーガがボスだという証拠はない。あくまでもパフォーマンスと分かってはいるが。

「彼らがいればもう心配はいらない。必ずや変異オーガを掃討してくれるだろう」


 言っていることがさっきと変わっていないことも確認できたし、とっとと戻ろう。


 察知でレイの近くに行くと、レイは未だ噴水に魅了されているのが分かる。


「お兄。これ凄い綺麗だよ」


「うん。そうだね」


 そんなやり取りの裏で今も演説は盛り上がっている。


 それだけ不安だったということか。ちょくちょく二人に会わせろ等のヤジが飛んでいるが当然無視だ。似顔絵を描かれなくて本当によかった。名前か似顔絵はそのままシュテーゲン家にとってこの街に僕達がいることの証明にもなる。名前はいつかどうせバレるか。


 目立たないようにの考えはそもそも通用しないのかもしれない。もうこの街ではトップクラスのB級になってしまったんだ。仕方がないのか。他のB級の人たちも目立つのは嫌なのか。それとも目立つのが好きなのか。他のB級の人に会ってみたいな。


 レイはまだ噴水に夢中のようだ。レイが飽きるまでゆっくり待つことにしよう。近くのベンチに座ると、なんとなく視線が噴水に向く。


 落ち着いて見るとやっぱり綺麗だ。噴水は3m近い高さまで水を運ぶと、消えては出てを繰り返す。


 帝都にもっとでかい噴水があるならレイに見せてやりたいものだが。


 喧騒と噴水を交互に見ていた時、遠くから何かが壊れたような、爆発したような爆音が響き、広場のスピーカーが慌てた声を出す。


「変異オーガが襲ってきました!」

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