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一話

 千年の歴史を誇る暗殺一家シュテーゲン家に長男として生まれた僕。


 暗殺者となり命じられれば歴戦の猛者だろうが皇帝だろうが迷わず始末するそんな人生を送ることが約束されていた僕。


 そんな未来は生まれてすぐに潰えてしまったけれど。


 僕は振り返って生まれ育った我が家を見上げた。皇都から外れた小さな町を睥睨するように聳え立つのが昨日までの僕の家。


嫌なことばかりだったし、たくさんいじめられたけど悪い思い出しかないわけじゃないんだ。ディル爺は落ちこぼれの僕にいつだって親切にしてくれたし、レイだってこんな僕と笑って接してくれた。二人がいなかったら僕はもしかしたらこの世にいないかもしれない。


 広大な庭を一直線に進み二mはある塀をよじ登る。


「ディル爺、ありがとう」

 目頭が熱くなるのを感じる。いつだって僕はディル爺に頼りっぱなしだったな。今だってこの部分だけ結界を消してくれてるから僕はこの敷地を出ることが出来る。


初めて触った時は腕が焦げたんだっけ。


 すぐ横には紫がかった結界が塀の上を覆うように張り巡らされている。塀から降りるとずしっとバッグの重みがのしかかる。


何ごともなければ隣町のライエルンまではちょうど三日で付けるけど何事もなくつけるのか。


 不安はある。大体、ライエルンについてすぐに衣食住を手に入れられるかだって分からない。どんなに辛かろうと最低限の食事と寝床があった今までとは違ってこれからは自分ですべてを手に入れてそれを使わなくてはならない。


 僕は不安を払うように首を振って前を向く。下を向いてばかりはいられない。僕は足を前に進めた。


「ロー兄」


 聞きなれた声が僕の耳に届く。何より僕のことをその呼び名で呼ぶものは一人しかいない。声のした方を見るとレイが僕の後ろに立っていた。


よく見てみればレイは背中に僕とそっくりのバッグを担いでいた。


「レイ」


 僕は予想外の出来事に大きな声が出てしまい咄嗟に屋敷の方を見る。


気づかれていないことに安堵し、息を吐く。何十m離れていようが油断はできない。相手は化物だ。


「何をしてるんだ。早く家に戻れ」

 僕は危機感を与えるためにあえて強い口調で言う。


「ロー兄、家から出ていくんでしょ。ディル爺から全部聞いた。レイも一緒に行く」 


 ディル爺のバカ。レイに迫られて簡単に白状するディル爺の姿は簡単に想像できた。ディル爺は僕に甘いんじゃない。レイと僕に甘いのだ。


「ダメに決まってるだろ。ここから出たって何の当てもない。いつ野垂れ死んでもおかしくないんだぞ」


 本当に。この計画を立ててからずっと脳裏には僕が餓死して倒れ込む映像が浮かんでは消えてを繰り返していた。それが確定した未来に思え不安に思う自分も当然いる。


「兄が死ぬならレイもそこで一緒に死ぬ」


 レイが大きな瞳で僕と目を合わせる。こうなるとレイは絶対に曲がることはない。でも今回ばかりは絶対だろうが止めなくてはならない。これから始まるのはいつ死ぬかも分からない当てもない放浪なのだから。


「今回ばかりは僕も絶対に譲れない。今すぐ家に戻っていつも通り過ごしていくんだ」


 それがレイにとって最善の選択のはずだから。


「兄がいないいつもなんて要らない!それに……」


 レイは強くそう言い放つと目に涙を浮かべて震える声でいった。


「二人で一生生きてくって約束した」


「そんな約束まだ覚えて……」


 忘れたこともない僕とレイの一つの約束。もう何年も前の約束なのにレイはずっと覚えていた。


「本当にいいんだな」


 レイが頷いたのを見て僕は覚悟を決めた。何があってもレイだけは守り抜いてみせる。


 僕たちは新しい未来へ一歩を踏み出した。

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