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#7:ヤバい奴

 階段を駆け下りていると、下から誰かが階段を上る音がした。警察が助けに来たのか? とはいえ、これでひとまず俺の役目を果たすことができる。これまで何も成し遂げず、ただ惰性(だせい)に人生を生きてきた俺だが、今だけは覚悟を決めて何かを為そうとしている。俺に与えられた使命は、俺一人が背負いきれるほどの重さじゃない。けれど俺はそれを背負って階段を下りなきゃならない。覚悟を決めてここまで下りてきた。皆の、そしてウィリアムの思いを俺が届けるんだ。

「おっと!」

 階段の踊り場を曲がると誰かとぶつかりそうになった。そこには二人の警備員がいた。

「よかった! 助かった」

 思わず声が出た。二人の警備員たちも初めは驚いていたが今は状況を理解したようだった。

「警備員さん、大丈夫ですか?」

 若い方の警備員が俺に声をかけた。

「待て、アレンまだこいつが本当に警備員かどうかは分からない」

 背の高いもう一人の警備員が俺に拳銃を向けながら言う。

「ちょっと待ってくれ! ほら! これが俺が警備員だって証拠だ! 俺は爆発があった86階の警備員だ!」

俺はそう言いながら警備員の登録証を見せた。これには俺の顔写真も載っている。

「分かった。少し話を聞こうか」

 そう言うと背の高い方の警備員は拳銃をおろした。俺はこれまでにあったことを話し出した。

「俺はアッシュっていうんだ。さっきも言ったが俺は86階の警備をしてた。そこで爆発にあったんだ。けど間一髪で助かった。それで、その後、俺たちは生存者を探したんだ。そんで俺たちは『助けて』って声を聞いたからそいつを助けに行ったんだ。そしたらよ、そいつがヤバい奴だったんだよ! 宝石の氷柱みたいなものを操るし、毒を使ったりして俺の同僚たちを次々と殺しちまったんだよ! 俺の上司もやられちまった。お前たちも今のうちに逃げろ。あいつは兎に角ヤバいんだよ。人間じゃねえ!」

 俺は兎に角状況を伝えようと必死に口を動かした。

「俺たちは大丈夫だ。俺たちは実は警備員じゃなくて警察なんだ。あとは俺たちに任せろ」

 背の高い方の警備員が言う。こいつら、警察だったのか。

「アッシュさん、そのヤバい奴のこと、もう少し教えてほしいのですが、何か分かることありますか?」

 若い方の警官、アレンが俺に聞く。

「俺にもよくわかんねえんだ。なんだか緑色の、いやエメラルド色の宝石を操ってたんだ。あと、あいつ、俺たちが毒の攻撃を『毒ガスの仕業か』って言った時、『毒ガスじゃない』とか言ってたな」

 俺はつたない言葉ながらも必死に説明する。

「エメラルド色、毒ガスじゃない……そういうことか。ありがとういいヒントになったよ」

 アレンは言った。こいつこれだけで俺の言っていることが分かったのか?


 その直後、さらに上から足音が聞こえた。

「ヤバい! あいつが追ってきたんだ! 逃げないと殺される!」

 俺はまた必死の思いで階段を降り始める。

「誰だ!」

 背の高いほうの警官が声を荒げる。すると俺たちの前にガラスでできた小瓶が落ちてきた。中には水と金属の塊が――



 ――目を覚ますと俺の前にはさっきの二人の警備員がいた。二人はひどく傷ついていた。俺は気を失っていたらしい。ここは、フロアの中だ。どうやら俺たちは爆発で非常階段の中からドアを突き破ってフロアの中にまで吹っ飛ばされたらしい。まだ意識が朦朧(もうろう)としている。二人の警官もかなり苦しそうだ。

 破壊された非常階段のドアから誰かが出てきた。野球帽をかぶった男だ。こいつがさっきの足音の正体か。そして俺は顔を見て驚いた。あいつは俺に爆発の少し前に声をかけた男だ! スプリンクラーがどうとか言っていた、あの男だ!

「警備員さん、あんたらも運がいいな。俺特製の手りゅう弾から生き延びるとはな」

 野球帽の男は言った。

「だが、次はどうかな?」

 男はもう一つ小瓶を投げた。まずい。動けない。俺は思わず目を閉じた。

 鋭い爆発音と目を閉じていてもわかるような真っ赤な光、それと同時に鈍い金属音がした。

「あんたの思い通りには……させない」

 目を開けると若い警官が野球帽の男の前に立っていた。あいつが俺を守ってくれたのか? でも、どうやって? よく見ると彼の手には銀色の盾が握られていた。まさかあいつも不思議な力を使う能力者なのか?

「お前も能力者か。面白い。一度やってみたかったんだよ。能力者同士の本気の殺し合いをな」

 野球帽の男はニヤリと笑って言った。この男、狂っている。

「ふざけんな。俺はあんたの娯楽のためにここに来たんじゃない。あんたをぶっ倒して人質たちを助けるためだ」

そう言うとアレンは野球帽の男に向かっていった。俺とは正反対の彼の勇敢な姿。俺はただ見ていることしかできなかった――


名前コラム 第二回

ディーン ゴートン

前回、アレンをやったのでやはり次はディーンですね。まず英単語としての「Dean」には、大学などの学部長や長老などの意味があります。要するに偉い人ってことですね。ゴートンについては響きで選びました。なんか「Go」って感じなので。まとめると、主人公を後押しする偉い人ってことですね。ここで言う偉いは、人間として成熟しているというニュアンスです。さて、そのディーンは本編中ではドミトリにスカウトされたといっていますが、果たして二人の間には何があったのでしょうね。では今回はここまでで。

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