#6:作戦会議
ビルへの潜入に成功し、非常階段に入った僕たちは階段をひたすら駆け上がる。僕は階段を昇りながら、突入前にドミトリ長官からもらったデータを思い出していた。データによると、ビルに籠城しているテロリストは3~4人。それと、これについては僕も推理していたが、爆発を起こした能力者はアルカリ金属系能力者だということだった。
そして、ラフィエンについて。奴らはアンペールを教祖とする新興カルト集団、の信者、通称『ファナティック』の中の一組織であり、その新興カルト集団はニューオーダーとも深く繋がっているらしい。確かにアンペールを信奉しているのであれば、米国最高峰の牢獄、「ブラック・ロック」に収監されている彼の釈放を要求するのは自然な流れだ。
そして問題は敵にどれだけの能力者がいるかだが……
「アレン、確かお前、能力者の一人はリチウムだかルビジウムだかの能力者だって言ってたよな。何か対策はできないのか?」
ディーンが僕に尋ねる。
「対策か……難しいな。アルカリ金属系の元素は主に水に反応して発火するんだけれど、逆を言えば水がなければ発火させることはできないんだ。あとは、アルカリ金属は、ほかの金属と比べて柔らかいんだ。だから、肉弾戦になったら僕たちの方が少し有利になるかもしれない。今考えられる弱点は、そのぐらいかな」
とは言っても肉弾戦に自信があるわけではない。
「そうか。いい情報にはなった。ありがとう。だがアレン、お前格闘技は経験はあるのか?」
ディーンが訊く。
「高校の頃に少しだけ。仲良くなった先生がボクシングが得意で、その時に少し教わったんだ」
そう言いながらも僕たちは階段を上り続ける。今は20階ぐらいだろうか。
「そうだ、ディーン。今の内に『鋼』について説明をしておかないと」
ディーンがあまり化学のことについては詳しくないことはパトカーの中での会話で薄々感じていた。二人で任務に挑む以上、最低限のことは理解してもらわないと困ると思った。
「鋼? ああ。車の中で言ってたな。どういうものなんだ?」
ある程度予想した通りの答えが返ってくる。
「鋼っていうのは簡単に言うと、鉄と少しの炭素を混ぜた合金のことだ。因みに合金が何かは分かるか?」
「わからんが」
間髪置かずにディーンが答える。彼は本当に知らないようだ。
「……合金というのは、いろいろな金属を混ぜ合わせて作る金属のことだ。一つの元素ではできないようないろいろな特徴を持っているんだ」
できるだけディーンに分かりやすいように、僕は優しい言葉を使って説明する。
「なるほど。つまりお前が作った鉄に俺が炭素を混ぜればいいってことだな?」
ディーンが言う。
「大体そういうことだ。でもあんまり入れすぎるなよ。鉄に対して炭素の量は大体0.3%ぐらいなんだ」
自分で言っておきながらディーンにそんなに細かいコントロールができるのだろうかと考えていた。
「0.3%!?おいおい、そんな細かいコントロールできないぞ、俺」
やっぱり。
「できなかったら簡単に壊れるぼろぼろの鋼ができる」
できなかったら困るのだが。
「そりゃあ酷だぜ……」
ディーンは心底残念そうに言った。
「自然の法則さ。僕たちには変えられないよ」
とは言ってもそう言っている自分たちが自然の法則をはるかに超越した、『能力』を使っているのだが。
そんなことを話している内に僕たちは40階近くまで昇ってきた。爆発のあった86階まではあと半分程ある。
話が途切れたのと同時に僕たちは音に気付いた。上から誰かが下りてくる足音がするのだ。
「アレン、気をつけろ。俺が前に立つ」
ディーンはそう言うと胸元から拳銃を取り出す。僕も少し身構える。足音はどんどん近づいてくる。僕たちは警戒を強める。
名前コラム 第一回
阿蓮祐
ネタ切れじゃないですよ。最初からこれをしようと計画してましたからね。というわけで、この名前コラムではキャラクターの名前の元ネタを説明していきます。
初回は本作の主人公、阿蓮祐くん。かなり読みにくい名前をしていますし、現状、かなり面倒くさい性格をしています。とにかく彼は自己肯定感が低いです。トラウマがあるから仕方ない気もしますが...
さて、彼の名前の由来ですがそれは彼の名前をローマ字表記にするとわかります。ローマ字表記にして英語風に名前と苗字を逆さにすると、『Yu Aren』となります。要するに『You are』が元ネタです。日本語訳すると『あなたは』ですね。果たしてこの『You are...』に続く言葉とは一体何なのでしょうか……お楽しみに。




