#4:二人の能力者
ビルの爆発、そしてテロ組織の声明を受けて、米国内でも動揺が広がっていた。現在、爆発から約7分。ひとまずの声明は出したものの、米政府は今後の対応を考えあぐねていた。今もホワイトハウスでは激しい議論が交わされている。
「テロ組織は完全排除すべきです。アメリカともあろう国がテロ組織に屈服したとなれば国の信頼、ひいては世界の秩序が乱れます!」
そう言ったのはFBIの副長官だ。この緊急会議には官僚や政治家の中でもごく限られたものにしか出席が許されていない。そして今日は前代未聞の事態ということもあって各界の重役たちが揃っていた。TV電話で出席しているものもいる。
「だが、ビルには人質がいる。そう簡単には手は出せない」
そう、副大統領が指摘するが、
「米軍の力をもってすれば両方を助けることは不可能ではないだろう。すでに軍は準備を始めている」
米軍の最高責任者であるウィーガンは、そう息巻く。
「だが奴らはこれまでのテロ組織とは少し違う可能性がある。奴らもあの5年前のテロを起こした、ニューオーダーの傘下だと声明を出している」
そう言ったのはCIA長官、ドミトリだ。彼はテロ組織、ニューオーダーの誕生から現在まで、科学者たちと共に能力の研究、テロ組織の動向を追ってきた能力犯罪のスペシャリストだ。
「ということはまさか、奴らも能力を使ってテロを?」
FBI副長官が訊く。
「ああ。さっきの爆発だが、エンパイア・ステートにあれだけの爆薬を持ち込むのは普通に考えて不可能だろう。さらに、多くの人々が爆発の瞬間に赤い炎を見たと証言している。恐らくだが、爆発を起こしたのはアルカリ金属系の元素を操る能力者だろう」
ドミトリは冷静に答える。
「仮にそうだとして、どうするというんだ」
国務長官が口を挟む。
「今現場に”私たちの”能力者を向かわせています。彼らに頼みます」
私たちの能力者とは、CIAが現在検討中の対能力テロ用特殊部隊の候補生たちのことだ。現在、候補生たちは世界中の様々な都市で任務を行っている。
「君たちが検討中の新部隊のことだろう? 本当に彼らで大丈夫なのか? 聞けば彼らは兵役経験もない素人ばかりだということじゃないか」
ウィーガンが訊く。彼は自国の軍隊しか信用できないようだった。
「ええ。確かに彼らには兵役経験はありません。ですが、彼らには強力な能力があります。現在の時点でも彼らに訓練された小隊一隊分以上の力があることは実証済みです。十分実力があると認識していいかと」
ドミトリは次々と来る質問をかわしていく。
「だがやはり無理があるんじゃないか?敵のこともよくわかっていないのだろう」
FBI副長官がそう言った時だった。
「私は、いいと思うがね」
そう口を挟んだのはFBI長官のライズだ。会議室にざわめきが広がる。
――ライズとドミトリは犬猿の仲で有名だったからだ。
会議は能力者の派遣を許可するという流れになっていった。
「ドミトリ、能力者たちの名は?」
ライズが訊く。
「アレンとディーンです。それぞれ、鉄と炭素の能力者です」
――ショーがパトカーの中の彼らの会話を長官の無線へ繋げていたのだ。
「なるほど。大勢の警察を突入させることはできないが、少人数なら対処できる可能性はあるということか。それに、君がこれほど入れ込むと言うことは、新しい対テロ用特殊部隊の件も期待していいのだな」
ライズがそう言うと、他の役員も同意したようだった。
「能力者2名を現場へ突入させるということで決定だ」
大統領が言った。案は満場一致で成立したようだった。
元素コラム 第四回
カリホルニウム Cf 98
能力者が出ないせいで放射線元素を紹介するしかない状況に追い込まれています。今回はカリホルニウム。アメリカの地名、カリフォルニアから名づけられています。因みにカリホルニウム1gは日本円で約7兆円ととても高価な元素です。




