#8:シカゴにて
爆発から5分、CIA長官のドミトリが編成した対能力テロ用特殊部隊の候補生の一人である、マーク・ベイルはアメリカ第三の都市、シカゴにいた。五大湖の一つであるミシガン湖の湖畔にあるこの街は、嘗てはギャングによる抗争が行われていた危険地域だった。今はその脅威も去り、人々は平和な日々を過ごしている。彼はここで、アンペールの信者である、『ファナティック』の活動拠点についての調査をしていた。どうやらファナティックの中にも派閥があるらしく、それらはラフィエン派とヴァラール派とに分かれているという。ここ、シカゴにはヴァラール派の拠点があるということまでが、マークのこの調査によって判明したことだった。
「まったく。昔はギャングの街だったけれど、今はカルト集団の街かあ。シカゴの市民たちが浮かばれないなあ」
彼はそう呟くと、左腕に巻き付けた時計を見た。今はもう昼時。彼は昼食をとってから一度ドミトリ長官に連絡をしようと考えていた。
突然、彼の携帯電話が鳴りだした。彼は突然の電話を不思議に思う様だったが、すぐに電話に出た。
「はい、マークです。何かありましたか? ドミトリ長官」
「マーク、よく聞け。五分前、ニューヨークでテロが発生した。能力者が関係した事件の可能性が高い。お前が一番現場に近いんだ。すぐにこっちに戻ってきてくれるか」
突然の要求に彼はとても驚いているようだった。だが、彼はすぐに歩く方向を変えると、こう返した。
「分かりました。すぐに向かいます」
「助かる。情報は追って送信する」
ドミトリが言う。そこで電話は切れた。
――彼もまた元素を操る能力者だ。彼の操る元素は銅。銅は非常に使い勝手のいい元素であり、作ることのできる合金の種類も多い。彼はこの元素を使いこなせるよう日々訓練を重ねている。彼はまだ22歳。候補生としての仕事はこの任務が初めてだった。
「また派手なことが起きたなあ」
彼は頭の後ろを搔きながら、ため息交じりにそう言うと、足早に大通りに出、手早くタクシーを拾って空港へ向かった。
空港に着くとマークはCIAのエージェントと合流するため、空港の一番端にある特別な滑走路を目指した。この滑走路は一般の客たちには存在すらも知られない、特殊な機体のみに利用される秘密の滑走路だ。
滑走路に着くためにはいくつものセキュリティを抜ける必要がある。マークは手早くそれらを抜けると、エージェントの待つロビーへと向かう。
待ち合わせ場所に着くと黒いスーツを着た男性が待っていた。彼がエージェントだ。彼は自らをフーヴァーと名乗った。
「よろしくお願いします。フーヴァー。俺はマークです」
マークも名乗る。
「これから我々は特殊な移動用高速機に乗ってテロの発生したニューヨークへ向かう」
フーヴァーは感情の籠っていないような、一定のトーンで口早に情報を伝える。
「了解です」
マークも短く返事をすると、彼らの乗る航空機へと向かう。
時刻は丁度13時頃だった。彼らの乗る航空機は最高速度マッハ1.5の超音速機だ。シカゴとニューヨークには約1000kmの距離がある。彼らの乗った航空機はニューヨークに約50分で着く予定だった。
彼らは航空機に乗り込んだ。操縦するのはフーヴァーだ。彼らの乗った機体にエンジンがかかり、滑走路を走り始める。
管制官からの合図とともに機体が地面を離れる。マークたちのフライトが始まった。




