第9話 やさしいゆめのねむり
きょうは、ひどいあめでした。
わたしは、あめのひってきらい。
おそらがはいいろになって、おひさまはどっかいっちゃうの。
そしてね、ざあざあっておとがするの。
ごろごろっておともするの。
おそとにでると、びしょびしょになっちゃう。
だからきらいです。
きょうはもうねます。
あしたははれますように。
いいにおいでめがさめました。
めをあけると、べっどのなかではありません。
どこだろう。そうおもいながらあるきました。
そのさきに、ひとがいました。
やさしそうなおとこのひとと、かわいいおんなのこです。
「おや、まいごかい?」
おとこのひとは、いいました。
わたしはうなづきました。
「おかあさんはどこ?」
「ここにおかあさんはいないよ」
おんなのこがいいました。
「ねえ、いっしょにあそぼうか。おやつにしてもいいよ。あそびどうぐも、おかしも、なんでもあるんだ」
おとこのひとは、いいました。
みてみると、あたりにはたくさんのおもちゃとおかしがあります。
「どれすもたくさんあるわ」
おんなのこがそういったとき、おんなのことわたしのおようふくが、おひめさまのようなどれすになりました。
「さあ、いっしょにおどりましょ」
「でも、わたし、おどれない」
「だいじょうぶ。いっしょならきっと、おどれるわ」
ふしぎなことに、わたしはかろやかにおどっていました。くるっとまわっていました。とってもたのしいです。
「ずっと、ここにいていいんだよ」
おとこのひとのこえに、わたしはうれしくなりました。
「うん、わたし、ずっとここにいる!」
朝になっても、娘の舞耶が、起きてきません。
今日は日曜日だし、少しぐらい寝坊するのはいいのですが……それにしても、何かがおかしいのです。
だって、もう朝の10時です。
「舞耶ー、起きなさーい」
呼んでも、舞耶は起きません。
仕方がないので、寝室まで向かいます。
舞耶は幸せそうな顔をして寝ています。でももう、流石に起こさなければなりません。
「舞耶、朝よー」
揺すってみても、起きません。
くすぐってみても、起きません。
何度やっても、起きません。
「舞耶っ!」
大声で叫んでも、起きません。
——嫌な予感がします。
舞耶の手をとって目を閉じた私は、舞耶の夢の中に入る呪文を唱えました。
おとこのひとと、おんなのこと、わたし。
さんにんであそんでいると、おかあさんのこえがきこえました。
「おかあさーん!」
わたしはおもいっきり、さけびます。
「どこにおかあさんがいるんだい?」
おとこのひとがたずねました。
「わかんない。でも、たぶんあっち。こえがきこえたの」
「こえなんてきこえなかったわよ」
おんなのこがいいました。しかし、もういちどきこえました。おかあさんがわたしをよんでいます。まや、どこにいるの? って。
「おかあさーん! わたしはここだよーっ!」
もういちどさけびました。
そして、もらったどれすも、あそんだおもちゃも、ぜんぶなげました。
もとのふくにきがえて、おかあさんのこえのほうへとはしります。
「ど、どこにいくの⁉︎」
「ふたりとも、さよなら!」
おんなのこのしつもんをむしして、おかあさんのこえのほうへとはしりました。
おかあさんがみえました。
「おかあさん!」
「よかった、みつかって……さあ、かえるわよ」
しがみついたわたしに、やさしくおかあさんがいったとき。
「いや、そのこはわたしがもらう」
おとこのひとのこえがきこえました。
さっきまでのやさしいこえでは、ありませんでした。
男は、私の後ろに隠れている舞耶を指差していました。
「さあ、その子を寄越せ」
「私の娘よ。貴方になんか、渡さない」
「ほう、それはわたしの正体を知っていて言っているのかね?」
目の前の男は余裕のある表情で笑います。
「分かってるわよ。貴方は悪魔の長、魔王」
私も余裕の表情を返してやります。
不意を突かれたように魔王は一瞬ポカンとし、次の瞬間には大声で笑いだしました。
「くふふ……あーっはっは! いかにもその通りだ。さあ、もう待ちくたびれた。その魂を寄越せ!」
やはり、予想通りでした。
舞耶のことを魔王が夢の中で惑わせていたようでした。そして眠らせたまま、魂を持っていくつもりだったのです。
奥には、魔王の娘も見えます。舞耶と年の近い娘を使って、油断させたのでしょう。
「ダメよ。私の娘は、渡さない」
私は舞耶の目線までかがみ、ささやきました。
「さあ、あっちへ走って。白い光が見えるでしょ? あそこに向かって走るの。分かった?」
「うん」
舞耶が走り出すと同時に魔王の娘が舞耶を追いかけ始めますが、悪魔と言えどもまだまだ子供。私が光の矢で射れば、すぐに消えました。
「ふふっ、お前は魔法使いか。娘が弱かったからと油断するなよ。わたしは魔王。悪魔の長だ。あんな子供と比べたら承知せんぞ」
「もちろんよ」
私は言いながら、魔王に向かって炎を放ちました。
「ぐっ……があっ!」
「油断したのは貴方よね」
不意をつかれた魔王は悶え苦しみながらも黒い矢をこちらにたくさん放ってきます。まるで逃げる隙を与えないように。でも瞬間移動をしてそれを避け、今までいた場所とは反対の位置から光の矢を放ち、トドメを刺しました。
意外にもあっけなく、魔王は消えました。
めがさめました。
「あれ、どんなゆめをみていたんだっけ」
きのうのゆめは、たのしいゆめとこわいゆめ、りょうほうだったきがするけど……よくおもいだせません。
きがつくと、わたしのてをにぎったまま、おかあさんがねています。
「おかあさんっ!」
「……なあに、まや」
わたしがおおきなこえでおかあさんをよぶと、おかあさんはおきました。こえがまだ、ねむそうです。
「なんで、てをつないだままねてたの?」
「……ないしょよ」
「えーっ」
わたしがぷんぷんおこると、おかあさんはくすくすわらいました。
「おはよう、まや」
「おはよう、おかあさん」
おそとは、きれいにはれていました。