第6話 「あかずのとびらよ、ひらけ」
「なんだろ、これ」
しいなはある日、ふしぎな扉を見つけました。
扉そのものは、なにもおかしくありません。
どこにでもありそうな、ただの扉。茶色い扉が、まちの教会に、あるのでした。
でもそれは、おしてもひいても、開かないのです。
力いっぱいひっぱっても、扉にとっしんしてみても、扉はびくともしません。
「はあ、はあ……。なんであかないの?」
「その扉が『開かずの扉』だからですよ」
そこに、しんぷさんがやってきて、いいました。
「この扉をあけたひとを、わたしは見たことがありませんよ」
「この扉の先には、なにがあるの?」
しんぷさんにしいなはたずねます。
「さあ。わたしも、扉の先のことは、しらないよ。あきらめるんじゃな」
「そんなあ」
しいははそれをきいて、けっしんしました。
(じゃあ、ぼくが、扉をあけるほうほうを、さがして、あけてみよう)
それからというもの、しいなは学校のとしょしつや、市のとしょかんに、いくようになりました。
市のとしょかんでは、本もさがしましたが、パソコンをかりて、しらべたりもしました。
扉のむこうにはなにがあるのか、かいてある本がありましたが、ことばがむずかしくて、しいなには分かりません。
しいなはますます、はやく扉のむこうにいきたい、とおもうようになりました。
そして、あるどようびに……
「あった!」
とうとう、しいなは見つけました。
開かずの扉をあけるための、じゅもんを。
しいなはじゅもんをメモして、教会まではしりました。
教会につきました。
教会では、だれかがパイプオルガンをひいていました。
でも、その人は扉のほうを見ていません。
しいなはしめしめと思いながら、メモしたじゅもんをとなえます。
「さあ、とびらよ。ひかりとやみにはしをかけろ。あかずのとびらよ、ひらけ!」
パイプオルガンの音が、止まりました。
それと同時に、扉がゆっくりと開き始めます。
「だめっ! 扉をしめて! その扉の先に、行っちゃだめ!」
女の人の声がします。この人がオルガンをひいていたのでしょう。
「なんで! 扉のむこうにいきたくて、じゅもんをとなえたのに! ……ぼく、いくよっ!」
「だめっ! ……ぜったい、かえってきてねっ!」
しいなはその女の人の声を聞き終わるかどうかというところで、扉のむこうにとびこみました。
しいなは、白いもやの中を歩きました。
どんどんあるいていくと、その先には……。
「あっ、 おばあちゃんだ! おーい!」
そう、さいきん会っていなくて、とても会いたかった、しいなのおばあちゃんがいたのです。
「しいなっ! ……よく来たね。すこしだけしかいられないだろうけど、ゆっくりしていっておくれ」
「……? はーい」
しいなは、どうしてすこしだけしかいられないのか分かりませんでしたが、おばあちゃんと楽しい時間をすごそうとおもいました。
おばあちゃんのかたをもんであげたり、おばあちゃんにむかし話をしてもらったり。
楽しくすごしていましたが、おばあちゃんが、ふいに言いました。
「しいな、もうかえるじかんだよ」
「えーっ、もう?」
「しいなは元の世界にかえらないといけないよ。知らずに来たのかい? ここは、あの世とこの世のさかいめだよ。しいなはこの世にもどらないと、おばあちゃんみたいに、あの世にいくことになるよ」
「!」
しいなは思い出しました。
おばあちゃんは、もう2年前に死んでしまっていることに。
開かずの扉についてかいてある本には、開かずの扉のむこうは、「彼岸と此岸の間の空間」とかかれていました。
しいなは「彼岸」のいみも、「此岸」のいみも、分かりませんでしたから、今まで気にしてきませんでした。
でも、おばあちゃんのせつめいで、分かりました。
「彼岸」はあの世のこと。
「此岸」はこの世のこと。
ここは、あの世とこの世のさかいめだから、しんでしまったおばあちゃんと、あえたこと。
でも、ちゃんと扉のむこうにかえらないと、じぶんがあの世にいくことになり、かえれなくなること。
つまり、しんでしまうことに。
「おばあちゃんっ……いやだよう」
「おばあちゃんもいやよ。でも、ちゃんとあの世に帰るからね。しいなもこの世にかえりなさい。ほら、あの光る方をめざすんだよ。
……またね、しいな」
おばあちゃんは、暗い方へ、暗い方へとあるいていなくなってしまいました。
しいなはなきながら、おばあちゃんとの約束を守るために、明るい方へ、明るい方へと走ります。
あの扉が見えました。もう、閉まりかけています。急いで走って、走って……。
とつぜん明るくなったので、しいなはまぶしくて目をとじました。
ゆっくりと目をあけると、そこは教会でした。
「……よかった。ちゃんと、かえってこれたんだね」
声のする方をふりかえると、そこにはあの女の人がたっていました。
「……おかえりなさい」
女の人にいわれたしいなは、
「……ただいま」
とおもわず言っていました。