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Rule~出雲大知の怪奇事件簿~  作者: がじろー
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一章「ひそひそ様のウワサ」




 五月十七日。

 那良(なら)県某所ーーーーーーーーーーーーーー。

 最近この街では開発が進み大型スーパーや高速道路、ファッションモール等が建ち並び賑やかさを増してきている。

 そんな中、ひっそりと目立たない場所に『出雲探偵事務所』が建っていた。

 「ふぁぁぁあ、暇だな~」

 その探偵事務所の所長、出雲大知(いずもたいち)は煙草を咥えながらテレビをボーっと見ているだけだった。

 書類が山のように積まれているデスクに同じく灰皿には山のような吸殻が積まれていた。

 残念なことだが探偵としては腕が良いのかも知れないが生活基準は底辺レベルな出雲は今日も暇な一日を過ごしていた。

 「所持金三千円でどう過ごすか………………パチンコ、競馬で一発千金いくか? いや、もっと現実的に考えよう」

 とまぁそれなりのダメ発言をしている出雲だったが、金運が限りなくゼロな彼にとってギャンブルは最早死亡フラグなのだ。

 「やっぱり競艇に行くか」

 そう結論付けると古い肘掛けタイプの椅子から立ち上がりスタンドに掛けていた黒いコートを羽織ると扉を開けた。

 「ひゃっ」

 「ぬおっ」

 丁度を開けようとしていたのかドアの向こうには見たことのない少女がバランスを崩し掛けていた。

 「危ねッ!」

 慌てて出雲が少女の腕を掴み、“思わず力んでしまった”。

 「(あ、ヤベっーーーーーーーーーーーーーー)」

 キィィィンと耳鳴りがした途端出雲の目にある映像(ビジョン)が浮かぶ。



 ーーーごめんね。

 それは少女の声。

 何に対しての言葉なのかは分からないがただひたすら謝罪の声が聞こえた。

 ーーー本当にごめんね。

 誰もいない席に向かって謝っている少女は後ろ姿でも泣いているのが分かった。

 ただ、色々な情報が混雑して映像(ビジョン)が乱れている。

 だが、その中でも一つだけ確認できた言葉があった。

 ーーー「『ひそひそ様』なんて教えて、ごめんね」



 「ーーーーーーーーーーーーーーっは」

 気付けば出雲は少女の腕をキツく握りしめていた。

 手の平がじっとりと汗ばんでいる。

 「あ、悪い」

 気取られないように少女を引き戻すと手を離す。

 「すまねぇな。急ぎだったもんで…………怪我してねぇか?」

 「は、はい………………すいません」

 見た目もそうだが大人しそうな少女はポツリと囁くような声だった。

 歳は十五~六と言ったところか、小柄で一見すると小学生か中学生にも見えなくはなかった。だがそれは彼女が着ている制服で一目で女子高生だというのが分かった。

 「零祭(れいさい)学院の制服…………あんなお嬢様高校の子がこんな汚いところに何か用か?」

 私立零祭学院ーーーーーーーーーーーーーー那良県内でも有名なお嬢様高校の生徒が汚ならしい場所、しかも探偵事務所に用なんてあるのだろうか?

 そんなことを思っていると少女は少しビクビクしながらも口を開いた。

 「あ、あの…………すいません、“依頼”をお願いしたいんです」

 出雲探偵事務所に久しぶりのお客様が来たのだった。





 久しぶりの依頼人(おきゃくさん)は県内にある私立零祭学院二年、白戸円香(しらとまどか)十六歳。

 久しぶりの客人なのでテーブルを片付けストックしていた筈の飲み物は賞味期限が切れていたので仕方なく常備していたコーヒー豆を挽くことから始めた。

 その間暇なのか手持ちぶさたなのかは分からないがキョロキョロと辺りを見回している。

 「すまんな、若い依頼人なんて滅多に来ないからコーヒーしかなくてよ…………………………そう言えばコーヒー飲めんのか?」

 「あ、はい大丈夫、です」

 「……………………………………」

 「……………………………………」

 会話が続かない。

 出雲はそんなに口下手なことはないが、若いーーーーーーーーーしかも女子高生とは話す機会なんてそうそう有るわけがなかった。しかも相手もそんなに喋りそうにないタイプなので変な無言が続いてしまうのだ。

 ようやくコーヒーが出来上がったので出雲が少女の前に差し出す。

 「どうぞ」

 「あ、ありがとうございます」

 一口つけると熱そうに顔をしかませていたが、

 「美味しい………………ですね」

 と感想を漏らした。

 「コーヒーは好きなんでな、香りで選んでそこから豆を挽くことがポリシーなんだ」

 「そうなんですね…………いつもインスタントなんでこんなに美味しいコーヒーは初めてです」

 ようやく緊張が解れたのか少し笑顔が出てきた。

 「リラックス出来たか?」

 「えっ?」

 「入ってくる前と後でかなり切羽詰まってそうだったからな。リラックスした方が話しやすいだろ?」

 そこで円香自身の肩の力が抜けていることに気付く。

 コーヒーの香りだけでここまで落ち着くとは思っても見なかったのだろう。

 「さ、話してみな。落ち着いてで良いから」

 そんな彼に促されてか円香はポツリポツリと語っていった。

 「あの、探偵さんにお願いしたいのは人探し、なんです」

 そう言うと円香は一枚の写真を差し出す。そこに写されていたのは二人の少女で一人は白戸円香、そしてもう一人横には明るく笑う少女が写っていた。

 「彼女の名前は菊池桃花(きくちももか)で私の………………友人なんです」

 円香はうつ向きながら喋るが段々と声が小さくなっていく。

 「人探し、ねぇ」

 出雲が呟いた。

 普通人探しは警察に頼むのが常套である。わざわざ探偵を雇うと言うことは余程の理由があると思うのだが…………

 「警察には? 大体親が捜索願い出してたりするもんだと思うんだが」

 「それはもう出してます。本来、私達は寮暮らしなのですぐに居なくなったのが分かってたんですが……………………学校側が勝手に脱走したと決めつけていて、桃花の親に連絡がいってなかったと思います。それで三日前に桃花の両親が警察に捜索願いを出したんです」

 「なるほどね………………で? 居なくなったのはいつなんだ?」

 円香は手帳を取り出し日付を目で追う。

 「五日前の十二日です。その前の十一日はちゃんと学校に居ましたから」

 出雲は簡単に事務所にあったホワイトボードに書き込んでいく。


 五月十一日 → 菊池桃花(十七) 学校目撃。


 五月十二日 → 行方不明。


   十三日 →


   十四日 → 菊池桃花 両親 警察に届けだす


   十五日 →


   十六日 →


   十七日 → 事務所に依頼。


 「っと、こんなもんか…………しかし二日居ないってだけでよく両親は気づいたな。この歳の女の子は寮から脱走とか割りとありそうなんだが?」

 確かにこの年頃は色恋沙汰には盲目になりがちで後先考えない子も居ることは居ると思うのだが、それを円香は首を降って否定した。

 「確かにそう言った理由で脱走した人はいたんですが、去年から校則の改変や校門と裏門の他に監視カメラが数十台設置された事もあって脱走する人は居なくなったんです。でも…………それでも居なくなった人もこの一年で何人かいたので先生方も菊池もそうだろうって勝手に決めつけて………………でも桃花はそんな事するような子じゃないんですっ。ちゃんと毎晩両親に電話して報告したり自分より他人を気にしたりいい加減な事はしないんです」

 悔しいのか円香はスカートの裾をキツく握りしめた。

 出雲はそこまで話を聞いていてふと頭を動かした。

 「(学校は騒ぎを大きくしたくなかったから隠蔽でもしたのかね? いや、でもそれなら生徒にも口止めしたりとしてるはず。両親が動いた日にち的にもおかしいところは見当たらない………………なら脱走した? いや普通校門と裏門だけじゃなく他にも監視カメラが付けられたって言うんなら穴を見つけるのはプロでもないと難しいか………………)」

 「そういや去年から校則の改変って言ってたけど、それってどんなんだ?」

 「えっ?」

 「いや今言ったろ? 色恋沙汰とかで脱走するやつがいたって…………」

 そこまで言うと円香は鞄から生徒手帳を取り出しそのページを見せてきた。

 「この今年度より改変って書いてあるところです」

 確かに彼女の言う通りそこには、



 『恋愛禁止 → 恋愛の自由。但し節度をもって行動すること。学業に支障をきたす場合は外出制限。最大外出時間は六時間。学院、及び寮から外出する際は報告の義務がある。申請書を発行する事』



 と書かれていた。

 なるほど、と出雲は頷く。恋愛禁止の校則からここまで緩くなるとあまり不満を出す者も居ないのだろう。

 数ページほど捲るとふと気になる校則に目が止まった。



 『学園内では流行り事、流行り遊びは禁止。この者を停学処分に処す』



 「なぁ、これ………………………………なんだ?」

 その校則を見せると白戸円香の表情が強ばった。

 明らかに何かに怯えているようにも見える。

 「流行り事や流行り遊びって何なんだ? っつーかそれだけで停学処分って変な気合いの入れ方だな」

 「いえっ、その………………あの……………………」

 言葉を詰まらす。

 何となくだが、出雲は先程の映像(ビジョン)を思い出す。

 ひたすらに謝り続けていたのは目の前にいる彼女だろう。あの悲しげな声は“何かが原因で菊池桃花が居なくなったのは自分のせいだと”思い込んでいるからこその謝罪のように思えた。

 ならばーーーーーーーーーーーーーー。

 「なぁ、『ひそひそ様』ってーーーーーーーーーーーーーー何なんだ?」

 「ッッッッッッ!!」

 あからさまな動揺を円香は見せた。

 「ど、どこでそれをっ! わ、私話した!?」

 「あぁ気にすんな。チラッと小耳に挟んだだけだよ………………で? それってなんなんだ?」

 口を開くのに何度か身を乗り出そうとしたりして口を紡いだりを何度も何度も繰り返している。

 そして、何かを決心したかのように円香は口を開いた。

 「これは、零祭学院に昔からある話なんですけどーーーーーーーーーーーーーー」





 ーーーねぇ、『ひそひそ様』って知ってる?


 ーーーあぁ、聞いたことあるよ。確か自分の知りたい事を小声で囁いてくれるんだよね?


 ーーーそうそう。でね、隣のクラスの子とか三年の先輩も『ひそひそ様』に教えてもらったんだって。


 ーーーへぇ、何を?


 ーーー無くしたものとか、テストのヤマとか。あと運命の人ってのもあったなぁ。


 ーーーありきたりだけど面白そうだね。ね、どうやって呼ぶの?


 ーーー確か、放課後の教室で真ん中の席に一人で座るの。それで机の中央に人形を置くんだって。そこからその人形に顔を近付けて囁くの。『ひそひそ様ひそひそ様お出でください』って。なら耳元で『何か用?』って聞かれるからその時に自分の知りたいことを聞けばいいんだって。


 ーーー何だ簡単じゃん。ウチもやってみよっと。


 ーーーいいけど気を付けてね。手順とかやり方を間違えると『ひそひそ様』は怒ってその人を消しちゃうって噂だから。





 「と言うのが『ひそひそ様』の伝説………………です。多分ですけどその呼び出し方を間違えてしまったから桃花は消えちゃったのかなって思って」

 「いや、この時代にそれはどうよ…………」

 思わずつっこんでしまったが聞いただけではよくある都市伝説とそう変わり無い内容だった。

 「おいおい、じゃあ何か? その都市伝説のせいでその菊池桃花って子は居なくなったってのか?」

 だが、手掛かりが全く無いのだからここは話を合わせた方がいいのだろうか。

 そう悩んでいた出雲だったがそれをどう捉えたのか円香は胸を撫で下ろすように小声で「よかった……」と呟いた。

 何がよかったのかを聞くと、

 「いえ、刑事の方が教えてくれたんです。出雲探偵事務所に行けば親身になってくれるって………………」

 円香は立ち上がり頭を下げる。

 「お願いです。どうか、私の親友を探してください! お願いします!」

 年下、しかも女子高生に頭を下げられると反応に困ってしまう。

 正直受けるかどうかを迷っている出雲がいる。

 だが無下に出来るほど鬼でも無いしそして彼女は先程“刑事が教えたと言っていた”。そんな事を平気で言ってくるのは一人しか思い浮かばない。

 「その刑事さんって、もしかして米山ってじーさんか?」

 「はい、米山って言えば分かるって言ってました」

 どうやら嫌な予感は当たるようだ。

 出雲が頭をガシガシ掻くと諦めたかのように一息吐いた。

 「分かった。この依頼受けるよ………………但し依頼料は頂くぞ」

 「ッッッッッッ!! ありがとう、ございますっ」

 円香は改めて深々と頭を下げる。

 その日は寮の門限も迫っていたので連絡先だけ聞いて円香を帰した。

 出雲はそれを見送ると椅子に座り持っていた煙草に火を着ける。

 「ふぅ」

 先程の話を思いながら肺に紫煙を送り込む。するとすぐにドアをノックする音が聞こえたがそれを出雲は無視を決めることにした。

 「勝手に入るぞーって居るんじゃねぇか。返事でもしたらどうだい?」

 入ってきたのはよれよれのスーツを着た六十手前の男だった。そして彼の後ろにはキリッとした表情の女性もいた。

 「そろそろ来る頃だと思ったよ、ったくいい加減な仕事しやがって」

 「ははっ、だが久しぶりの客を回してやったんだ。感謝してほしいぐらいだぞ」

 米山啓示(よねやまけいじ)ーーーーーーーーーーーーーー白戸円香に出雲を紹介した警察官だった。

 「ヨネさんも年なんだから大人しくすりゃいいのに…………で? 来た理由ってのは零祭学院の件か?」

 「あぁ、今さっきその学校に聴き込みに行った所よ。わりぃがコーヒーを一杯貰うぜ。北条、お前も飲むか?」

 米山が一緒に連れてきた女性、北条と呼んだ彼女はありがとうございますと短く返した。

 「新顔だな…………新しく入った部下か?」

 「おう、紹介が遅れたな。北条、コイツが俺の言ってた出雲だ」

 すると女性は背筋を伸ばすと自己紹介をした。

 「捜査一課の北条咲樹(ほうじょうさき)です。米山さんからはお話は伺っております。よろしくお願いします」

 話を伺っているとはどんな内容なのか気になるのだがそれより気になることがあった。

 「捜査一課って…………ヨネさん、少年課じゃなかったか? いつの間に移動になったんだよ」

 勝手知ったる何とやら、米山はコーヒーを二杯分入れると好き勝手に砂糖とミルクを入れだす。

 「あぁ? いいや、違うぞ。俺ぁ最初から最後まで少年課だ」

 「それについては私が説明します」

 北条咲樹が出雲に向き直りその辺りの事情を説明し出した。

 行方不明になっている菊池桃花は中学時代荒れていたらしく何度も繰り返し補導されている経歴があった。

 その時に菊池家の両親共々、米山に面識があり今回の失踪も相談を受けたらしい。

 本来失踪者や行方不明者は警察では何処かで見つかった時の連携をしやすいために捜索願いを受けるものであり、法律を犯したものを探すといった事件性がなければ言い方は悪いが動く事は無いのだ。

 つまり、米山は警察として動く事は出来ないから出雲を紹介したというわけだ。

 「あ、なるほど、刑事さんじゃなくて啓示の間違いか…………ややこしい。で? 何でそこから捜査一課の北条さんが一緒に動いてるんだ? 事件性がないんだろ?」

 「ええ、最初は私も思ったんですが少し気になることがあったので…………米山さん、話しても?」

 米山は後は任せる、というジェスチャーをするだけだ。

 「実はその零祭学院ですが……………………今年に入って失踪者が五人になるんです」

 思わず出雲の動きが止まった。

 今年と言うことは少なくとも月一に一人のペースでその学校から人が居なくなっていると言うことになる。

 さすがに異常だった。

 「なるほどな。だからヨネさんは俺と北条さんを動かして調べようとしてたわけかい。事件性は無いけど何かあるっていつもの“勘”が働いたわけだな」

 「まぁそう言うこった。しかしお前もマメだな、興味があると書く癖ってのは相変わらずだな」

 「何もしねーよりマシだよ。さて、なら俺は明日から動くんだけど…………北条さんはどうする?」

 すると少し考えてから北条咲樹は応える。

 「実は少し気になることがあるので、午前中は別で動きます。もし用があれば私の番号を教えておくので連絡ください」

 咲樹の番号を手に入れそれを仕事用の携帯電話に登録をした。

 「おっけーっと。んじゃま、明日から動きますか」

 気になることが山のようにある。

 だがそれを一気に解決するのは難しい。

 今は少しずつ一歩を進めるのが肝心なのだからーーーーーーーーーーーーーー。

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