5-5-1
本日一話目です。
「あー……。やっぱり体なまってる。最近剣なんて振ってなかったし、激しい運動もしてなかったから当然かねぇ」
これまでクレアとクレアが召喚したグラディスたちは暴走したグラディスを百体近く倒していた。主にアクアドラゴンとクレアだったが、他のグラディスがやられていないのは賞賛にあたる。
黒い光の前に残っていてあまり動きを見せない三体の暴走したグラディス。この三体が出てから黒い光の中から他のグラディスが出てくることはなかった。まるで黒い光の門番だ。
今は良いかもしれないが、時間が経てばまた出てくるかもしれなかったので、今が好機だった。
「マミ、トールさん。小さいの二体って任せられるかい?」
「わたしは、たぶんだいじょーぶ。トールは?」
「もちろんいけるさ。だがクレアさん。大きいのを君がやるのか?俺が代わってもいいが?」
「あー、それは大丈夫だと思う。トールさんはこの黒い光を気にしておいてくれるかい?あたしが集中すればこのデカブツくらい何とかできるから」
そのデカブツであるグラディスは校舎三階の大きさに匹敵していた。それをトールに任せるという選択肢もあったはずだが、クレアはそれを選ばなかった。
「手空いたら手伝ってよ。今のあんたらなら、この小さいのくらいはすぐだろう?」
マミがうなずいたことでトールは左側の小さいグラディスに向かって走り出していた。それを見たグラディスは危険を感じ取ったのか羽を使って飛ぼうとしていたが、ルナの光によって羽を攻撃され、地面に叩きつけられていた。
その二体に対してトールが雷撃を落として、さらにマミは簡単な契約のみをして、月の光を契約物にして光の矢を降らせた。
門番のようであったグラディスたちはその攻撃によって呆気なく聖晶世界に帰っていった。
残るグラディスにはアクアドラゴンが息吹を放ち、その反対からクレアが斬りかかっていたが、それを感じ取っていたのか、飛ぶわけではなく跳んだ程度で避けていた。
ルナとトールも優先的に羽を狙ったが、どちらも避けられてしまった。
暴走したグラディスは今度は本当に飛び、上空まで高度を上げてから校庭に向けて炎の息吹を放った。アクアドラゴンとウォーターフェアリー、トールとトールのウンディーネが水を産み出して防いでいたが、それでようやく互角のようだった。
「まったく、上級が暴走すると面倒だな」
そうつぶやいたのはクレアだったが、そのつぶやきは誰にも聞こえていなかった。ゴーレムの肩に乗ったと思ったら、そこから跳んで暴走したグラディスの目の前にいたのだ。
「はっ!」
おそらく顔にあたる部分を斬ったのだが、クレアの剣は弾かれてしまった。さっきまで倒していたグラディスのことは簡単に斬れたので、このグラディスが異様に硬いのだろう。
クレアは一応刃こぼれを確認したが、召喚した時と変わっていなかった。単純な力負けと、武器の性能によるものだ。
クレアが召喚したこの剣はせいぜい中級程度。目の前のグラディスは元が上級で暴走した個体。弾かれてもおかしくはない差だった。
弾かれたためにただ跳んだだけの状態だったクレアは重力によって自由落下していった。校舎よりも高い高さから落ちたら大怪我どころか、下手したら死んでしまう。体勢も狂っており、このままでは背中から落ちてしまう。
「アクアドラゴン!」
さっきまで炎の息吹を止めていたアクアドラゴンは軽く浮かび上がって背中でクレアのことを受け止めていた。クレアはアクアドラゴンの背中に乗るために宙で一回転し、きちんと足から着地していた。
「このまま上昇していろ。『ワタシ』があいつを聖晶世界に戻す」
「―グルルルル……」
「心配するな。全部思い出したし、やっと体が慣れてきたんだ。別にあいつは幻想級だったわけじゃない。すぐに片が着く」
その言葉を聞いて心配していたアクアドラゴンは呻き声をやめて、さらに高く上昇していった。それに暴走したグラディスもついてきて、雲の上まで来てしまった。
これでは地上からは誰一人としてクレアたちのことを見ることはできないだろう。
それを確認してからクレアは二つの剣を元に光を放ち、新しい長剣を取り出した。
紛れもない二重召喚。
両手で持つような柄にクレアの身長を超える刀身。刃に刻まれた金色のレリーフ。研ぎ澄まされた白銀に輝く刃。
それはお伽噺に出てくるような、誰もが見惚れてしまうような綺麗な剣であり、そんな剣が制服を着た赤髪の少女に握られており、その少女はドラゴンの背中に乗って黒くて正体のわからない存在と戦おうとしている。
こんな誰もが聞いたり見たりしたら思わず笑ってしまうような光景をお伽噺と言わず、何と称することができるだろうか。
この後十八時にもう一話投稿します。




