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5-2-2

本日二話目です。


 これまで二十回もの召喚をしている召喚士の光としては尋常であり、その光を放っているのがマミだというのは周りの人間からすれば驚きであった。

 知っている人からすればランクの低い召喚ですら失敗し、暴走させてしまう研究者を目指す少女。

知らない人からしても、この場にいるということは召喚について追試を受けに来た人間だという認識はあった。


「一、長時間保って。

 二、クレアたちの邪魔をさせないように強くあって。

 三、円形として形を保って。

現れて、今のわたしの全開!」


 マミは召喚を起こすと、クレアたちの周りにまるで結界のような光の壁を作りだしていた。しかもさっきまで召喚していたようなすぐに消えてしまうような攻撃ではなく、クレアの突撃を守るために外部と切り離すための代物。

 クレアの近くにいた暴走したグラディスたちは光の外側に弾かれ、クレアを襲おうとしても逆に伸ばした腕が吹き飛んでいた。


「最高だよ、マミ!あんたはこの学校で一番の召喚士だ!」


「さすがに、上級のアクアドラゴンと他の生き物も複数召喚してるクレアには勝てないよ」


 弱い個体であれば、マミの結界に触れただけで消えていった。この結界を判定するなら上級としても過大評価ではないだろう。

 マミはこの結界が消えないように維持することだけを考えていた。生き物の召喚と同じだ。維持し続ければクレアは目の前と新しく黒い光から出てくるグラディスだけを相手にすればいい。


 それだって大変だが、これがマミの限界でもある。

 外にいるグラディスならトールが処理してくれる。内側はクレアがどうにかしてくれている。これであとは国防軍の反喚部隊を待てばいい。トールとクレア、それに反喚部隊がいればさすがにこの事態は収まるだろう。

 だが、その考えは甘かった。


「マミ!危ない!」


 トールのその声で左側から一気に近付いている個体が六体ほどいるのに気付いた。トールも向かって来ているが間に合わないだろう。

 結界が壊せないのであれば、結界を作りだしている召喚士を倒してしまえばいい。理性などなくても暴走したいグラディスなら当然思い付く考えだった。


 マミはポーチの中に手を突っ込んだが、あるのは砂金が入った小瓶だけ。それを出して瓶の蓋であったコルクを片手で開けてマミから少し前方の上へと投げた。

 そうして砂金は空中へとばら撒かれた。夏の日差しが強い中、それは光を受けて煌めいてくれた。その煌めきをマミは結界を維持していない左手で利用して召喚の光を放っていた。


「一、結界が崩れない程度の強さで現れて。

 二、降り注いで。

以上!」


 結界が崩れてしまっては何の意味もない。迎撃さえできればいいので、マミは見えている暴走したグラディス全員に降り注ぐように細い光の雨を召喚した。動きさえ止めてしまえばトールが倒してくれる。

 思った通り、トールは炎を召喚してマミの目の前のグラディスを倒してくれた。


「全く、無茶をする」


「わたしが危なくなったら助けてくれるんでしょ?」


「そういう契約だからな。……考えたじゃないか、砂金を光を集める媒介にするなんて」


 咄嗟に思い付いただけだった。

 光を召喚するのがマミには向いているのかもしれない。それなら光に関連するように契約物を使えばいいだけなのだ。

 契約物だって物だ。物には様々な用法がある。想定されている使い方以外もできるのだ。


「だが、もっと単純に物事を考えてもいいだろう?その光の大元を使えばいいじゃないか」


「太陽?」


「まあ、光には様々あるが、使ってもいいんじゃないかというアドバイスだ。あとは……」


 トールは太陽とは違う方向の空を指した。

 その方向を見ると、うっすらとだが、基本的に夜にしか見えないものがあった。


「今は太陽のせいで弱々しいが、あれだって光を放っている。どっちがマミに向いているかは俺にはわからない。どっちにしろ、契約物を用意しなくて済むだろう?」


「月か……。あと、夜なら星の光もいいかもね。今は見えないけど」


「この前の夜、蓄光石を使った召喚で用いたいのは月か星の光だろう?そっちの方がマミには向いているかもしれない。慣れてるだけかもしれないが」


 それだけ言ってトールは再びグラディスの群れへと駆けていき、倒し始めた。

 炎や雷、更には風や岩、水までも使って倒していた。暴走したグラディスにも属性はあるのだからそれに適した属性を使い分けているのだろうが、トールがグラディスだと知ったらどれだけの人間が驚くだろうか。


 五属性の力を使い分ける人型のグラディス。そんな存在は召喚が発見されてから数百年経っているが、未だに発見されていない。

 マミのことで驚いていて、トールのことでこの場にいる人間は驚いているが、トールがグラディスでそのマスターがマミだと知れば、今以上の驚きとなる。


「やっぱり、バレないようにしないとな……」


 そう呟いた後、マミは月へと左手を伸ばした。

 召喚による倦怠感のようなものは感じない。ということはマミはまだ召喚ができる。

 召喚をして疲れや倦怠感を覚えたらそれ以上召喚するなと教えられてきたが、そんなことは今まで感じたことはない。


 月の弱い光も契約物として認められたのか光が現れた。聖晶世界へと意識を飛ばすと、いつもと風景が違った。靄があるにはあるのだが、目に映る色が全て白だったのだ。

 よく観察してみると、それは雲のようだった。その雲の上に何故かマミは立っていた。

 雲は固体ではないので本来立てるようなものではない。考えられるのは聖晶世界の常識がコルニキアと異なるのか、またはマミが意識を飛ばしているだけであり、実体がないから立っていられるかだ。


「何でこんな所に……?」


 辺りを見回してみるが、空と雲があるだけで鳥などが飛んでいるようにも見えない。いつものように聖晶世界の地上にいるわけではないようだった。


「―あなたが私を召喚するのに足る人物だったからですよ」


 声は目の前から聞こえてきた。さっきまではいなかったはずなのに、いつの間にかマミの目の前に女性のシルエットをした、鳥のようなものとは違う黄色い羽の生えた存在がいた。手には長い杖を持っており、身長はマミの倍ほどあった。


「あなたは……?もしかして天使、とか?」


「―そこまで位は高くありませんよ。初めまして、マミ・フェリスベット。私は月の上級精霊、ルナ・ミラスです。ルナとでも呼んでください」


「月の上級精霊?……まだまだ知らない存在がいっぱいいるんだなぁ」


「―実際にコルニキアに来てもいないのに、コルニキアの全てを理解することなどできませんよ。初めて召喚を行ったジュン・ルイベスですら全てを知りえなかった。まぁ、彼にも様々な事情がありましたが」


「じゃあ、フーバー・デオ……ルフィア・シィリィは?彼女が聖晶世界を見付けたんでしょう?」


 その質問にルナは答えてくれなかった。特に表情を変えることなく、ただ微笑んでいるだけで肯定も否定もしてくれなかった。


「ごめん。こんなこと聞いてる場合じゃなかったね。ルナ、お願い。力を貸してほしいの」


「―ええ。力を貸しましょう。暴走したグラディスの方々も解放しませんと」


 マミが左手をルナに伸ばすとコルニキアに意識が戻っていた。

 すぐ目の前にルナがいて、地面から浮いていた。地面に足がついていないのだ。

 そして、左手に持っていた杖を水平に一度振った。それだけでさっきマミがやった細い光を降り注ぐことをやってのけてみせたのだ。それでグラディスの動きを止め、トールが一気に片付けていた。


「―マミ。私は他の上級精霊と異なり、前線で戦うことに慣れていません。後方支援ばかりしていて、接近戦などは得意ではないのです」


「え?そうなの?っていっても、上級精霊がそんなに戦えることを知らないんだけど……。大体今みたいに光を使うんじゃないの?」


「―私はそうですが、四大属性の精霊ともなると接近戦もするのですよ。私は見た通り杖を持っていますが、あくまで光を使うための補助具のようなもので」


 マミはそこまで上級精霊を見たことがない。だから戦い方など言われてもわからないし、今召喚できたのも謎だ。何か召喚しようと思ったらできただけ。本当に召喚はよくわからない。

 だからこそ研究のし甲斐があるのかもしれないし、面白くもあるのかもしれないが。


「とりあえずわたしはあの結界を維持するから、あの結界の外にいるグラディスをとにかく攻撃してくれる?トールと協力してくれればいいんだけど」


「―トール?」


「うん、わたしが召喚した存在なんだけど……」


 ちょうど結界の周りで戦っているトールを指差すと、ルナは少しだけ顔を訝しくした。だが、気にせずトールの援護をしてくれた。


「―たしかにあなたの召喚したグラディスでしょうが……。初めて見ました」


「そうなの?聖晶世界に住んでても知らないんだ?」


「―私の役目が聖晶世界でも特殊だからでしょうね。天使の住む城を守るのが役目ですから」


「守る?何から?」


 聖晶世界で争いは起きていない。それはトールから聞いたことだ。クレアからも聞いたが、聖晶世界の存在が言ったことの方が信憑性がある。


「―人間からですよ。どんな人間が天使を召喚しようとしているのか。それを量るのが私というわけです」


「査問官ってこと?それだけ天使って特別な存在なんだ」


「―聖晶世界でも特殊な立ち位置ですよ。変わった方々が多いですが、昔本当に変わった方がいましてね……。すみません、少し話が脱線してしまいました」


 ルナがまた杖を横に振ったので光を放つと思ったのだが、実際にはホーリーフェアリーを呼び出していた。

 光の中から現れた五体の小さな光を纏った羽の生えた存在。

 やはり聖晶世界にグラディスを呼ぶには光をくぐってこなければならないのだ。


「なんとかなりそう?」


「―あなたとあの赤髪の少女次第でしょうね。あなたが倒れたらあの赤髪の子が倒れる。あの赤髪の子が倒れたらあの黒い光を壊せる人がいなくなる。あのトールという存在でもいいでしょうが、彼だって迎撃で忙しい」


「それぞれの役割を果たそうってことだね?」


「―そうです。あなたはあの結界と私の存続だけを考えていてください。そうすればあの子がどうにかする」


 マミはルナに言われた通り持続だけに全ての意識を委ねた。マミを襲おうとするグラディスはルナとホーリーフェアリーが倒してくれた。

 あとはクレアを信じることだけだった。



明日も九時に一話、十八時にもう一話投稿します。

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