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5-2-1

本日一話目です。


   2


「ヒュイカ、大丈夫か?」


 ヒュイカが腰を抜かして助けられた時には、目の前に一人の大きな男の人が立っていた。

 今目の前に迫っていた脅威を取り除いてくれたのはこの人が放ってくれた電撃によるものだ。マミが救援として呼んだのはわかるが、ヒュイカからしてみれば来てくれるとは思っていなかった。

 二十代ほどの、それなりに引き締まった体つき。薄緑色の肩までかかる長髪に、夏だというのに暑くないのかと思う足元ぎりぎりまである青色のローブ。人を引き込むような、セピア色の鋭い双眸。

 ヒュイカはそんな人が心配してかけてくれた言葉に返すことができなかった。来てくれた嬉しさと、その前までの恐怖が混ざって動くどころか口すら動かすことはできなかった。


「ふむ、まあ動けなくても仕方がないか。それにしても無防備すぎないか?避難した生徒を誰も守っていないだなんて。さすがにウォーターフェアリー五体では足りないだろう」


 そう言って彼は両手から召喚の光を出した。中から出てきたのは三体の上級精霊。イフリート、ウンディーネ、シルフ。シルフは風の上級精霊であり、一メートル程度の少女に小さな羽が生えている。

 そしてそこら辺に落ちていた石を拾い、もう一度召喚を行った。今度出てきたのは土属性の上級精霊ノーム。これで四大属性と呼ばれる上級精霊が全て揃ったことになる。

 ここは首都のコロシアムではないため、そんなことができるトールに対してざわめきが起こった。メッサのコロシアムの情報を調べていない人にはトールのことはわからないため、このざわめきは起こって当たり前だとも言える。


「お前たち、この子たちを守ってくれ。俺はマミの方に行く」


「あの、トールさん……。ヴォルトは、召喚しないんですか?」


 ヒュイカがようやく言えた言葉だった。お礼よりも先にそんな言葉が出てしまった。

 ヒュイカが知っているトールのことはイフリートとヴォルトを召喚したこと、あとは雷神トールと通り名をつけられたことぐらいなのだ。


「ヴォルトなら外にいる。あぶれたやつを倒してもらうつもりだ」


「そうですか……」


「じゃ、行ってくる。ここにいる人間は怪我したくなかったら動くなよ?精霊が守ってくれるからな」


 トールはそうして走り出した。その後ろ姿をヒュイカは見守ることしかできなかった。

 トールが来たからといってそこまで状況は変わらなかった。トールはたしかに多くの暴走したグラディスを倒してくれているのだが、それ以上に黒い光から出てくる暴走したグラディスの方が多いのだ。


(どうしよう……)


 マミのポーチの中に蓄光石はあと二つしか残っていなかった。これのおかげで光を数多く召喚できているのだが、尽きてしまえば何にもならない。

 空気があれば火や水を召喚することができるが、存外目に見えない契約物というものは人間には扱いにくい。

 風のように感じることができれば五感が働いたことで神経が活性化し召喚に扱いやすくなるのだが、五感が働かないようなものは感じるという理解ができないために召喚には不向きなのである。


 もちろんマミは今まで自分が召喚は不得手だと思っていたために、目に見えない契約物を使ったことなどない。

 そして得意になり始めている光属性の契約物がなくなりかけているマミにとって、今の状況は召喚士としてどうしようもできなかった。

 契約物のない召喚士など、こんな事件の最中ではただのでくの坊でしかないのだ。弾丸のこもっていない拳銃と同じだ。


(考えろ、考えなさい!マミ・フェリスベット!あなたの頭は何のためについてるの!)


 頭をフル回転させながら周りの状況を見て、今のマミがやるべきことであるクレアの援護を最優先した。

 一個蓄光石を使い、遠くからクレアへ近付いている暴走したグラディスの群れへと光の塊を放った。

 暴走したグラディスたちの現状の主な標的はクレア、マミ、トールである。

 その三人が自分たちを脅かす存在であり、自分たちを倒すことすらできない二人の教師と避難している生徒たちは視界にも入っていなかった。


 暴走したグラディスに理性などなく、コルニキアに存在していられるマナが尽きるまで本能で動いている獣たちでしかなかった。

 元々グラディスは多くの種が人間を超える身体能力の持ち主であり、それを聖晶世界では発揮できていないだけである。

 そんな存在がマナが尽きるまでという制約以外何も受け付けず、そして理性が崩壊しているのであれば、人間目線で暴走しているというのは当然なのであろう。


「クレアがあの黒い光に辿り着くまでもう少し……!」


 黒い光の近くほど暴走したグラディスが集まっているが、クレアと召喚したアクアドラゴンやゴーレムたちも負けていない。

 ゴーレムが大きな体を利用して動きを止め、フェアリーたちも足止めをして、そこを威力のあるアクアドラゴンの吐く息吹きやクレアの剣によって確実に数は減っていった。

 マミは剣について詳しくなかったのでよくわからないが、クレアが持っている剣に大した特徴・装飾は見られなかった。

 つまり名前が通った剣ではないのだろう。それなのに暴走したグラディスを倒し続けているということはクレアの剣技が優秀だということだ。


 さらに二刀流というのは最低でも一本小刀でなければ難しい。

 本来両手で持つような剣を片手で持ち振るということは筋力という面を除いても感覚的に難しい。片手で剣を振るということに慣れていないとできない芸当なのだ。

 あとは剣を振る軌道だ。両手で振り抜けば、振り抜いた先に軌道を邪魔するものはない。

 だが、振り方によれば剣と腕の軌道の先にもう一つの剣及び腕があることもある。それによって本人の全身のバランスが崩れてしまえば、そこを相手につけいれられる。


 こういった様々な困難な条件がありながらも剣についての初心者がその動き一つ一つを綺麗だと感じてしまうということは、クレアの剣技の優秀さを裏付ける要因の一端を担っている。

 そんなクレアにマミがしてやれることは最大限の支援。クレアが黒い光の中心に向かえば向かう程多方向から攻められる。

 それを防ぐのが今のマミの役目だ。

 今クレアの周りにはクレアの姿が見えなくなるほどに暴走したグラディスが集まっている。マミの手元に安心して使える契約物は蓄光石一つのみ。それが最後の召喚になるかもしれなかった。


「できることを、わたしはしなくちゃ……!」


 マミは蓄光石を掴んで召喚のための光を出した。それは今までのものよりも随分と大きな光だった。


この後十八時にもう一話投稿します。

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