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本日一話目です。
それよりも伝えるべきことがあったからだ。話すのであれば、グレイムが良いと思った。
「……今回迷惑をかけたお詫びとして一つ、最近の召喚はおかしい」
「勘違いしたのはこっちなんだが……。それより聞き捨てならないな。召喚がおかしい?」
グレイムの聞き返しにうなずいた後、トールは光を出してイフリートを聖晶世界へ戻した。もう用事は済んだので、いつまでもコルニキアにいさせる理由もないのだ。
「聖晶世界への干渉がおかしい、というべきかもしれないな。暴発事件が続出していないか?」
「たしかにそうだな……。おたくのマスターがいる学校でも今月だけで二回あったぜ。片方はただの力の入れすぎだったが、もう一つは故意の暴発だったな。しっかし、最初の子には笑わされたよ。自分の実力を理解していないだけなのに」
思い出し笑いをグレイムがする。彼女は学生としても、一召喚士としても真摯であったのだろう。だから誠心誠意謝ってきた。そんな彼女のことは羨ましかった。
グレイムは少々、特殊だから。
「そういうことが言いたいわけじゃない。契約も力も十分な召喚士が失敗する。聖晶世界に帰ってくる生き物で疲弊して帰ってくる奴もいる。そいつらからの伝言だ。契約物がおかしい」
「契約物が?」
契約物は一度召喚に使うと消えてしまう。だから召喚を司る召喚省でも確認が難しいのだ。売り出される物は一度全部召喚省によって確認されている。
それ故に召喚士は安心して召喚に使うことができるのだ。
「鳥の羽根だってワイバーンを召喚することはできる。羽根というファクターさえ合致すれば、召喚士の力量にもよるだろうが、今回は別だ。契約物は正しいのに、暴発してしまう」
「召喚士が与えるマナが過剰だったってことはないか?学校の一件もそれだ。本人は蝶と蛾を間違えたと思っていたが、その二つは生物学的に同じものだ。マナの過剰摂取で暴走したんだよ。そういうことじゃないのか?」
「残念ながら違うだろうな。お前は生き物を召喚するわけではないから大丈夫だろうが、一応気を付けておけ。変な武器が聖晶世界から出てくるかもしれない」
召喚の失敗をグレイムはしたことがなかった。
だが、初めてがいつあるかはわからない。売っている契約物が信用できないから、売っている物に頼るなという警告なのだと受け止めた。
「わかった。軍の方でも調べてみる。これからも情報交換をしたいんだけど、PPCなんて持ってるわけないよな……」
「持ってないな。マスターのアドレスすら知らない」
「とりあえずコロシアムで待ち合せればいいか。明日も行くか?」
「ああ。お金がもう少し必要だからな。PPCならこの後買っておく」
「それは助かる。それじゃあまた明日、コロシアムでな」
グレイムはそう言いながら立ち上がり、トールの目の前から去っていった。トールはイフリートが作ってしまった穴に近付き、近くに落ちていた土塊を拾った。
「これの処理、忘れているぞ……」
「―だからってボクを呼び出しますか?普通」
トールの手から光が出て、その中から半人型の少し太った茶色い色をした生き物が出てきた。
使用した契約物はさっき拾った土塊。
召喚した存在は土の精霊ノーム。イフリート達と同じく、上級の存在だ。
「これくらい直すのは簡単だろ?」
「―簡単ですよ。でも、アースフェアリーでも良かったのでは?白目」
「お前のこと、信用しているからな。任せようと思った」
「―自分でも直すことができるでしょう……?本当」
そう言いつつも、ノームは自分の力でできてしまった穴を塞いでくれた。廃校になったからといって、いきなり穴ができていたら困る人もいるかもしれない。
「―ボクを呼んだのは、試すためですね?実際」
「それもある。イフリートが呼べたから大丈夫だとは思ったがな。どうだ?違和感はあるか?」
「―特には。問題ないですね。事実」
「なら良かった。……グレイムに言った通り、契約物がおかしいのは知っているな?また呼び出すと思う」
「―いつでもどうぞ。主人」
トールが聖晶世界への帰り道である光を出すと、ノームは素直にその中をくぐっていった。その後商店街へと行き、PPCを買って説明書を読みながら色々な設定をしていた。
PPCがどんな物であるという概念は知っているのだが、操作の仕方を全ては知らないのだ。
この後十八時にもう一話投稿します。