何も知らない女王さまは蝶を吐く
「蝶を吐く」という企画に参加させていただいた短編です。
企画概要はこちら→https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/569517/blogkey/1728984/
深い森の奥には、蝶の女王さまがいます。女王さまはだれよりも美しい翅をもっていますが、どうやっても飛ぶことができず、いつも一番大きな木に腰かけていました。
春の風に乗ったミツバチたちが花のミツを運んでくる季節になると、女王さまは木をおりて花畑へ移動しました。
小さな花で作ったドレスから、目についた花を抜き取ります。そうして、ふぅっと息を吹きかけると、小さな花は色とりどりの蝶に変わって空へ舞い上がりました。
女王さまの仕事は、こうして鮮やかな蝶を生み出すことなのです。
花から生まれた蝶たちは、遊ぶように女王さまの周りをくるくる回り、思い思いの方向へ飛び去って行きました。
子どもたちが飛んでいくのを見送ると、女王さまは次の花を選んで息を吹きかけます。
なんどもなんども繰り返すうち、森は蝶でいっぱいになりました。
みんな楽しそうに女王さまのそばで遊び、女王さまはやさしく見守ります。
秋になり、すっかり大人になった子どもたちがいなくなってしまうと、女王さまは元いた大きな木に帰っていきました。
女王さまは寒くて静かな冬をあたたかい木の中で過ごし、春になるとまた次の子どもたちを送り出すために目を覚まします。
女王さまは知らないのです。
綺麗でかわいらしい子どもたちは人間に捕まったり、クモの巣に引っかかったり、鳥に食べられてあっさりと死んでしまうことを。