8.ゴブリン
拷問タイムの所為(サラ草の所為)で何も出来ない俺。
する事もないから諦めてコマンドウィンドウを見ていることにした。
どうやらこの世界はすごく広いよう。地名もたくさんあるようだ。
…ここから、一番近いのは「グレン王国」という所のようだ。取り敢えずこの硬直が治ったらそこへ向かうとしよう。
他にもたくさんのことをコマンドウィンドウから学んだ。本来ならあの糞天使に教えて貰えば良かったのかもしれないが。
例えばレベル。
敵を倒す、クエストを達成する、などのことで得ることができる経験値で上昇する、「自分の強さを証明する値」だそう。RPGゲームであるあるな、「レベルを上げれば強くなる」ではなく、「レベルが高いから強い」という事であり、レベル1の冒険者がレベル100の冒険者よりも強い、ということがあり得るようだ。だが、レベルが高いということは、それだけ多くの敵を討伐、多くのクエストを達成しているという事であり、やはり周りからの信頼は厚くなるらしい。また、武器に関しても、特に装備制限がある訳ではない。ただし、店などで購入する場合にはやはり、レベルは重要な判断基準になるようで、「お前のような低レベル冒険者にやる武器はねぇ!」みたいなことがよくあるのだとか。そのため、結局自分のレベルに合わせた武器を使う事になるらしい。良くできていると感心してしまった。
例えば体力。
この世界では明確に「体力」という数値は存在していない。そのため、それに関しては自己管理が非常に重要な事であり、またそれができる冒険者は強者であるということになるようだ。
体力は「すべての行動」で、減少する。そして時間経過、もしくは睡眠によって回復するようだ。体力減少でのデメリットは、「魔法使用不可(効果衰退)」「行動の制限」「スキル効果の減少」となる。なお、体力が0になると"死"となるらしい。
体力を上昇させる方法は、「自己鍛錬」「装備アイテムの効果」「スキル」の3つ。数値では表示されないため、確認することはできない。
と、ここまで読んで体を動かせるようになった。説明回だぜ。
ついでに、この薬草も採っていくか。
とんとんと準備を終えて、
「よし、じゃあ『グレン王国』に向かうか」
と、歩き始めた瞬間に、背中に激痛が走った。
「グギャギャ!」「ギュッ!」「ギェッ!」
「うがぁ⁉︎」
突然の攻撃に、俺はなす術もなく倒れる。
攻撃の犯人はかの有名なゴブリンだった。
「ケケッ!」「ウギャ!」
愉快そうに笑うゴブリン達。数は全部で10といったところ。戦闘に入ると、その対象の敵の名前とレベルが表示されるようで、レベルは俺と同じく1だった。
「イッテェ……ッ畜生!舐めんじゃねえぞぉ!」
俺は後転して立ち上がり、一番近くにいたゴブリンに飛びかかった。
「うおりゃぁぁ!!」「ケケッ!」
だが、ゴブリンは俺の攻撃を難なく避けて、俺の背後へ回り、棍棒を叩きつけた。
「キャキャキャ!」「グハァ⁉︎」
俺は前へ倒れながらも何とか態勢を立て直し、目の前で追撃を試みていたゴブリンを掴んでぶん投げた。
「クソがぁぁぁぁぁぁ!!」「ギェッ⁉︎」
柔道もやっていた俺の投げ。当然完璧に決まり、一体は動けなくなっていた。
だが、ゴブリン達の連携は侮れるものではなかった。
俺が接近戦しかできないと見るや否や、2体が突撃、その他が遠くから石や火のついた木を投げるというフォーメーションに組みなおした。
「「キャッキャ!」」「くそっ!どきやがれ!」
2体に気を取られると他の遠距離攻撃をくらう。逆に遠距離攻撃に気を取られれば、突撃してきている奴らに致命傷をくらう。
戦況は最悪だ。
だが、その時突撃してきているうちの一体がふと視線を逸らした。俺はそれを見逃さない。
「殺し合いの時に目ぇ逸らしてんじゃねえよぉ!!」
首元を掴んで、ミゾに入れようとしたその時、急に足元からズボンの裾を引っ張られた。
「うわぁぁ⁉︎」「キャッキャ!!」
それは、先ほどぶん投げたゴブリン。動かなくなっていたからてっきり死んだのかと思っていたが、そのフリをしていただけのようだった。
つまり、俺は最初から────
「こいつらの作戦に引っかかっていた…って事かよ…」
明らかに場数か違う。きっとこいつらは何度もこの生存競争をして来たのだろう。殺さなければ自分が殺される状況を何度も味わって、それを乗り越えて来たのだろう。
足を引っ張られた俺はそのまま転ばされた。
掴んでいたゴブリンに逆に掴まれ、首元を締め上げられる。
「ウグッ⁉︎…っんあ…………」
周りにいるゴブリン達も棍棒で俺の体をボッコボコにしていく。
『バシッ!』「グハッ!」『バスッ!』「グァッ⁉︎」『ドバン!』「ウッ……」
遂に声も出なくなってきた。まさかゴブリン相手に手も足も出なくなるとは思わなかった。
身体中が痛い。散々ブン殴られているのだから当然なのだが。
「はぁ……くそがぁ…クソっ…ゴブリンにすらかッ……勝てねぇのかよ、俺は……」
一匹のゴブリンがまるで俺の独り言を聴き終えたかのようにゆっくりと近づいてきた。その手には刃物とみられるものが握られている。
……俺の解体ショーの始まりってか?
だが何故だろう?他のゴブリン達は俺の方を見もせずに皆、明後日の方向を見ている。
「…ど、どうした?…今になって……俺が殺せなくなったとでも言うのか…?」
と、突然一匹のゴブリンが叫ぶ。
「キャッキャ、ギェッギャッ!!」
それを合図に、ゴブリン達は一斉に走り出していった。俺には目もくれず、必死に。それはまるで、ドラゴンから逃げ出していた時の俺のようだった。
だが、俺が意識を維持していられたのはここまでだった。視界が黒に染まって──────────────




