29.行方知らず
フォードに置いていかれた俺達はしばらく突っ立っていた。
「はっ!よく良く考えたらなんで僕はこんな下々といっしょにいるんだ!?」
「失礼だな!?マジで殺すぞ……」
「ふんっ、僕を殺せるのか?そんな実力で?……ふっ!バカも程々に言え!」
「…ほんとに死ね。冗談抜きでウザイ」
「うざくで結構だ!お前のような奴になんと思われようと知ったことでは……えっ?空、腕が元に戻ってるよ!?」
「あぁんっ!?……あっ!本当だっ!なんで!?」
そう、俺の右腕は既に戻っていた。
爪とか鱗とか、そもそも色も赤くなっていたのにも関わらず、ふつーの、人間の腕に戻っていた。
「…………目の錯覚だったか?」
「いや、それだけはないよっ!?」
「そんな事言われてもだな、さっきまであんなだった腕が元に戻ってるんだぞ?人間の腕だぞ
?そんな、体が別の種族のものになるなんてファンタジー、現実ではありえないだろ?」
「いや、でも一部の竜たちはドラゴノイドとして人間の姿になれると本で読んだことがあるよ?空?」
あーそーでしたねマシューとかいましたねマシューとか。
「ふ、ふぅん…ま、まぁ俺に限ってそんな変な力は無いだろ?」
「ふむ、それもそうだな、空。君にはそんな力はなさそうだ」
「……一発殴らせてくれ」
「断るっ!」
「何故だ!?」
「君には人道とかそういうのはないのっ!?っていうかまず、君の龍の腕はパンチした時に変わっただろう!?僕を殴った時にもし、また龍の腕になったらどう責任とってくれるんだ!」
「あー、そういえばそうだな」
「君の体の話をしてるんだがっ!?」
確かに、俺の腕はゴブリンをパンチした時に変わったのだった。だったら、パンチモーションをした時に腕が変わるのかもしれない。
「うおりゃぁっ!」
ブンッッ!
「………………」
「………空?もしかして、お化け見えるようになったのかな?可哀想な脳みそ…」
「ちげーよ!俺なりの実験だ!気にするな!」
別にパンチは関係ないらしい。
じゃあ、本当にさっきの竜の腕はなんだったんだろうか?
……もしかして、なにか当たるものに殴ればいいのかな?
「えいっ」
バシッ
「いったぁぁぁぁいい!!?」
「あ、ちげーや、変わんなかった」
「君は、僕の高貴な体で何を実験したんだっ!?」
「いや、その〜、アレだ、生命の神秘についてだ」
「訳すと龍の腕の事だよねっ!?やめてよ!?あと……ちゃっかり殴る時に僕の……その、胸の部分を殴るのは………その、やめて欲しい…」
「え!?いや、そんなつもりはなかった、ごめん!」
「いや、悪気がないのは知ってるんだ……うん。別に謝らなくてもいい……」
うっわ、ごめん。発育途中の少し可愛い胸だったねありがとう。
「……ごほんっ!とにかく、もう二度と僕の体で実験をしないでくれ!」
「あぁ、そうするよ……」
「…………………」
「…………………」
きまずっ!
いや、事故だったんだよ!?そんな、胸を触ろうとか思ってやったわけじゃないんだ!
くそー、少女とはいえ、くそうざいとはいえ、女の子だからなぁ。もしかしたら少し傷付けちゃったかな?
ちらっと顔を見ると頬を赤くしている。
あぁ、やってしまった。きっと「このへんたいがっ!」とか心の中で思ってるんだろ?
くそー、この世界に来てから俺変態扱いしかされてねぇよ……
「ギャウッ!」
「あぁん!?人が真剣に悩んでる時に何のようだぁこのゴミがっ!」
ドンッッッ!!
「ギャ………」
…………あれれ?おかしいな。今、殴っただけでゴブリンの頭が消し飛んだ気が……
「空、ゴブリンめっちゃ来てるよ!早く倒そう!レベルをあげられる!」
「え?あ、仇討ちか!よし、分かったぞ!」
腕の事は気になるが、とりあえずゴブリンを殴ると竜の腕に変わることが分かった。
今はそれだけでいいじゃないか!
俺とアグネーゼはゴブリン狩りを続けた。
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ーーー
20分位経っただろうか?
俺とアグネーゼは迫り来るゴブリン達を、アグネーゼは斬り捨てて、俺は殴り消して応戦していた。元の世界ではボクシングとかそこら辺も一通りマスターしていた俺は、拳一つでも戦えた。
さらに驚くべきは竜の腕。
やはり、ゴブリンを殴った時のみに変わり、暫く時間が経つと元に戻る。
竜の腕である時間は爆発的な威力を誇り、ゴブリンが消し飛ぶ。
原理こそ分からないが、取り敢えず俺は便利なものを手に入れたようだった。
「空……その腕、なんともないのか?」
「なんともないって……一体どういうことだ?」
「痛いとか、そういうのはないのか?」
「うん、痛みとかはないな。寧ろメリットしかないって感じだ」
「そうなんだね。ならいいか…………ところでフォードはまだかな?」
「あぁ、そういうのはな、面白いジンクスがあるんだ」
「ジンクス?」
「そう、ジンクス。こういうシチュエーションの時、『○○さん、まだ来ないのかな?』って言っておくとその数秒後に現れるんだ」
「へー、不思議だねぇ……」
「お、おい、お前らっ!やっと着いた!」
「な?来ただろ?」
「もう10分経ったけどね……」
「うるさい、放っておけ」
「いいから、すぐに来てくれ!大変なんだよ!」
「はぁ?何があったんだよ?」
「マリーが……」
「マリー?マリーがどうしたんだよ?」
「マリーが、攫われた……」
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「この後のこと、しっかり分かってるでしょうね?」
「当たり前だろうが。俺を誰だと思っていやがる?」
「そうですね……私から見たらあなたは充分脳筋ですから………馬鹿、でしょうか?」
「てめぇ、一回焼き殺してやろうか……」
「やめて下さい。物騒ですよ、マルコシアス?」
「はっ。前回、単体で数千の人間達を喰い殺したお前には言われたくねぇな、バーゲンティさんよぉ」
「どっちもどっち、ということですよ」
マルコシアスと呼ばれた青年は、両手両足を縛られ眠らされている人質のところへと向かった。
「それにしても、こんな女があの方のお気に入りだとはねぇ」
「マルコシアス、それは言ってはなりませんよ。あなただって立派に奥さん子供がいるでしょうに」
「それとこれとは話が別よ」
「そうですかね……」
「とにかく、この後は戦闘なんだ。ばっちり準備しとかねぇとな」
「戦って終わりではないことをお忘れなく」
「忘れるわけねぇだろ?お前、俺を馬鹿にしすぎだ」
「だって、脳筋ですから……」
「あん?なんか言ったか?」
「いえ、なにも……」
こうして、2人は話し合いながら深い闇へと消えていった。




