25.貴族様
「………違う違う断じて違うぞマリー。俺はそういうことをしていたわけではないんだ!」
今までにない慌てっぷりで言い訳を始めるフォード。
それを冷たい目で見ていたマリーさんはすぐに優しい顔に戻って口を開いた。
「なにを慌てているの?フォード?私はなにも見ていないわよ?……そうね、取り敢えず今夜は私の部屋に来てくださいね?」
マリーはそれはそれは素敵な笑顔でフォードに話しかける。
「………ひゃい…………」
言ってる事は唯のお楽しみの話のはずなのだが、すっごいびびってるフォード。いや、携帯のバイブみたいになっちゃってるからね?きっと一番怖い人はフォードではなくマリーなんだろうな、と思ったことは内緒だ。
「おい、君!」
まぁフォードの強さは今、身をもって体験できたしやはりギルマスは捨てたものではないんだな。
「おい、君!君だよ!」
それでもそんなフォードを一瞬で黙らせるなんて、マリーの威圧感もなかなかだ。
あの家はかかあ天下なんだなぁ。尻に敷かれているフォードも見てみたいな。かかあ天下何て言葉はもう死語かな?
「おい、君!この僕を無視するとはいい度胸だな!」
突然後ろから怒鳴られた俺はビックリして後ろを振り返る。
「な、なんだ?」
「なんだ?じゃない!この僕が直々に2回も呼びかけてやったのにそれを無視するなんて、君はどんな教育を受けているんだ!」
え、えぇぇぇ?
今『この僕が』って言ったよね?こいつあれか?所謂お嬢さまって奴か?
世間知らずのお嬢さまがこの冒険者の集うこの街に何の用だ?
「おい、その目はなんだ!僕を一体誰だと思っている!由緒あるベネディクト家の娘、ベネディクト・アグネーゼであるぞ!」
アグネーゼと名乗った少女は腰に手を当て胸を張った。
金髪、蒼目、身長は普通くらいだが、非常に顔立ちが整っており腰まで伸ばした髪型も似合っており、まぁ、うん。可愛いな。
年は15、16ってところだろうか?
性格に反して胸はあまり主張なさっていないようだ……
「アグネーゼ?ふーん、やっぱり貴族のお嬢さまだったか。ここは冒険者が集まるところだぜ?お嬢さま。お嬢さまはとっととお家に帰りな?怖いぜ?お嬢さま」
それにいらっときた俺は少し小馬鹿にしてみた。
その瞬間、後ろから首根っこを掴まれて持って行かれる。
「え?ひぇぇぇ??」
そして、そのままギルドの中へ連れ去られた。
「な、なにするんですか!……マリーさん!」
犯人はマリーだった。めっちゃ力強くて逃げられなかったなんて言わない。
「いい?空くん。さっき自分で名乗っていたけれど、彼女はベネディクト家のお嬢さまなの」
「はい、知ってます」
「アグネーゼちゃんはね、幼い頃から冒険者を志して稽古をしていたの」
「なるほど」
「それで、うちのフォードがその師匠役に抜擢されたの。それで、今日はアグネーゼちゃんの実践稽古の日なのよ」
「あぁだから金持ちがいたって訳か」
「それでね、ベネディクト家っていうのはこの世界で一番位の高い貴族なの」
「はい、知ってま……へ?」
「ベネディクト家が、このグレン王国の王家なの」
「は?まじ?」
「つまり、ベネディクト家にかかればうちのギルドなんて速攻ペッシャンコなの」
「やばくね!?」
「しかもアグネーゼちゃんはベネディクト家の一人娘だから、全員に甘やかされててねぇ。だから、余計なことはしないほうがいいわよ?」
「ら、らじゃぁ…」
「あとマシューちゃんは新米ちゃんに見てもらってるわ」
「あざす」
こえーまじこえー貴族様すげー。
日本にいた時はそんな人達いなかったからなぁ。歴史の教科書に出てるくらいだろ貴族なんて。まさかこうして会うことになるなんて思わなかったよ。しかも想像以上にやばい力持ってたよ。詩とか詠んでるんじゃないの?違うの?
俺は考えを改めてアグネーゼ様のところへ向かう。




