2.別世界
石に躓いた俺はトラックに轢かれ死んだ。
……ハズだった。
トラックに轢かれたのは多分間違いない。道端に落ちている小石に気付かずこけてしまい、タイミング良く(悪くというべきか)そこにトラックが、突っ込んできたのだから。
痛くなかった。どころかトラックの感触すらなかった。でも本能的に、「あ、死ぬなこれ」と感じ取った。
そして、視界が真っ暗になった。
暫く経ち、思わずつぶってしまっていた目を開いたらこの何にもない空間にいた。
そう、何にもない。
世界を照らす太陽も、月も、音も空も木も猫も犬も鳥も魚も水も電気もガスもゲーム機も隣に住んでるクソジジイも建物もトラックも壁も。
そして床も。
というわけで俺は今、絶賛自由落下中である。
いや、正確には落ちているかどうかもからない。風圧も何にもないのだから。もしかしたら空気自体が存在していないのかもしれない。
実際何も聞こえないし。
床の感触がないから何となく「落ちてるんかなぁ?」と思うだけでもしかしたら浮いているのかもしれない。周りを見渡しても白一色だからそれを判断する材料すらない。あ、自分の体は見ることができる。自分の手は見える。あと足も。
ということで特にすることもないから自分の体を観察していた。
体に何ヶ所も擦り傷がついているのは、事故の時に負ったものだろうか。
この謎の世界での俺の体は生前の俺の体なのだろう。おかげさまでずっと体が重くてだるい。
というかここは本当にどこなんだろ?死後の世界か何か?あ、だとしたら他の人もいるのかな?ド○ゴン○ー○とかの影響で死んだら閻魔大王に会わなきゃいけないみたいな感じなのかと思っていたけど。閻魔様いねぇし。つーかなんもねぇし。
うーん、考えても仕方のないことかもしれない。
どんな世界でも重力という絶対的な法則には抗えないのだろうが、やはりずっと落ちっぱなしというのは(確証ねぇけど)気分が落ち着かない。まだ死んでいない時は特に落ちることもない平社員もどきだったため、そっちの落ちるは経験したことないのだが。まぁそっちはそっちで落ち着かないのだろう。そんなことすら経験できずに死んだ俺は本当に可哀想なんだなぁと自分でも慰めたくなってきた。可哀想なぼく。よく頑張ったよ!
「本当に大変な一生を送られてきたのですね」
「あぁ、ホントホントってうわぁぁぁぁ!!?」
突然話しかけてきたのは羽の生えた女性。
まるで天使のような格好をしていて、事実容姿もそれに近く美しい。
「こんにちは。いえ、こんばんわ?おはようございます?夜分遅くに申し訳ありません?まぁなんでもいいのですが」
「いいのっ⁉︎」
「時間軸なんてここにはないですから。その時の気分次第で挨拶は変わります。你好」
「言語の壁すら超えるんだねっ!」
「そんなことはどうでもいいのです。そんな小さいことを気にするなんて…全く、これだからニートは」
「ハグうっ!」
「社会のゴミが。そんなんだから碌に就職も出来ないのです、社会不適合者が」
「うぐっ!」
「とっととこの世界から消えてなくなりなさい。死になさい」
「もうやめて!これ以上俺を傷つけないで!昔からお母さんに優しく育てられてたの!」
この暴言天使(仮)は俺の悪口を散々言ったあとに、それに飽きたのか真顔に戻って話を始めた。
「いいですか社会不適合者、略してゴミは正確には死んではいません」
「おいそれやめろ………って、え?そうなの?」
「はい。私は死を司る神、Thanatos様の忠実なる僕……名前は特に無いのでご自由にお呼び下さい」
「いや待てや、自己紹介の前に死んで無いってどういうことか教えてくんね?」
「とは言っても、やはり貴方のような人に名前を決められるのは嫌悪感を抱かざるを得ないですね。どうしましょう、どんな名前にしようか……」
「聞いてる?ねぇ?華麗にスルーするの止めてくれない?」
「可愛くエマなんてどうでしょう?エミリーとか、あとシャーロットなんて可愛らしいじゃないですか」
「ごめん泣いていい?」
「冗談です」
まるで冗談を言っていないような真顔で言い切りやがった。流石の俺もキレるところだった。言い切るだけに。
「死んでいないとはどういうことか?でしたよね、確か。あれ?違かったかもしれませんね…私はなんの話をしようとしていたのでしょうか?」
「本気で聞くなよ!」
「冗談は置いておいてお話をしましょう。まずここは死人が来るところではありません。正確には"死にかけた"人がくるところ。通称"生と死の狭間"」
ふむ、成る程。死にかけた人…ん?
「死に…かけたってことは……?」




