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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

病んでる学園シリーズ

この辺りの武闘派893達が幼馴染の委員長を拉致したので、ヤボ用が重なった俺とたまたま出くわしたDQNとオタクとで彼らを制圧する事にした

作者: NiO

中学2年生の頃の妄想のテンプレートを目指して書いてみました。


 読み切ることが出来た人は中二病患者です。

 面白いと思った人は末期患者です。



※※※これは前作、『凶悪なテロリスト達が中学校の全校集会の最中に乱入して立て篭もりを始めたので、屋上でサボっていた俺とたまたま一緒だったDQNとオタクとで彼らを殲滅する事にした』の続編ですが、読まなくても話は繋がります※※※

※※※未成年者のお酒、煙草は法律で禁止されています。あと、麻薬はダメ、絶対!※※※

※※※グロ表現少なめですが、人が死ぬのでR15でお願いします※※※

 俺の名は黒内(くろうち)コウ。

 絶対(アブソリュート)中学に通う、どこにでもいる普通の中学生だ。


 まあ、普通と言っても、数年前まで知り合いの小父さんの都合で傭兵をやらされ、各国の紛争や内乱で大暴れしていたこともあったが。

 今となってはそんな物は子供同士の自慢話にもならない。


 特にこの学校に入ってからは、平和な日本と言う国柄のせいですっかり骨抜き状態になってしまっている。


「ふぅ、暑いな……」


 実質、全員必修となっている中学校の夏期講習を終えた俺は、夏の太陽が照らす暑いアスファルトの上を、汗一つかかずに歩いていた。

 水の一滴も無駄にしないという傭兵時代からの名残が、この体にはまだ染みついている。


「えーっと……確かこの辺のはずなんだが……」


 俺は紙に書かれた手書きの地図を広げる。

 この道を右に曲がってすぐの所が、待ち合わせの場所のはずだ。

 なんだか丸っこい文字の『ココ!』に2重丸がしてあって、矢印まで付いている。


「……オイ……なんだ、ここは」


 俺は昼飯を食べに来たはずなのに。

 その店は見た目も眩しく極彩色に、『Sweets☆lol』と書かれていた。


***************************************


「あー! コウ君、こっちこっち! ね、いい感じのお店でしょ?」


「……ああ。……そう、かもな?」


 俺はせわしなく視線をキョロキョロさせるが、周りは女子グループか、カップルしかいない。

 なんというか、非常に居心地が悪かった。


「ここのランチ、とっても美味しいって評判なんだよー!」


 そう言ってニコニコとメニューを見ながら笑っているのは、……俺の幼稚園の頃からの幼馴染で、現クラスの委員長である、栄ヶ崎である。


「委員長、下校途中の買い食いは、校則違反なんじゃないのか?」


 俺の軽口に、栄ヶ崎は胸を張って反論する。


「『生徒規則第36条 長期休暇中は学校へ登下校をしてはならない

 生徒規則第73条 長期休暇中の学校での自主学習は、これを認める』


 つまり、今日の夏期講習は、登下校に入らないんだよー!」


 コイツは、相変わらずの様だ。


 厳しいところはトコトン厳しい反面、面白い事には積極的に手を貸す、清濁併せ飲むことの出来る彼女は、多くの隠れファンがいるカリスマ委員長であった。


 今でも伝説となっているのは、『中学1年・酒盛りパーティー』で吊し上げられた10人の生徒に対する1週間にも及ぶ大弁護である。

 学校規約や生徒規則の穴と矛盾を付きまくった彼女の弁論により、『全員退学』がほぼ決定していたその10人の最終罪状は、『近所のごみ掃除1週間』であった。

 泣いて感謝する10人と、そんな彼らと一緒にごみ掃除をする委員長を見て、目頭が熱くなったのは、多分俺だけじゃなかっただろう。


「うわー、なんだかメニューの名前読んでも、良く分からないねー」


 幸せそうにホヤーンとしているコイツを見ていると、自然と笑みが浮かんでくる。


「うーん、私、『太陽の日差しと草原の香り~馬の(いなな)きを添えて~』にしようかな」


「あ、すみません。

 カツカレー大盛りと、お子様ランチ、1つずつね」


「かしこまりました」


「えー!? 勝手に決めないでー!!」


 栄ヶ崎はなんだかかっこよく決めようとしている様だが、コイツは今でもお子様ランチの旗を集めることを趣味にしている事を俺は知っている。


「委員長……背伸びすんな。

 あと、『太陽の日差しと草原の香り~馬の(いなな)きを添えて~』は止めておけって。

 コレ、最悪、空っぽの皿が出てくるぞ」


 委員長はメニュー名前を再度確認して「確かに!」と納得した。



*****************************


「ん。 このカツ、相当に美味しいな」


 俺は、カツカレーをモリモリ食べながら思わず声を出した。


「良かったー」


 委員長はにへら、と笑いながら俺を見た後、自身のプレートに目をやる。


「あ、当たり旗だ!

 ハーケンクロイツー」


 お子様ランチの旗は、鉤十字(ハーケンクロイツ)だった。

 え、こんなの、あるの?

 当たりではないだろ。


 委員長は半球の形をしたチャーハンからその旗を引き抜くと。

 隣のハンバーグにそれを突き立て、「東方生存圏(レーベンス・ラウム)~」とか言い出したので、俺はそれを半笑いで無視することにした。


「ん、チャーハン美味しいー。


 ……平和だねー。

 コウ君は、学校、楽しい?」


 彼女は、俺が昔、傭兵をしていたことを知っている。

 だからであろうか。

 昼ごはんを一緒に食べようとしたり、下校中に遊びに誘ったりと、俺を楽しませようとして色々考えてくれているのだ。


 ……委員長には、全て御見通し、か。


「ああ、何だかんだで楽しんでるよ。

 ……やっぱり、平和が一番だ」


「うん、そうだね、平和が一番だー!」


 そんな事を言いながら、栄ヶ崎はハンバーグを食べるつもりなのか、今度は鉤十字(ハーケンクロイツ)をナポリタンに突き刺した。

 ナポリ陥落。

 栄ヶ崎のプレートの上は、全然平和ではない。

 一体どこまで生存圏を広げるつもりだ。


***********************************************


 さて、食後は確か、演劇を見に行く予定……だったかな。

 俺が埋め合わせをしなくてはいけないはずなんだが、何故だか委員長が全部、予約やら何やらをしてくれたので、あまり覚えていない。

 そんな事を考えていると。


「失礼します」


 ん?

 食後のコーヒーが出された。


「あれ? 頼んでませんよ?」


 栄ヶ崎も不思議そうに声を上げる。


「あちらのお客様からです」


 あちらのお客様って。

 本当にやる人いるんだな……などと思いながら店員の指し示す先を見てみると。


「……悪い、委員長。

 ちょっと、野暮用ができた」


「えー!! 演劇は?」


「本当にごめん。

 次こそ、絶対、穴埋めはするからさ」


「でもでも、演劇のチケット、当日限りだよ?」


「ごめん!!」


「うううーー!!」


 俺は理由も説明せず、ひたすら謝り倒した。

 最初は怒り口調だった栄ヶ崎も、次第に悲しそうな顔になり。

 最終的には、痛々しい笑顔で了承して、帰って行った。



「……さてと」


 栄ヶ崎が見えなくなるのを確認すると、俺はコーヒーを奢ってくれた『あちらの方』の方へ向かう。



「おう、黒坊!

 すまんなぁ、デート中に」


「そんなんじゃねえよ、爺さん」


 俺は舌打ちをして彼の対面に座る。

 俺の目の前には、やたら頭の禿げあがった好々爺がいた。


「あはは、黒坊に爺さんと呼ばれると照れるよ。

 なんだか弘さんと同列に扱われているようで、こそばゆいなぁ」


「あんな死にかけ爺と同列にされても、困るだろう」


「黒坊は全盛期の弘さんを知らんから、そんな事が言えるんだよ。

 ありゃあ、まさに怪物だったなぁ。


 ……おっとそうだ黒坊、何か頼むか?」


 話が逸れたのだろう、爺さんは一息つくと、俺に何か注文するよう話しかける。


「……ブラック・コーヒー」


「すいません、チョコパフェ2つ下さい」


「かしこまりました」


「人の話を聞けェ!!」


「お待たせいたしました」


「早ァ!!」


 目の前にはジャンボサイズのチョコレートパフェが置かれていた。

 ……なんなんだコレは。

 罰ゲームか何かか。


「ほれ、遠慮せずに食べな。

 ……別に黒坊を子ども扱いしているわけじゃあないさ。

 兵隊さん(・・・・)は、誰よりも砂糖の大事さを知っているからなあ」


 ……そう言われると、俺は何も返せない。

 砂糖が嫌いな傭兵なんて、カレーが嫌いなインド人よりも稀少だろう。

 かく言う俺も、補給が寸断された最前線で、角砂糖3個と水のみで2週間過ごしたことがあったからな。

 御砂糖様々である。


「……ったく。

 それで、話があるんだろ、爺さん?」


「おお、そうそう。

 最近、この辺の学生にコレ(・・)が流行っていてなあ。

 ホレ、黒坊、見てくれるか?」


 爺さんが白い粉を出してくる。

 小麦粉か何かだろうか。


「……ああ、なんだ、麻薬か?

 良いじゃねえか、麻薬くらい」


 麻薬なんて、傭兵の間では嗜好品の1つとして良く使われていた。

 俺は進められて数回しか使ったことはないが、別に偏見などはない。

 依存性の低い物ならば、酒やタバコよりも安全なくらいだ。

 アルコールやニコチン、カフェインとの違いは、『法に触れるか触れないか』である。

 もちろん日本でやる分には犯罪だが、俺は警察でもないし、正直どうでも良い事である。

 ……もちろん、『依存性の低い物』であれば、だが。


「……試してみるか?」


「ん? いやに絡むな、爺さん。

 ……どれどれ」


 利き酒や利き煙草は何回かやったが、利き麻薬は初めてだ。


「ペロッ……。


 ……ふむ。

 アッパー系だな。


 ……って言うか、流石にそれ以上は分からんぞ。


 コカイン(コーク)か?MDMA(エクスタシー)か?」


「ワニだよ」



 ガタッ バタン!!



 驚愕で思わず立ち上がり、椅子が派手に倒れる。

 周りの客の注目を集めるが、俺は構わず声を上げた。


「……クロコダイル(ワニ)……だと!?」



 デソモルヒネ(・・・・・・)


 ロシア生まれの最凶最悪の覚醒剤である。

 風邪薬とガソリン(・・・・)を原材料にして、簡単に、しかも安価で合成可能なそれは。

 中毒者を2年以内に(・・・・・)確殺する劇薬(・・・・・・)として有名だった。

 使い続ければ四肢は腐れ落ち、骨すら剥き出しになる。

 まるで凶悪な猛獣に(・・・・・・)噛み千切られたように(・・・・・・・・・・)見えるその末期患者(・・・・・・・・・)から。

 その麻薬は、こう(・・)呼ばれた。


 ……fresh(生身を) eater(喰らい尽くす) drug(薬物)……クロコダイル(ワニ)……と。



 俺は一つ咳払いをすると、倒れた椅子を立て直す。


「ドコのアホだ、こんなん出回らせた奴は。

 まさか、雲洞会(うんどうかい)の連中が……」


「おいおい、黒坊よ、馬鹿を言うな。

 雲洞会は、仮にも東日本の総元締めだぞ?

 こんな(ブツ)、回すわけが無いだろう」


 爺さんは胸ポケットから地図を取り出す。


「全滅会。

 破門されたゴロツキばかりで構成されている。

 総員50名、最近出来たばかりの、ピチピチでホヤホヤのイケイケな連中だ」


「イケイケ、ねぇ」


「8つまで、出そう」

 

 8つ、と言うのは、ケタのことだ。

 1,10,100……と、1000万円も出すのか。

 いや、この爺さんなら、『もちろん、ドルで』などと言いかねない。


「いや、そういうのはいいや。

 爺さん、レストランをいくつか、持ってたよな」


「ん? ああ、持っているが。

 流石にレストランはやれないぞ?」


「いや、いらないって」


 少し頼みにくかったが、埋め合わせをするには仕方ないだろう。

 恥を忍んで爺さんに頼み込んだ。



「えーっと……オシャレなレストランの、ランチ・ペアチケットって、貰えるか?」


************************************


「ああ、畜生、うまくいかねェじゃねェか!!」


 俺は手下を蹴り飛ばす。

 ガリガリのチンピラは、そのまま3m程吹き飛んだ。

 周りで他の奴らも青い顔をしている。


「なあ、お前ら、分かってンの?

 俺らって、結構危ない橋を渡ってンだよ?

 なんで、もっとちゃんと“シゴト”しないかなァ?」


 クロコダイル(ワニ)を回すなんて普通の組のすることじゃない。

 俺らがイケイケでやっているから、何とかヨソから口が出ていないだけだ。

 ただそれも、いつまでなのかは分からない。

 今のうちに少しでもたくさんのクロコダイル(ワニ)を売りさばかなくてはならないのに。


「へ、へえ、すみません。

 ただ、需要が全然無くて……」


無けりゃあ(・・・・・)作れよタコ助(・・・・・・)


 駄目だ、此奴等には危機感が足りない。


「へ? それはどういう……」


「だーかーら、中毒者を作れば(・・・)良いんだよ」


 俺はニヤニヤ笑って呟く。


「真面目そうな、中学生。

 他の生徒からも信頼が厚い、委員長みたいな子が良いなあ。



 ……攫って(・・・)漬けて(・・・)型に嵌めちゃえ(・・・・・・・)


************************************


 俺は爺さんと別れると、地図を見ながら893の事務所へ移動する。

 何気なくゲーセンの前を横切ろうとすると。


「おいおい、マジかよ!

 そのクレーンの握力で、良く人形が取れるな!」


「デュフww

 フィギュアの重心が見える拙者にとっては、UFOキャッチャーなど掴み取りも同然www

 コポォwwww」


 なんだか、どこかで聞いた事のある声が聞こえた。

 ……まあいい、今はコイツらと遊んでいる暇は無いからな。

 2人を無視してそのまま目的地へ向かおうとしていると。


 突然、俺の携帯電話が鳴り出した。


 ……栄ヶ崎からだ。


「ああ、委員長、ちゃんと帰れたか?」


「ううう……コウ君ッ!

 うえ、うえええええええええん!!」


 ……?

 栄ヶ崎の様子が、おかしい。


「おい、どうした委員長、落ち着いて話してくれ!」


「コウ君、あのね、あのね!

 なんだか、怖い人たちが……え?

 いやあああああああああ!!」


 そこで電話が切れた。


「おい、委員長、委員長!?」


 呼びかけても、無機質な電子音で『ツーッ、ツーッ』と返されるだけ。

 クソ、一体何なんだ?


 俺は先ほどの電話を頭の中で反芻する。

 栄ヶ崎の後ろで流れていたのは、パチンコの音楽。

 横断歩道の『とおりゃんせ』。

 遠くからは、街工場の独特な音も聞こえていた。


 この辺りでそれらが指し示す場所は……。


「……成程な。

 真面目な生徒を、攫って、漬けて、型に嵌めて、か。

 やってくれるな(・・・・・・・)全滅会(・・・)……」


 もはや一刻の猶予も無い。

 使える人間は、多い方が良い。

 俺はいつかの様に、ゲーセンの2人に声を掛けた。


「おい、DQN、オタク」


 2人はこちらを振り返ると笑顔で声を掛けてきた。


「おお、黒内じゃねえか、オタクのポテンシャルがやべェんだよ!」


「オウフww拙者のスペックwwテラチートww」


 なんだか2人が面倒くさい会話をしていたので遮って喋りかける。


「委員長が、攫われた。 ……相手は、893だ」


「「ファ!?」」



 突然の言葉に、2人は表情を強張らせている。

 俺は、そんな彼らに続けて声を掛けた。


「協力しろ。 これは、戦争だ」


**************************************


「連れて来ましたよ、ボス。

 ほら、どう見ても委員長でしょ」


「おお、やれば出来るじゃンか、ハゲ」


 俺は中年ハゲの頭をペシペシ叩いて褒める。


「それじゃあ、さっそく“血管の中から”夢見させてやンな」


「いや、いやあああああ!

 た、助けて、コウ君!!」


 少女の叫び声は、向かいのパチンコ店の音で掻き消され……。


『あ、あーー。

 テステス。

 あーー、あーー。

 テステス』


 ……なんだ?

 表からこちらに向かって話しかけるような声が聞こえた。

 ひょいと3階の窓から顔を出すと、パチンコ屋の前で、デブが拡声器を此方に向けて喋っている。

 防塵マスクとヘルメットのせいで顔が隠れて良く分からないそのデブが、ゆっくりと喋り始める。


『……こんにちは、全滅会の皆さん。

 ようこそ(・・・・)絶望へ(・・・)





 ―――次の瞬間、道を走っていた2tトラックが突然こちらの事務所に突っ込んだ(・・・・・)―――。


 轟音と共に、こちらの部屋がまるで地震の様に激しく揺れ動く。


「や、野郎ォォォ、ぶち殺す!」


 拡声器デブは電信柱に隠れながらも、こちらに向かって挑発を続けている。


『貴方たちには選択権がある。

 一つは、今すぐ拉致した女子学生を開放し、速やかに投降するか……。

 それとも、組壊滅の憂き目を晒すかである……』


「おい、野郎ども、舐められてンぞ!

 速攻でイてこませ!」


「「「うす!」」」


 数人の見張りを除いて、他の人間を全員下の階へ向かわせる。


 暫くして、銃声が何度か鳴り響いた。


「委員長さんよ……お前の友達か?

 チョーッとホンモノ(・・・・)を甘く見たンじゃねえか?」


 お下げの”委員長ちゃん”は涙を流しながらも、こちらを睨みつける元気はあるようだ。


「そっちこそ、私の友達を、甘く見てるよね」


 なんだかナマを言うので、右頬を張る。


「あ、あんたたちなんか、コウ君に掛かれば、ぜ、全滅なんだから!」


 鼻血を出しながら睨み付けるので、更に左頬を張る。

 それでも睨み返してくる。

 このアマ。


「そうか、コウ君か。

 その子は殺さないで上げよう。

 念入りに廃人(・・)にしてあげるかンね」


 俺は飛び切りの笑顔でそう話しかけると、委員長ちゃんは顔色を青くした。

 最初っからそういう態度を取ってろってんだ、バーカ。


************************************


 作戦は順調だ。

 DQNはちゃんとトラックを突っ込ませて、事務所の入り口を(・・・・・・・・)塞いでくれたようだ(・・・・・・・・・)

 オタクの方も、あらかじめ録音して(・・・・・・・・・)おいた(・・・)俺のボイスをしっかり放送出来ている。

 陽動係ではあるが、893達がトラックの処理に手間取っている間に2人とも早々に現場から逃げられたようだな。


「さて、始めるか」


 俺は事務所の屋上で(・・・・・・・)呟くと、下へと続く扉を蹴り壊す。


「な、なんだ貴様はァ!」


 下の階にいる893がこちらに拳銃を向けたので、1円玉を2つ、親指で弾き飛ばす。


「ぐが、目が、目がああ!!」


 俺の腕は鈍っていなかったようで、しっかりと相手の目の玉を潰してくれた。

 そのまま勢いよく膝で相手の顎をカチ上げて首の骨を折る。


「飛び道具には、飛び道具だな」


 俺は893から回収した拳銃をズボンの後ろに捻じ込むと、自分の懐から財布を取り出す。


「残ってるコインはまだまだあるが……クソ……全部100円玉と500円玉かよ」

 


 ジャラジャラと音を立てて、俺はそれらをズボンの前ポケットに入れると、「今月は金欠なのになぁ……」と一人言ちながら下の階層へ降りていく。


「おい、早くトラックをどかせ!」

「あ、なんだ? 上から誰か来るぞ?」

「なんだお前は?」


 思惑通り、出口が通行止めになっているため1階に降りられずに2階の階段で人が溢れている。

 とりあえず、拳銃を向けてきた連中から順序良く、ピストルで眉間を打ち抜いて行く。

 更に慌てて戦闘態勢に入ろうとする連中にはコインを弾いて目の中にぶち込んでやる。


 1円玉では目を潰す程度ではあるが、100円玉の重さになると、眼球の更に奥、脳まで破壊する事が出来る。

 階段でたむろする20人ほどの893を1瞬で葬り去ると再度拳銃を回収して、1階の部屋に移る。


「誰じゃわれェ!?」

「なんのつもりだ貴様ぁ!!」


「鉄砲玉」


 俺はそういうと天井についているスブリンクラーを狙撃する。

 突然始まった豪雨に対処できず、893達は為す術もなくコインと鉛玉の餌食になっていく。

 1分もすれば、40人以上の死体が階段と1階の事務所に累々としていた。


「さてと、それじゃあ各部屋見て回りますかね」


 上の階を目指していると、事務所の入り口から2人の人影を見つける。

 思わず拳銃を構えて……解いた。


「DQN……オタク……」


「おぉ、俺らにも、もうチョイ噛ませろよ」

「ドプフォww」


***************************************


 拳銃の音が止んだようだ。

 それにしても餓鬼を数匹やつけるだけにドレだけの弾丸(たま)をばら撒いてるんだ。

 まあ良い、落ち着いた様だし、この委員長ちゃんを薬漬けにしてやろう。

 そんな事を考えていると、3階の部屋のドアが開いた。


「よおよお、なぁにしてんのかなぁ」

「オウフwwwロシアのフラッシュアニメ、LOLLI POPのリスペクトですなww」


 そこには……良く分からん金髪の餓鬼と、先ほどのデブがいた。


「DQN君! オタク君!」


「……なんだ、お前ら。

 ココを全滅会の事務所だと分かって来たンかぁ?」


 って言うか、下の連中はどうなったんだ?


「まあ良い。

 オイ、チンピラ、中年ハゲ、やっちまえ」


「「ウス」」


「おい、それから、お前ら餓鬼共。

 少しでも動いてみろ、このお姫さまをぶっ殺してやンからなァ」


 俺はデブと餓鬼から離れて窓際に移りながら叫ぶ。

 委員長の頬に、ナイフを当てることを忘れない。



 ふと。



 背中に浴びていた太陽の熱が、ふっと薄れるのを感じる。


 雲が差したのだろうかと、なんとなく思った。


***********************************


 自分とオタク、DQNの服を繋ぎ合わせて、簡単なターザンロープを作った俺は、再度屋上に戻ると、3階の窓から部屋の中へ突入することに成功した。


 向かいのパチンコ店の窓を鏡代わりにすれば、タイミングを見計らうことはそんなに難しくはない。


 窓を叩き壊して侵入すると、そこにいる893の頭に蹴りを入れる。

 そのままの勢いで委員長を奪うと部屋の出口の方へ向かった。


「お……お姫様だっこ……」


「あァ……ごめんな委員長。

 苦手だよな、こういうの」


「へ? ふぇ? ぜ、全然!!

 むしろドンと来いだよ!!」


「そっか。

 良い子だ。

 ちょっと待ってな」


 委員長の鼻血をぬぐって下に降ろすと、頭を押さえて立ち上がる893に向き直る。


 横を見ると、DQNもオタクも既に戦闘を開始していた。


「チンピラ先輩!

 893になったクセに、滅茶苦茶弱くなってんスね!

 まさか、ヤクチューなんスか?」


「があああ! DQNてめぇ先輩に向かってぇぇえ!」


 DQNと893①は知り合いらしい。

 ガリガリの893①を見ると、クロコダイル(ワニ)の中毒者なんだろう。

 しばらく戦いを見ていると、DQNのパンチが何発かクリーンヒットして、893①はフラフラと地面に倒れ伏した。



「な、なんだぁ?

 なんで打撃が効かないんだぁ!!」


「デュフフwww分厚い脂肪に覆われた肉体はwwどんな打撃も通じぬwwww

 フォカヌポウwww」


 オタクがどこかで聞いたようなセリフを吐きながら893②と戦っている。

 助けが必要かと思っていたが、次の瞬間、オタクが893②を張り手一発でKOした。

 コイツは動けるデブだったようだ。


「さて、893の親玉さんよ。

 アンタは3つのミスを犯した」


「ああン、なンだとォ?」


「1つ目。

 通常籠城戦は、相手の1/3の人数で対等と言われている程に有利な戦いなんだ。

 ……内部に侵入さえ(・・・・・・・)されなければ(・・・・・・)

 お前らは、それを確認することを怠った」


 893は悔しそうに「グッ」と唸る。


「2つ目。

 人質を取っての戦いで、人質を奪還されるかもしれない窓際に移動する……。

 馬鹿を通り越して呆れて物が言えない」


 そして、俺は胸ポケットから新品の鉛筆を取り出して893に向ける。


「3つ目。

 これが1番デカイ間違いなんだが……俺を敵に回したことだ(・・・・・・・・・・)。」


「く、く、糞餓鬼がぁぁぁ!」


 893の親玉は俺に向かってナイフを振りかざして声を上げた。


*************************************


 俺が愛用のナイフを振りかざして糞餓鬼に振り下ろす。

 糞餓鬼は鉛筆で受け止めるが、完全に威力を殺すことはもちろん出来ない。

 鉛筆の一部が、えぐれて削れていく。


「おら、どうした糞餓鬼!

 そんなンじゃ、鉛筆がチビちまうぞ!!」


 挑発を繰り返しながら、糞餓鬼にナイフを浴びせ続ける。


「……え? は? お、オイ??」


 数回のナイフの振り下ろしで、鉛筆はすっかり……綺麗に削れていた(・・・・・・・・)


 芯の先まで尖った鉛筆にフーッと息を吹きかけながら、糞餓鬼が呟く。


「なかなかいいナイフだな。

 鉛筆削りには持って来いだ」


「き、き、貴様ァぁぁ!!」


 次の瞬間、右の頬が張られる。


「ぐべぇ!」


 鼓膜が破られた。

 痛みを感じる間もなく左の頬が張られる。


「ぎいい!」


 鼻の骨まで折られた。 


「ちょ、ちょっと待て、俺が悪かっ……」


 慌てて謝ろうとする俺の右目に、鉛筆の先端が迫っていた。


*************************************



「あー! コウ君、こっちこっち! いい感じのお店だね?」


「……ああ。……そう、かもな?」


 俺はせわしなく視線をキョロキョロさせながら返事をする。

 爺さんが用意してくれたランチ・ペアチケットの店は……超高級ホテルの最上階・展望レストランであった。

 しかも、何を血迷ったのか完全貸し切り状態でまる。


「流石は雲洞会の大親分(じいさん)

 中学生の感覚とは、レベルが違う……」



 俺はゲンナリしながら一人言ちた。


「ここのランチ、とっても美味しいって評判なんだよねー!」


 そう言ってニコニコとメニューを見ながら栄ヶ崎が笑っている。


「委員長……」


 俺が何か言おうとすると、栄ヶ崎は立ち上がって、ペコリと頭を下げる。


「この間は有難う!

 また、コウ君に助けられちゃったー!」


「いや、アレはDQNとオタクが……」


 今回の騒ぎも、面倒くさかったのでDQNとオタクに手柄を全部譲ることにした。

 今度、警察から表彰されるみたいだが、どうでも良い。


「うん、そうだね!

 コウ君(・・・)、有難う!

 私の敵を討ってくれたんだよね!」


 委員長は往復ビンタの動きをする。

 ……相変わらず、全部御見通しか。


「うわー……、なんだかメニューの名前読んでも、良く分からないねー」


 うん、確かに。

 しかも今回は、値段が全然可愛くない。


「何でも好きな物食べて良いぞ。

 ……って言っても、無料ペアチケットだから何食べてもタダなんだけどな。

 ……俺は折角だしこの一番高い『ソビエト風マルキシストのアジテート ~ゲバ棒を添えて~』にしようかな」


「あ、すみません。

 カツカレー大盛りと、お子様ランチ、1つずつ下さい」


「かしこまりました」


「人の話を聞けェ!!」


 わざわざこんな高級な所へ来たのに……などと思っていたが、笑っている栄ヶ崎をみて、どうでも良くなった。

 1番高い物より、1番好きな物だよな。


**************************************


 流石に最高級レストランのカツカレーは滅茶苦茶に美味しい。

 もはや、豚ではない何かを使っているに違いない。

 言葉少なにパクパク食べていると。


「あ、当たり旗だ!

 旭日旗ー」


 お子様ランチの旗は、旭日旗だった。

 え、最近、こういうの流行っているの?

 当たりではないだろ。


 委員長は半球の形をしたチャーハンからその旗を引き抜くと。


「……そういえば、この前のドタキャンについては、コウ君はどういう落とし前をつけてくれるのかな?」


 意地悪そうに笑いながら首を傾げる。

 おさげが少し揺れた。


「わ、悪かったよ。

 ここのランチでは、ダメか?」


 あまりの唐突さに、思わず声を裏返しながら返すと。


「んー、ダーメ。

 にひひ。

 よーし、じゃあ、それ(・・)で許してあげよう!」


 委員長は満面の笑みで、「大東亜共栄圏~」とか言いながら、カレーがかかった一番大きいカツに旗を突き立てたので。


 俺はそれを半笑いで無視することにした。

反省

 DQNがやっぱりDQNじゃなかった。

 相変わらずの人物描写不足。

 圧倒的中二力不足。

 委員長はネトウヨ。

 ナポリタンは日本料理。


あと、普段は別で小説書いてますのでそちらも暇な方は是非。


短編 『凶悪なテロリスト達が中学校の全校集会の最中に乱入して立て篭もりを始めたので、屋上でサボっていた俺とたまたま一緒だったDQNとオタクとで彼らを殲滅する事にした』

http://ncode.syosetu.com/n6987cq/


中長編 『ブレーメンの屠殺場』

http://ncode.syosetu.com/n9431ct/


長編 『豚公爵と猛毒姫』

http://ncode.syosetu.com/n8014ci/

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― 新着の感想 ―
[良い点] きwめwえww [一言] 途中の顔に鉛筆が迫っていた敵の視点、一瞬主人公がやられたのかと思って「ざまぁwwww」ってなりました。 恥ずかしいぜ!
[一言] マイクパフォーマンスのところが絶滅会になってました。 何年か読んでたのに今まで気付かなかった。 あれ?でもこれ絶望とかけるためにわざと絶滅会にしてるんですか? ……え?あ、はい。厨二末期患者…
[一言] なるほど、893は鉛筆削り(ナイフ型)を振り回していたのか!(錯乱) 10円玉飛ばしといえばブレーメンというミュージシャンマンガを思い出すのですが、見事にNiOさんの作品とかぶってますね。…
感想一覧
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