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らんちばいきんぐだよ、コクリちゃん

作者: 瀬川潮

※クラウドゲート(株)さまの展開するWTRPG「舵天照」(http://www.wtrpg8.com/)のNPCを主人公に据えた短い二次創作小説です。

 ここは天儀の、神楽の都。

「へえぇ……。こんなお食事処があったんだ」

 コクリ・コクル(iz0150)は紺色の暖簾の掛かる店先で1人立ち尽くしていた。見上げたのぼり旗に「らんちばいきんぐ」の耳慣れない言葉が踊っている。

「らんち……ばいきんぐ」

「新しく開店したばかりみたいね」

 背後からのおっとりした声に振り向くと、白虎獣人の女性がたたずんでいた。司空 亜祈(iz0234)だ。胸の前で両手を組み合わせて、にこり。

「亜祈さん、どうしてここに」

「おいしいって評判みたいなの。……さ、行きましょう、コクリさん」

「いや、亜祈さんってこういう店に……わわっ」

 亜祈、いたずらそうに微笑しただけでコクリの手を引いて入店する。もちろん、「おいしいって噂のお店に興味のない女の子はいないわよね」とまでは言わない。ふりん、と虎縞白しっぽを振るだけだ。

「いらっしゃい。当店は初めてですか? まずは先にお代をいただきまして、それから席にご案内します。あとは……」

 早速店員に説明を受ける亜祈。ふんふんと頷き理解する姿にコクリは「わぁ……頼りになるなぁ」と見上げるだけだ。

 で、席に案内されて皿を受け取った。

「あとは、あそこにある大皿に並んだ料理から好きなものを好きなだけ……食べられる量だけ取り分けて食べていいみたいね」

「ホント? いくら食べても……好きな料理だけ食べていいんだね! わ、いろいろある。早く行こう」

 きゃいきゃいはしゃぐコクリ。目の前に、天儀料理はもちろん泰国料理、ジルベリア料理にアル=カマル料理まで並んでいるのだ。ちゃんと簡単な説明書きがついているのもうれしい。

「あわてて取り分けて料理の見栄えを崩したりはしないでね」

 亜祈、お姉さんっぽく元気が有り余っているコクリにくぎを差す。

「うんっ。……わあっ、里芋の煮物に豆ご飯。これは鶏肉……たんどりーちきん?」

「アル=カマルの料理かしら」

 そういう亜祈は泰国料理に菜箸を伸ばしている。

「ん?」

 ここでコクリ、ただならぬ気配を感じ振り向いた。

「ぶり大根……」

 そこに立ち尽くしていたのは若き罠師、キサイ(iz0165)だった。目の前に「ぶり大根」の説明書きのある大皿。そこにはほくほくと黄金色に煮つけられた輪切り大根が並んでいる。

 並んで、いるのだ。

 大根だけが!

「……ぶり、まったくねーじゃねぇか」

 不満たらたらのキサイだが、読者諸兄は彼を大目に見てやってもらいたい。陸地だらけの陰殻が故郷の彼は、「貴様がこれまで食べたぶりの数を言ってみろ!」とか言われた場合、もしかしたらちゃんと言ってしまうかもしれないのだ。それだけお目に掛かる機会が少ない。

「俺、ぶり大根好きなんだがな……」

 それなのに、とキサイが陰湿な雰囲気を纏った瞬間。

「あ、キサイさん?」

 ほわん、と亜祈が声を掛けた。

「ぶり大根はぶりのアラと煮てるからちゃんと味わい深いわよ」

「そりゃまあそうだが……俺にだってただ煮ただけの大根とぶり大根の味の違いくらい分かる」

「さすが罠師さんね」

 あっさりと落ち着いた口調になるキサイ。

「丸め込んだ……さすが」

 このやりとりを見ていたコクリ、感心するしかない。

 別の場所からも似たようなやりとりが。

 少女二人組が仲良く並んで背中の帯を揺らしきゃいきゃいやっている。

「八っちゃん、なんかおっきなつくねがあるよ。ごーせいだねぇ」

「クマやん。それ、はんばーぐって書いてあるよ」

 派手な衣装は呉服屋娘の特権、鶴獣人の鶴瓶 クマユリ(iz0298)と、大人しそうな着物姿も両サイドをアップにして黄色いリボンでまとめているお洒落さんの銭亀 八重子(iz0299)の二人組だ。

「そういやつくねより黒っぽいかなぁ。ドス黒つくねだね。でもやっぱりつくねっていったら竹串が刺さってなくちゃ」

 ぶす。

「豪気だねぇ、クマやん」

「でも一本だけだと安定しないよね。もうちょっと刺そっか」

 ぷすぷすぷす。

「あら、クマユリさん八重子さん、ばいきんぐっていうのにはマナーがあるみたいよ」

 クマユリの思い切りのいい暴挙に見かねた亜祈がほわわん、と近寄る。元気よく振り返るクマユリ。一方の八重子は「わー、浪志組の隊長さんや〜」ともじもじ。亜祈は二人に人差し指を立てて言い聞かせる。

 しばらくのち。

「ここから取ったりいじったりしたものは自分で食べるんだね。任せてよー」

「丸め込んだ……さすが」

 元気にぽぽいとはんばーぐ以下いろんな料理を取ったクマユリが納得して席に戻る。八重子もはっとして少しだけ迷っていろいろ取って後を追った。コクリは感心するしかない。

「すごいね、亜祈さん。年下の子、みんな言うこと聞くね」

「そうかしら?」

 亜祈、手慣れたものなのかもしれない。

 で、席に着いて楽しく食事。コクリたちの手にした大皿にはあれもこれもでおいしさ多彩。

「食べる楽しさがあるね」

「評判になるわけね」

 ぱくりと出汁巻き玉子にかぶりつくコクリ。亜祈は微笑するだけだ。

「あれ?」

 このときコクリ、気付いた。

 奥の席に、一人たたずむ男性がいる。

「ん? よう」

 コクリの視線に気付いて軽く手を挙げたのは興志王(iz0100)だった。

「さすがに新しもの好きがそろって来店してるな」

「それはいいけど興志王さん、それだけ?」

 興志王の目の前には、なぜか珈琲だけ。

「王様がこんなところでがつがつ食うわけにゃいかねぇだろ」

 さりとて新しいもんにゃ目がねぇし、とかぶつぶついいつつ珈琲をすする。食べたいけど我慢しているのだ。

「あ〜、なるほど」

 納得して気の毒そうにするコクリ。

 そして改めて視線を戻すと、亜祈の様子がおかしいことに気付いた。

「あれ、どうして亜祈さん食べないの」

 亜祈、確かに箸が進んでいない。

「これは小籠包といって、餃子の中身とゼラチンで固めたスープを皮に包んだ‥‥」

 レンゲの上に取って皮を破った中からスープを出し、冷ましていたのだ。

「……蒸す点心よ。おいしいんだけど、熱々だと舌を火傷するの」

 どうやら猫舌らしい。が、さすがにもう冷めた様子。そっと口に運び、笑顔がこぼれた。おいしそうだ。

「へええ、ボクも取ってくる」

 そんなこんなで楽しくおいしいらんちを堪能した。


 その後。

「あれ、真世さん」

 店を出たコクリ。広場で一人座ってる雪切・真世(iz0135)をみつけた。シーソーに座っている。

「ふーん、恋人さんを待ってるんだ〜」

 どうやら恋人と待ち合わせ。

「それはそうとらんちばいきんぐの店、おいしかったわ。真世さんも恋人さんと行くんでしょ」

 コクリと亜祈、シーソーの反対側に座る。がくん、とシーソーは二人の側に傾いた。

「ちょっと二人とも食べ過ぎじゃない? よ〜し」

 真世、二人の重さに対抗しようと腰を浮かせてどしんと勢いをつけて座り直した。

 その瞬間!

「おおい、これから甘味処に行かないかってよ」

 キサイが手を振っている。クマユリや八重子、興志王たちも一緒だ。

「行きましょう」

「うん、行こう」

 亜祈とコクリ、競うように腰を上げ走り出した。

 もちろん、「きゃっ」という悲鳴にどしんという音が響く。

 振り向くと……。

「ひ〜ど〜い〜、私がオチなの〜」

 ひどく打ちつけてひりひりするのだろう。

 真世、四つん這いになって痛そうにおしりをなでていた。



   おしまい

 ふらっと、瀨川です。


 2014年の冬コミ参加者様からゲスト寄稿依頼を頂いたものの、締め切りに間に合わなかった方の作品です(ご迷惑をお掛けしました)。クラウドゲート(株)さまの運営する「キャラコミュ」にも同時期掲載です。

 それはそれとして、ランチバイキング初体験のちびっ子のときめく様子をお楽しみください。

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