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第三話

 シシリは武器の乗ったリヤカーを引きながら、帰途についていた。

 今日もひとつも売れなかった。

 大通りだけでなく、裏通り、路地裏まで足を運んだが、まったく見向きもされなかった。


(イオリがまたがっかりするだろうな)


 息子の顔を思い浮かべてシシリは深いため息をついた。


(もう、店をたたむしかないか…。せめて、イオリが学校を卒業するまでは持たせたいものだが)


 シシリが家の預金残高を頭に思い浮かべていると、声があがった。


「ハンスリー様のお通りだ、道を開けよ!!」


 シシリはハッとしてリヤカーを道のわきに退けて膝をついた。通りの人々も、同じように道の端に避け、頭を下げる。

 その中央に、きらびやかな馬車が優雅に通り過ぎていく。

 ここカザブ領の領主の息子である。

 彼にはあまりいい噂は聞こえてこない。魔王討伐の後方支援にあたった父の栄光をいいことに、町では威張り散らし、領民を痛めつけては喜んでいるという。


 領民をいじめて喜ぶ領主の息子というのはとんでもない話だが、誰も逆らえなかった。


 今や、国王が絶対的な力を持ち、その地方を治める地方領主が次に権限を持っている。

 国王は、世界が平和になると毎日のように遊びほうけて政治には無関心になってしまい、そして、それをいいことに地方領主たちは権力を笠にやりたい放題。もはや、各領地は無法地帯と化していたのである。

 税金も、魔王がいたころより3倍も上がっている。かえって悪化しているといってもよかった。


 シシリは、頭をさげながら馬車が通り過ぎるのを待った。

 ガタガタガタと音を立ててシシリの前を通りすぎていく馬車だったが、突然


「止まれ」


と馬車に乗る男が御者に声をかけた。

 シシリが、馬車に乗る男に目を向ける。

 キラキラと輝くきらびやかな服とは対照的に卑屈そうな顔つきをしていた。シシリは、背筋が凍るのを感じた。


「貴様、それはなんだ」

「は……? 武器でございます、ハンスリー様。わたくし、アカシア通りのシシリ武器店を営んでおりまして、こうして時折、武器を売り歩いておるのでございます」


 ハンスリーは、しばし考えて言った。


「すべて没収しろ。この町に武器はいらん」


 その言葉に、シシリは「は?」と一瞬耳を疑った。

 すべて没収? 何を言っているんだ、この男は。


「な、な、なにを申されます!! 武器の販売は合法です!! 国からの許可証もちゃんとこの通り……」

「それは、非常時のときだけだ。魔王がいなくなった今、武器など不要なものにすぎん」

「ですが、商品である武器を奪われては、生活できません!! 家には、まだ12歳になる息子がいるんです!!」


 シシリは必死にすがりついた。赤字続きだが、商品の武器を奪われては売る物すらなくなってしまう。

ハンスリーは不愉快そうな顔を見せながら言った。


「反乱分子を出さぬための処置だ。おい、こいつの店の武器はすべて没収だ」


 ハンスリーは、近くにいた付き人に命を下した。


「はい」


 すぐに、付き人は数人の兵とともにシシリ武器店へと向かって行った。


「お願いします!! それだけは、勘弁してください!!」


シシリはハンスリーの馬車にしがみつき、すがるような目で懇願した。


「無礼者!! ハンスリー様の馬車に手を触れるとは!!」


 御者が手に持った鞭でシシリの肩をたたいた。


「ぐわっ」


 シシリは悲鳴をあげて倒れ込む。うっすらと肩から血がにじみ出ていた。


「殺さぬだけでもありがたく思え」


 ハンスリーは「ふん」と鼻を鳴らしながら席に着くと、馬車は再びガラガラと去って行った。




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