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第十話

 旧グランファシル━━。


 かつて栄華繁栄を極め、清廉潔白な騎士たちの都としてその名を馳せた町。

 今では娼館が建ち並び、盗品や密輸品が出回る闇市が堂々と開かれ、人身売買や違法な薬物などが横行する危険な町へと変貌していた。

 殺人や犯罪は日常茶飯事で、1000年の歴史あるこの都の面影は、すでになくなっていた。


 ぐるりと高い外壁に囲まれたこの都の中心に、ひときわ高い塔がある。

 かつてこの地を治めていたグラン王の宮殿である。


 この宮殿の地下には広大な鉱脈が張り巡らされ、豊富な金や銀が眠っている。グランが1000年の長きに渡って王国を維持し続けてこれたのも、この地下鉱脈があったればこそである。

 そして、いままさにこの宮殿の地下深く、金や銀の採れる採石場では多くの奴隷が働かされていた。

 それは、旧グランファシル時代騎士だった者や家臣だった者、商人だった者や農夫だった者など千差万別だ。


「てめえ、手を休めるんじゃねえ!!」


 疲れたからといって動きを止めると、数十人と見張っているパルメラ兵から棒で叩かれた。中には、ただ殴りたいがために何だかんだ理由をつけて殴る者もいた。いきすぎて死んでしまうこともあった。しかし、奴隷が一人減ろうが二人減ろうが誰も気に留めなかった。

 彼らに人権というものはなかった。


「てめえらの命なんざ、この石ころ一つよりも劣るんだよ!!死にたくなかったら、死ぬ気で働け」


 そう言って、かつての身分の違いなどお構いなしに扱われた。

 騎士であれ、農夫であれ、同じように働かされ、同じようにこき使われる。わずかな食事とわずかな睡眠。それ以外は、すべて採石場で金銀の発掘に従事させられていた。

 女子供や老人は、地上でパルメラ兵の世話にあてられていた。いわば、家族を人質にとられた状態で男たちは黙って従うしかなかった。


 とはいえ、過去には何度か反乱を企てたこともある。

 しかし、武器も体力も奪われ、精神的に弱り切った彼らには屈強なパルメラ兵に勝てる力はなかった。

 いずれもことごとく鎮圧され、反乱を企てた者は家族もろとも人間狩りで処刑された。


 すでに、グランの人々には反抗する気力さえなくなっていた。過酷な労働環境で次々と死んでいく仲間たちを見ながら黙々と働いた。


(死んで楽になりたい)


 そう思わずにはいられなかった。しかし、自殺でさえ罪とされ、自殺者にはその家族も罰が課せられた。彼らには、死ぬことすらも許されなかったのだ。


「どうじゃ、様子は」


 金銀の発掘の視察にきていたパルメラ国王が、陣頭指揮をとるガーベラ将軍に声をかけた。

 サルのような小柄な身体をした老人だった。白髪で目をギョロつかせた強欲そうな顔をしている。杖をつきながらやってきたその男に、むき出しの筋肉を隆々とさせた髭面の大男が姿勢をただす。


「これは陛下、いらしていたとは」


 かしこまろうとするガーベラ将軍を、手で制した。


「よい。金銀の発掘はどこまで進んでおる?」

「はっ。すでに、パルメラ本土の資金の約半分は産出されております」

「ほう、そんなにか」


 ペロリと舌なめずりをする。

 グランファシルに埋もれている資源は、パルメラ国の比ではない。その気になれば、小さな国がまるごと10個は買えるほどの資金がここには眠っている。パルメラ国王がこの国に目をつけたのも、そのためだ。


「それはよい」


 国王はサルのような顔で笑った。体格的にはパルメラの風土には珍しく小柄で華奢な身体をしているが、その残虐さと強欲さは誰よりも上だった。


「この調子で頼むぞ。近く、大きな戦が控えておるでな」

「では、いよいよ」


 ガーベラ将軍の筋肉がはち切れんばかりに膨れ上がった。

 戦と聞いて心がうずく。


「うむ、世界に向けて侵略を開始する。小国だった我がパルメラが、覇をとなえるのだ」


 大きなチャンスがこようとしていた。しがない一将軍だった彼が、世界中の軍を掌握する位置に立とうとしている。歴史上、誰も成しえなかった偉業である。


「腕が鳴ります。世界を、我が力でねじり伏せてやりましょう」


 禍々しきオーラを放つガーベラ将軍。この男の力はパルメラ軍の中でも最強とうたわれている。


「期待しておるぞ」


 不気味な笑みを浮かべながら、国王はその場をあとにした。


     ※


 旧グランファシルへは、ナターシャ村からおよそ5日の距離であった。

 パルメラによって滅ぼされたグランの王都、そこへの道案内を買って出たのはメルだった。残虐非道なパルメラ兵。彼らが待ち受けているとは知りながらも、メルの両親は快く了承した。


 ひとつは、魔王すらも倒した魔神殺しのゼノがいるという安心感。

 もうひとつは、この国を一刻も早く救ってほしいという願い。

 危険のともなう旅ではあったが、反対する理由はなかった。


「ゼノ様をしっかりお送りするんだぞ」


 村人たちの弔いを父たちに任せて、二人は旅立った。

 メルは、父の言葉に身が引き締まる思いだった。成人の儀から帰った彼女は、すでに子供ではないのだ。ナターシャ村の一員としてその役目を十分に果たさねばならない。


 ゼノをともなって5日。

 荒れた大地を進み、深い森をかきわけ、暗いダンジョンを通り抜けると、二人は切り立った崖の上に出た。眼下には、広大な荒れ地が広がっている。かつては緑豊かな草原の地であったのだが、度重なる魔王軍による侵攻の影響で今では草木一本生えない荒廃した大地へと変貌していた。


「あれが、旧グランファシルです」


 切り立った崖の上から見渡すと、はるか前方に高い塔が立ち並ぶ王都がうっすらと見えた。円形の外壁がぐるりとまわりをとり囲んでいる。ナターシャ村よりもはるかに進んだ技術力を持っているようだが、その存在はおどろおどろしいオーラに包まれていた。


「助かった。ここからはオレ一人で十分だ、お前は帰れ」


 ゼノはそう言うと、崖を降りるルートを探した。

 メルは「は?」と即座に反応する。


「冗談でしょ、ここまできて。最後まで見届けます。でなければ、安心して眠れないもの」

「危険だ」

「このまま帰るほうが危険です。無視してもついていくわ」


 頑固なのは父親譲りだ。メルは、たとえ戦闘になってもゼノのそばにいるつもりだった。


「……勝手にしろ。オレは何も言わん」


 ゼノが崖の斜面を見つけ滑り降りるとメルもそれに続いた。


「それから、一緒に旅して5日。一度も私の名前、呼んでくれてないんですけど」

「呼ぶ必要がないだけだ」


 メルがぷうっとふくれる。実際、ここまででメルの名前を呼ぶことは一度もなかった。声をかけるときはいつも「おい」か「お前」のどちらかだ。それも、日に数回あるかないかである。


(必要がなくても、呼んでほしいから言ってるのに)


 メルはため息をつきながらも、必死にゼノのあとを追った。


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