表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークでエルフな吸血鬼  作者: 夕凪真潮
第一章 二人はプリ……二人の出会いなんですっ
2/54

夜と森は私の世界なんです



「ええっ!? 大量のオークの群れを発見したのですかっ!?」

「はい、アオイさんにはその討伐をお願いしたいのです」


 いきなり驚きの言葉から始まってしまって申し訳ありません。

 ここはラルツの町にある冒険者ギルドの受付です。


 そして私の相手をしているこの無表情な少女、推定十六歳が受付嬢アリスさんです。

 無表情だけど、お人形さんみたいで可愛いんですよね。

 金髪で腰まであるさらっとした長い髪、青い澄んだ大きな目、整った顔立ち、胸も私より遥かに大きい(死んじゃえばいいのに)と、懐中時計を持ったウサギの人形を抱いていれば完璧です。


 その容姿で、しかも受付嬢という冒険者ギルドの顔ですから、男性から非常にもてている方です。

 でも男性からのアプローチがあっても冷たい目で、お断りします、と言ってるそうですが。


 とあるMな男性は、その言葉が聞きたくて何度もアタックしているとか。


 確かにこの目で断られたら、何となくぞくぞくしますよね。

 え?

 気にしないでください。本音が少し漏れただけですから。




 さてラルツの町は、人口十二万人を擁するこの世界ではそれなりに規模の大きい人間の町です。


 それもそうですよね。ここはオーギル王国とセント公国、ファント聖国という三大国の国境近くに位置する町で、交通要所として栄えています。

 一応オーギル王国に属してはいるものの、半ば独立した形になっています。



 何といってもここの町は冒険者ギルドが実権を握っていて、町の住人の半数はギルド員だったりするのですから。

 残りの半数も元冒険者のお年寄りや、何らかの事故によって第一線で戦えなくなってしまった人などがかなりいらっしゃいます。


 またギルド員と一口に言っても、当然様々な人がいます。

 冒険者ギルド内で働く職員や、町の調査や雑ごとを主体としている戦う事が苦手な人、もしくは冒険者の駆け出しが合わせて二万人。

 駆け出しから卒業した魔物討伐を主体とする冒険者が二万人。

 残りは冒険者を卒業した人(三十代以降の方)二万人が常設隊として町の警備に当たっています。この常設隊のみなさんは、もはや軍という認識が一番近いかと思います。


 いざとなれば四万人の冒険者が軍隊として戦えるんですから、戦力としては申し分ありません。


 各国の保有している軍隊は十万人とも言われていますが、こちらは毎日魔物と戦っている精鋭ですから、兵の強さでは比較になりません。

 だからこそ、こんな町という単位だけで独立できているのです。

 食糧事情により、オーギル王国には属していますがね。



 でも四万人もの冒険者が、毎日魔物を狩ったりしてたら周辺には草木も残らないんじゃないのかって?



 ご心配ありません。

 この町は山麓に位置して、町の周りは山と森になっています。

 更にこの森は広大で、小さな国ほどの面積があります。

 もちろん森の中や山にはあらゆる魔物が生息していて、しょっちゅうこの町は襲われていたりします。

 人間の国から軍隊がくるよりも、魔物が来るほうがはるかに多いのです。


 その防衛やら町周辺の調査、脅威となる魔物の駆除とかやっていくうちに、いつしか四万人に膨れ上がったそうです。


 一口に魔物といっても強さは様々で、Sランク~Fランクと七ランクに分類されています。ちなみにこれはあくまで人間が対応できる強さで分類されていますのでSランクを超える魔物もいますが、幸いこの大陸にはほぼいません。


 更にその魔物のランクに対応するように、冒険者にもランクが設定されています。

 一つのランクは、+、無し、-の三段階に分かれていて、最高S+から最低F-となっています。


 ちなみに私はB-のランクを頂いております。えっへん。



 さて長くなってしまいましたが、オークの群れでしたよね。

 オークは二mを越す豚の魔物で、膂力だけで言えば人間を遥かに超える戦闘力を持っています。


 スカウターで見れば三十~四十くらいですかね。

 戦闘民族から見れば、戦闘力たったの三十か……ゴミめ、と言われる程度でしょうけど、一般人から見れば相当脅威です。


 えっ? ネタが分からない?


 それはさておき、オークはこのように力持ちさんなのですが、その分頭のほうはかなり足りなくて、猪突猛進タイプなのです。

 このため、魔物ランクではDランクに属しています。

 高位冒険者であればさほど苦労する相手ではありませんし、低位冒険者でも落ち着いて複数人でかかれば問題ない相手でしょう。



 しかしながらこの受付嬢、オークの群れとか言いやがりました。

 しかも私を名指しですよ。ご指名を承りましたよ。どないやっちゅーねん。


 大量の群れというからには、最低でも十匹はいるでしょう。

 いくら私が可憐な美少女冒険者のアオイさんだって、十匹もいてはさすがに苦戦します。

 そこのところ詳しく聞くことにしましょう。



「ちなみに、大量の群れって十匹くらいですか?」

「五十匹です」


 ちょっとまって! それ無理だから! 数の暴力で、おいしく頂かれちゃいますから!

 その前に性的な意味でおいしく頂かれちゃうかも知れませんが、そちらは元男として断固拒否したい所存です。

 いえ女でも拒否したいですよね。


 というか、平然とそんな恐ろしい数を言わないでっ!


「さすがに私一人では五十匹は無理ですよっ!」

「アオイさんならいけますって、ギルドマスターが言ってました」

「この町には四万人も冒険者がいるんですよっ、ぱーっと四千人くらい連れて行けばオークの五十匹や五百匹楽勝ですって!」

「そんな数の人間が森へ入ったら、魔物たちを警戒させてしまいます。それに今回はアオイさんのランクアップ試験も兼ねていますから、お一人でお願いします」

「……ランクアップ試験ときましたか。確かに以前お願いしましたけどね」


 F-ランクからE+ランクまでは、一定の数の依頼をこなせば自動的に上がっていきます。

 しかしD-ランクからは試験を受けないとランクはあがりません。

 ランクが上がらないと難易度の高い依頼が受けられず、結果お給料もあがりません。

 とくにBランクからは高位冒険者となりますし、かなり難しい試験が用意されているのです。


 でもその分報酬のおいしい依頼も多くなるんですけどね。


「試験なら受けざるを得ないですね。仕方ありません、お受けいたします」

「はい、頑張って気をつけてきてください。ギルドとしても使い勝手のいい手駒……もとい、優秀な冒険者を失う事は避けたいですので」


 この娘、さらっと手駒とか言いやがりましたよ!

 いつか血を吸って私の眷属どれいにしてやります!


 と管を巻いても仕方ありません。さっさと終わらせてきますか。




 そして私は深夜、そのオークの群れがいるところまで走って移動しているのです。

 さすがに五十匹もの数を正面から倒すなんて無理ですから、奇襲の手以外ありえません。

 夜は吸血鬼の時間。

 ハーフといえど、真祖の血族です。昼間に比べて三倍の速度で走れます。


 ……捨てられちゃいましたが、ぐすん。



 さて、そろそろオークの群れを発見した場所につく頃です。

 感知の魔法範囲を広げましょう。


 ダークとはいえ、エルフの血も流れています。

 森の中は私の領域テリトリー

 ほら、私の手の上で踊りなさい、おろかな者たちよ。


 っと中二を発症させている場合ではありません。


 感知に多数の反応が引っかかりました。

 どうやら集落になっている様子です。

 数は……ひーふーみーよー……たくさん。

 五十はいるでしょうね。


 足音を消し、気配も消して近づいていきます。


 木でできた簡単な柵があり、中には十戸くらいの家っぽい建物が建てられています。

 オークってちゃんと家を建てられるだけの知能はあるんですね。

 集落の入り口には、一匹のオークが眠そうに立っています。


 生意気にも槍なんて持っていますよ。

 私なんて武器は短剣だけですのに。

 あとで奪い取って売ってやります。


 さて、どうやら見張りはあの一匹だけのようです。

 では始めますか。



 私はその見張りのオークの前に立ち、押さえていた気配を少しだけ開放します。

 眠そうにしていたオークが一瞬私の事を見ました。

 オークから見れば、いきなり目の前に可憐な美少女(私の事ですよ?)が現れたことに驚いているでしょう。

 そのオークの目を私の赤い目が捉えます。


 魅了チャーム


 魅了されたオークは体を一瞬震えさせたあと、ぼーっと仁王立ちになりました。

 よし、これで出だしはおっけーです。


 私は、そのオークを従え一番手前にある家に移動しました。

 そしてオークにドアを開けさせます。

 暗い夜に加え部屋の中ですが、闇目がある私には十匹くらいのオークがまとめて雑魚寝しているのが見えます。


 ……くさいっ?!


 匂いが凄いですね、これ。この世界にもマスクがあればいいのに。

 あとでマスクを開発することを検討する必要があります。


 ドアが開いたのに気がついたのか、一匹のオークが眠りから覚めました。

 胡散臭そうにこちらを見てきます。

 しかし開けたのは仲間のオークだったので、安心した様子です。

 私の身長は百五十cmで、オークは二mです。

 オークの後ろにいれば、まず向こうからは見えません。

 おデブさんですしね。


 再び寝ようとしているオークの目を、オークの後ろからこっそり覗いた私の目が捉えました。

 このような感じで、一時間くらいかけて次々と魅了をかけていきました。


 二十匹くらいかけたところで、全員を集落の中央に集めます。


 そして命令。

 寝ている仲間のオークを襲え。


 そこからはあっという間でした。

 二十匹もの仲間に襲われるとは思ってもいなかったのでしょう。

 ボスを残してほぼ殲滅することに成功しました。

 こちらはまだ十匹ほど残っています。


 いや、便利ですよね魅了。

 これだけで食べていける気がします。


 さて、残りはオークのボスです。

 さすがボスというべきか、他のオークに比べ二回りくらい身体が大きいです。

 どうやって調達したのかは不明ですが、頑丈そうな鉄の鎧なんぞ着ております。しかも武器は黒くいびつに歪んだ剣を持っています。

 雰囲気で分かりますが、あれって呪いの武器ですよね。


 呪いの武器の影響で、他のオークより二回りも太ったのですかね。

 私なら絶対拒否します。

 身長が伸びるのであれば、ぜひとも欲しいところですけどね。


 そのオークボス、推定オークロードに十匹のオークが襲い掛かります。

 十匹ものオークの攻撃を受けてもオークロードはびくともせず、逆に力任せに仲間だったオークを虐殺していきます。

 剣を振るたびに、仲間だったオークが一匹倒されていきます。

 オークロードはBランクですし、Dランクのオークではお話にならないようですね。

 仲間を操っていることに気がついているのか、憎々しげに私を見てきました。


 あれ、これってチャンス?


 すかさず魅了。

 あっさりとオークロードは私に魅了されました。

 魅了ぱねぇです。



 さてそろそろお食事の時間です。

 本当は人間の可愛い少女(処女なら最高)がいいのですが、贅沢は敵です。

 このオークロードで我慢いたしましょう。


 私の牙がオークロードの首筋に突き刺さり、そして汚れた血を飲み干していきます。


 うぇ、めっちゃくちゃまずい。


 青汁を五倍苦くしたかのような味です。

 しかも青汁は苦い代わりに健康にいいのですが、オークロードの血はそういうわけではありません。逆に悪くなりそうです。


 でも人間の町に住んでいる以上、人間を襲うことは禁止ですから仕方ありません。

 一応お金を出せば血を吸わせてくれる人もいますし、血を売っているお店もありますけど結構高いんですよね。


 だからいつかお金持ちになって、処女の美少女を回りに囲って高笑いするのが、私の小さな夢です。

 そのためにも、今は我慢です。節約です。

 ランクがあがれば、その分お給料も良くなるんですから。


 ある程度血を吸って満足した私は、オークロードの首を短剣で切り裂きました。

 魅了された残りのオークも同様に次々と首を切り裂きます。


 辺り一面、血の匂いで充満していきます。

 しかしなぜか私はそれが気に入ってます。

 ま、ダンピールですからね。

 しばしそれに酔いしれていると、次第に空が明るくなってきました。



 さて、お仕事終了。帰るとしますか。

 そうそう、ちゃんと見張りのオークが持っていた槍と、オークロードの持っていた魔剣は回収済みです。

 あとで売って、生活費の足しにしましょう。

 臨時ボーナスです。


 来た道を逆戻りして走っていきます。すでに回りも明るくなってきています。

 そろそろ身体強化も切れますね、帰るのに少し時間がかかりそうです。


 ふぅ、と一息だけため息をついて、疲れ始めた足に魔力を籠めて薄暗い森を疾走しました。






 後日、私は試験に合格し、Bランクにあがりました。えっへん。


魅了便利ですね。

このままだと戦闘シーンが殆どなくなりそうです。

次回は少し強敵だしますか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ