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Call my name  作者: 有芳
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只今緊急事態!のはず

今日もノアはいつもと変わらず学び舎の広い廊下を走っていた。既に授業の開始を示す鐘は鳴り響いたあとだ。あの体の奥にまで響く振動。それで目が覚めたのだ。次の授業の予習をしていたのに、昼食と春の暖かい日差しに誘われて、うたた寝をしてしまった。いつものように図書館で勉強をしていれば、勉強仲間の口の悪い後輩に起こしてもらえたというのに!

「なんだかんだ文句いいながら面倒みてくれるしなあ」

しかし、後輩に世話をかけるとは先輩としていかがなものだろうか。一つ下とはいえ…

そんなことを考えながら廊下を抜け別棟への扉に手を伸ばす。だが触れる前に勝手に扉が開いた。出てくる影と衝突しそうになり避けた瞬間、体勢を崩し体が倒れる。

「助けろ、ウィーダ」

若い男の声と共に風が私の体を包み込み、ゆっくりと地に転ばされた。

(今のは風の精霊魔法?しかも直接使役だ!)

「立てないのか?」

驚いて転んだままでいたせいで怪我をしたのかと思わせてしまったのか手を差し出してくれた。その声に慌てて立ち上がるが、元来の人見知りと転けたことの恥ずかしさでうつむいてしまう。

「あ……ありがとう…ございます」

かろうじて礼だけは言うことができた。しりすぼみになって最後の方は聞こえたかどうかはわからないが…

「無事ならいい」

そっけなく言うとノアが来た方へ去ってしまった。

ようやく顔を上げると、既に遠い背中。黒い服に黒い髪。静かな気配と合わさって夜のような人だと思った。

(そういえば、あの人の声よく聞こえたなあ。魔力が強いんだ)

そのとき体の奥までが振動で揺り動かされた。見上げると鐘が揺れている。授業終了の合図だ。教室の扉が開き生徒たちが出てくる。授業に出なかったことに罪悪感を感じ急いで棟から離れ、そのまま中庭へと歩みを進める。

手近なベンチに座り、一人反省会。

(図書館だと面白い本があって集中できないから、旧校舎のほうで勉強してたのに寝ちゃうなんて…最悪だよ。さっきの精霊召喚の授業、一番苦手なものだったのに。ああ、そういえば精霊との契約の儀式を済ませないといけないのに全然準備できてないよ。あの人使役してるってことは契約できてるんだなあ。いいなー。こっちはそれどころじゃないのに…もちろん契約できなきゃ進級できないから、こっちの方が緊急なんだけど)

ぐだぐだと考えていると何者かに肩を叩かれた。思いもよらない軽い衝撃に振り返ると見慣れた姿があった。

「先輩、一人反省会のところお邪魔でしょうが、呼ばれてますよ。確か貴女の先ほどの授業の教諭だったかと思うのですけど、授業が終わったあとに引き留めれば良いでしょうに何故そうしなかったのか。興味があります」

「私の足が早かったからじゃないかなあ?急いでたし」

「おや、急いでまでするような反省会なんですか。僕にはただ落ち込んでいるだけにしか見えないんですけれど」

「ちゃんと次に繋げるようにがんばってるんだよ!今回は寝ててサボっちゃったから、次は先に教室に行って自習するとかさ」

「寝てたんですか」

「あ…あ〜それは」

「図書館だと勉強できないから、空き教室ですると言った貴女が、この僕の誘いを断ってまで一人になった貴女が、まさか寝ていたなんて。もうすぐ進級試験だっていう自覚が足りないんじゃないですか。前だって」

「まあまあ、ちょっとだけだし。あ、先生呼んでるんだっけ?行こうよ」

小言が始まると思い、そそくさと校舎の中に入ろうとするのを、沈んだ声が遮った。

「もしかして、少しずつ進行してるんですか?」

心配そうな顔に笑みを返す。

「大丈夫だよ。それより先生の所に連れてってよ。一人で怒られるの恐いんだから」

「怒られるようなことするほうが悪いんですよ。それに中には入りませんから、外で待っているんで」

「ひどい!あの恐さを知らないからそんなことが言えるんだよ。一回規則破って怒られてみなよ。優等生くん」

「その呼び方やめてください。僕は絶対貴女みたいにはなりませんから」

「それがいいよ。私みたいになったらダメだよ」

「………貴女の規則破りなところはどうかと思いますが、それで助けられた人もいるってことも、覚えておいてください」

「あれは偶然だよ。そんな昔のこと今でも覚えてるの?」

「記憶力はいい方なので。あと別に感謝してるから一緒にいるわけじゃないです」

「ええ?じゃあなんで…って、きゃあ」

話に夢中で段差につまづいた。

「こういうところです」

「どういうところ?まさかドジなところか!」

「それも含まれます」

「残りが気になる!勉強ができないところか、立ったまま寝れるところか、罰の掃除の手際のよさとか?」

「違います。当てたらいいものあげますから頑張ってください」

「いいもの?って着いちゃった。また今度ね」

「はい、じゃあ待ってます」

「やっぱりついて来てくれないよね。うう…いってきます…」

ノアは恐る恐る扉を開いた。

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