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無粋3



────学生の頃、付き合っていた男がいた。

 初めての交際相手というわけではなかったが、今まで付き合ってきた男よりも容姿がよくて、金回りもよくて、地位のある男だった。

 翔冴と比べたら霞んでしまう程度の男だけど、当時は彼がとても輝いて見えた。

 先に告白してきたのは彼のほうだった。薔薇の花束を抱えて、高級ジュエリーショップのダイヤモンドのネックレスを差し出してきた。

 もちろん、二つ返事で交際をスタートさせて、その夜に彼が住むマンションへ行った。

 飲み慣れないアルコールを口にして、その日のうちにベッドイン。痛いだけのセックスを二回も付き合って、部屋に泊まった。

『この部屋にはいつ来てもいいよ』と、男は合い鍵までくれた。


 それはそれで、幸せだった。


 それが、特別な愛だと信じていた。


 交際一カ月は、とても楽しかった。


 学生では入れないようなレストランで食事して、旅行にも連れていってくれた。

 男は何度も『愛してる』と甘く囁いて、その度に有頂天になった。

 一カ月を過ぎた頃から、デートは毎回彼の部屋ばかりになる。自分たちの交際が定着したからだろう……と考えていた。

 部屋に遊びに行くと、手をひかれてベッドに押し倒される。『愛してるよ』と耳元で囁かれて情事にふける。


 男は自分勝手に行為を繰り返した。


『一緒に暮らさないか?』と言われた。なんとなく頷いた。だけど、男は変わっていった。


 友達は、たった一人しかいなかった。たまにしか振動しない携帯に、大学の休講を知らせる連絡がメールで届いた。酷く怒鳴られた。

『どこの男からのメールだ!』『こんなに俺がお前を愛しているのに、まだ足りないか!』

 体中が痛むくらいに乱暴に抱かれて、大学を休む日が増えていく……

 男に携帯を奪われた、部屋にいるように命令された、逆らうと殴られるようになった……

 無気力になって、部屋でじっとしていると男は満足そうだった。

 自分がやつれていくと、『不幸そうな顔をするな』と、殴られ、蹴られ、水をかけられた。


 そこからの記憶はない。


 気が付けば病院のベッドの上にいた。頬骨が陥没しているから整形手術が必要だと医者に言われた。


 生きていくために、もうどうすればいいかわからなかった……翔冴が現れるまでは。


 私と、あの子……

 どっちが不幸だっただろう?






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