無粋2
瀬尾家の私道にひかれた白砂利は、月に照らされてぼんやりと白く輝く。昼間はただの砂利道だが、夜は各段に美しく幻想的だ。
この道を翔冴はキャデラックで何度も往復しているが、仕事が終わり、このみに会うために駆け上がっていく時が一番満たされている。
「ただいま」
「おかえりなさい! 翔冴」
このみは白いワンピースの裾をひるがえしながら翔冴に抱きつく。湯につかり柔らかくなった肌に翔冴は頬を寄せた。シャンプーの良い香りがする。
「ただいま、このみ……」
翔冴は目を閉じた。
睡眠薬まで使ってこの屋敷に半監禁状態にしているのに、彼女はあまりに自分になついている。何もかも上手くいすぎて怖くなる。
上手くいっている時ほど失敗が怖い。
「顔を見せてごらん」
翔冴は、このみの顔を観察した。顔色はいい、呼吸も落ち着いている。目も充血していない。
「午後もよく眠れたか?」
「うん、ぐっすり。でもちゃんとビーフシチューは作ったよ」
「いい子だね」
脈の乱れもない。翔冴は「よし」と頷くと「お医者さんみたいだね」とこのみはクスクス笑った。
「あまり無理はさせたくない、それに今夜も俺に抱かれようと念入りに体を洗ったのか?」
「えっ?」
翔冴の鼻先が、このみの首筋を滑る。
「いい香りだ……」
「翔冴っ! 恥ずかしいからやめて」
「恥ずかしがらなくていい、俺は思ったことを口にしているだけだ」
それ以上、翔冴の瞳を見つめていられる自信がなくて目線をそらす。
────こんなによく喋る翔冴は珍しいな。
このみは、恥ずかしそうに俯きながら翔冴の首に腕を回した。
壁を背にして翔冴のキスを受けとめる。いつもより荒々しいキスに、これはこれで悪くないとこのみは思った。
均整のとれた男らしい体つき、コートを脱ぐと暖炉の前に敷いたカーペットまで移動する。
古い床が軋む。このみは暖かいカーペットに横になり翔冴がその上に折り重なる。
「翔冴、大好き……ずっとこんな毎日が続けばいいな……」
「このみ、お喋りはおしまいにしようか」
身につけていた服を一枚一枚剥ぎ取られていく。いつ脱がされてもいいように準備と心構えはしていた。
暖炉はとてもあたたかく、素肌を曝しても寒さは感じない。それに互いの素肌がとてもあたたかい。
翔冴は洗いたての肌に何度もキスをする。耐えきれずに甘い声があがると翔冴は満足そうに微笑んだ。
一つになると頭の中が真っ白になる。
ただ翔冴の体から与えられる刺激に反応して、ただ溢れ出す自分の厭らしい声が響いて、ただ快楽に溺れた。
これが本物の愛しい人と、全ての痴態を曝してする行為。
翔冴に抱かれながら、このみは今まで自分が経験してきたセックスって何だったんだろう? と頭を過ぎる。
だけど、すぐにそんなことを考えられないくらいの快楽を与えられて、必死に翔冴に抱きついて体を預ける。
「このみ…………」
翔冴が譫言のように自分の名前を呼んでいる。
────こたえなくちゃ……
四肢にピンと力が張り詰めて、言いようのない絶頂を迎える。その後は脱力、宙に放り出されたような感覚。
翔冴、このみは此処にいる。




