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プロローグ
屋敷を背に、広大な庭をゆっくりと出口に向かい歩いていく。
くたびれたスーツ姿の男は、寒そうに肩をすくめた。
男は、門の手前で立ち止まる。そして、振り返り暖かな光を灯した屋敷を睨み付ける。
此処はいつ来ても、“平和”だな。取り繕った平和のバリアを張り詰めて、まるで、自分みたいな存在を恨み拒んでいるみたいだ。
「いや、実際拒まれているんだよな」
独り呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく白い吐息と共に消えた。
今夜は、特に底冷えする夜だ。
あの夜とよく似ている。白く丸い月が煌々と輝き寒い夜だった。
その遺体は俗界を離れた景色に馴染むように浜辺に横たわっていた。一輪の花が切り取られ、美しさをそのままに飾られているかのように……
────SCAPEGOTE