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決断の時

「凄いわよ、この刀。電柱どころか、家までスパっ!っていっちゃったもの」

少女がさっきまでとは違い少し笑いながら答える。


「・・・・・」

 俺は言葉を失う。俺が創ったものは威力が半端ないほど上がる。幼いころ作った水鉄砲は窓を割った。そしてここにあるのが、家も斬れる日本刀。


 こんな状況になったら、さすがに俺もそろそろ焦り始める。いやいや、でもさっき少女は『俺』を助けたって言ったよな。それは違う。俺が『少女』を助けたんだから。


「俺って君に助けられたっけ?」

―――そう聞きながらも、俺は心の奥で目の前の真実を認めつつあった。


『超能力者』という言葉を何の抵抗も無く言う事と、なぜか俺の体がガーゼやばんそうこうだらけな事と、少女は俺が刀を創りだせる事さえも知っていたからだ。


 それでも認めたくなかった。なぜなら俺は、人を傷つけられる武器を使って人を傷つけようとしたのだから。


 この事実だけは夢で終わらせたかった。だからどんなに小さな矛盾点でも、聞かずにはいられなかった。


「「・・・・・」」

 しかしそんな俺の質問になぜか少女は答えてくれず、お互いに何も喋らないまま時間が経った。今までうるさかったこの少女が黙ると、部屋が不自然なほど静かになる。・・・このままでは話は何も解決しない。


「・・・どうしたんだ? 急に黙って」

 心配になり、思わず声をかける。


「・・・えーと・・・」


「言いたくないんだったら、別に言わなくってもいいぞ」

 確かにその矛盾も気になる。だが、それによって、この少女の心が傷つくなら別に無理に聞こうとは思わなかった。


「べ、別に大丈夫! そ、それは・・・」


「それは?」


「・・・あたしは、あんたに一回助けられた」

 少女は顔を真っ赤にさせて、俺から顔を背けると静かにそう言った。


 ・・・やっぱりそうだったか。じゃあ今日のあの出来事は・・・やっぱり夢じゃなかったのか。



 とりあえず少女に言われたことを、整理しよう。


 まずあの夢は、認めたくないが事実だった。俺が今日の朝、「何か」に襲われた夢だ。どうやら、その「何か」が、少女の言っていた「暗殺者」らしい。なぜそんな無関係な俺が、暗殺者に襲われてしまったかというと、この少女の近くにいたために、この少女の協力者だと勘違いされてしまったらしい。

 おそらく暗殺者は、俺もこの少女と一緒に殺そうとしたのだろう。だが、思った通りには行かなかった。俺が超能力者だったからだ。


 俺は咄嗟に、さっき落としてしまったノートパソコンを開いてキーボードを叩いた。この時の俺の行動は、生存本能といっていいだろう。本当に、あの時の俺に正気は無かった。素早く、超能力で日本刀と麻酔銃を創り、相手を見事麻酔銃で撃った、と言う事だ。


 ちなみに、この少女も超能力者だ。なんでも、足、手、身体の全ての瞬発力が人間の十倍はあるらしい。そんな彼女は、暗殺者と空中戦をしていた。驚くことに、本人曰く「空気を瞬間的に蹴れば空も飛べる」・・・だそうだ。改めて俺は、人間離れした世界に入ってしまったのだと自覚する。まあ、そんな彼女が暗殺者に気絶させられて、上から降ってきたという事だけど。


 でも―――


 俺も正気があまり残っていなかったから確信できないが、まだあの後何かあったような気がする。そんな俺の疑問に答えるかのように、少女は言葉を続けた。


「でも、あたしはあんたを助けた」


「・・・へ?」

 思わず、情けない声が出てしまった。それほど、少女の言葉が不思議だった。


「・・・どういう事?」


「まあ、あんたはあの時気絶しちゃったから無理もないか」


「・・・・・」


「あんたは確かに、暗殺者にあんたの創った特殊な麻酔弾を命中させたわ」


「・・・じゃあどうして俺が君に助けられるんだ?」


「だって、暗殺者は人間離れした身体能力を持っているもの。それだけじゃ、一時の気休めに済まない」


「・・・・・」

 思い出してきた。そうだ。俺はあの時・・・


「だけどあんたは馬鹿だったから油断してた。なんか丁寧に日本刀に指紋をふき取ってたし」

 少女はにやりと八重歯を見せて笑う。


「暗殺者はその程度じゃ気絶しなかった。そしてあんたに、トドメを刺そうとしてたのよ」


「じゃあ今生きているという事は・・・」


「そう! あたしに助けられたのよ!」

 ふふん、と少し得意気に小さな胸を反らして少女は言った。


「・・・じゃあ君が、暗殺者を殺したのか?」


「そうよ。あんたの日本刀を借りてね」


「・・・躊躇いは無かったのか?」


「躊躇い? なんでそんなのが必要なの?」

―――やっぱり。さっきからうすうす気が付いていた。この少女は―――


「あたし達を殺そうとしたんだから、殺すのは当然じゃない?」

―――「殺す」という事に抵抗が無い。


「それで・・・そのお返しと言ってはなんだけど・・・」

 少女はさっきと同じ様に、顔を赤くし、顔を背けて―――


「あたしに・・・協力してくれる?」

 もう一度、その「お願い」を口にした。


 俺は黙って少女を見つめる。この少女と関わったら間違いなく、これから一生平和な生活には戻れないだろう。それでもいいのだろうか?


 はっきり言って、今の学園生活は楽しくないと言えば嘘になる。信用できる親友もいるし、アニメについて語れる仲間もいる。もし、この少女のお願いに答えたら、この平凡な生活を懐かしむようになってしまうのだろうか。


 それに、俺は命が常に狙われ続けることになる。


 息を大きく吸う。これは俺の人生の分かれ道。そして、この少女の分かれ道でもある。しかし、俺の決断はもう決まっていた。

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