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現実はそう甘くは無い

 


 正直言って、俺は最初ふざけて言ったので、かなり戸惑っている。なんかすごく申し訳ない事をしたような気分。やばい。なんだこれ。なんでこんな、やっちゃったっていう気分になってるんだろう、俺。


 とりあえず、目の前の少女に事情を聞くことにする。今の俺はこの少女が不法侵入者とかそんなことはどうでも良かった。俺はただ、一人の美少女が何か大きな悩みを抱えているのを黙って見てられなかったのだ。たとえそれが、三次元の女の子であっても。


 俺で良ければ、この子の悩みを解決してあげよう。たとえそれが妄想であっても。


 結局お茶は沸かせなかったので、水を二つのコップに注いで片方を少女に渡す。少女はそれを小さい両手で持ってごくごくと飲む。その様子もリスみたいでとても可愛かった。


 少女はまた瞳をうるうるしながら言った。


「実はあたし、暗殺者に狙われているの・・・」

 「たとえ妄想であっても」と、ある程度まで覚悟していた俺だったが、さすがに自分の耳を疑った。なんだ、暗殺者って。


 もちろん今のご時世に暗殺者なんて実在しているわけがない。この少女は真剣に悩んでいるみたいだけれど、やはり妄想だろう。俺はひとまず安心する。妄想なら適当に話を誤魔化せば安心してくれるだろう。


「今まで何回も戦ってきたんだけど、最近暗殺者のランクが上がっているの。だから一人じゃ倒せなくなってきた。この間だって、あんたが助けてくれなかったら今頃・・・」


『何を言ってるんだ・・・』

 俺が心の奥でそう思っているのも気にせず、少女は話し始めた。



「・・・これが今日あった出来事の全てよ」

 あれから三十分程話してから、少女は全て話したかのようにそう言った。俺も頭の出来はそこまで悪くは無い。だいたいこの少女の妄想の中身が分かった。


 どうやら彼女は妄想の中で、暗殺者とかいうのと何回も戦っていたら、そのうち相手が強くなってきて一人じゃ倒せなくなってしまったらしい。そんな時に俺が現れて、少女を助けた。


 ・・・本当の事だったらめっちゃかっこいいじゃないか、俺。どうみたってヒーローじゃないか。妄想の中の俺の方がよっぽど今の俺よりいい人間のような気がする。―――ってなんで俺こんなに今の自分に自信が無いんだよ。・・・もっといろいろ頑張ろう。


「だから! その・・・。あたしを守って欲しいの! あんた変態だけど、いいやつだから!」

 目だけでなく、顔まで真っ赤にして少女は言った。


―――おっと、危ない危ない。「ついつい俺が守ってやる!」と言ってしまいそうになった。


 だけどどうすればいいんだろう。これは少女の妄想だし・・・。


「しかも、あんた超能力者だし、結構強いでしょ? それなら、あたしの役にも立つと思うの!」

 どんだけ妄想の中の俺は強いんだよ・・・。しかも超能力者って・・・。


 そう思った瞬間に、ふと少女の言葉が引っかかった。


―――あれ? 『超能力者』? 今そう言わなかったか? 偶然か? 偶然だよな? 


「今『超能力者』って言った?」

 俺は思わず確認してしまう。


「言ったけど。・・・だってあの刀あんたが創ったんでしょ?」


 即答。そう言ってどこかに行ったかと思えば、すぐに戻ってきた。手に刀を握っている。俺に強い衝撃が走る。


―――間違いない。俺が夢で創ったはずの日本刀、『破悪蘇名流(ぱあそなる)(自称)』だ。あの銀色に輝く鞘。そこに金色で刻まれた特徴的な刻印。



それがどうして―――


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