この世は非科学的
闇の中から何かが俺たちを斬ろうとした瞬間に、俺はさっき落としたPCのキーボードに『ニホントウ』と打ち込んだ。さらに俺は右手で日本刀を適当に振りながら、左手で『マスイジュウ』と素早く打ち込んだ。
日頃からPCをよく使うので、タイピングは結構速い。まさかいつもの娯楽のパソコンが生死に関わるとは全然想像もつかなかったが。そうして俺は襲ってきた何かを麻酔銃で撃つことに成功した。
この麻酔銃が効いたのか、相手は持っていた武器を落とした。その後にこいつが麻酔によって眠ってくれれば、すべて終わりだった。俺は日本刀を持ってると確かなんかの罪に問われることを知っていたので、ティッシュで指紋を拭いて立ち去ろうとした。
しかし俺はひどく疲れていたせいか、勝手に話を解決しすぎていた。
そう。まださっきの相手は凶器を落としただけで倒れるような音は聞こえていない。
―――つまり、まだ倒れていないのだ。だがその時の俺はそれに気付いていなかった。いや、それに気づかない程疲れていたのだろう。しかし―――
ザシュッ!
その時あまりにもリアルすぎる音が背後から聞こえた。俺は振り向かなかった。何の音か考えようともしなかった。ただひたすら逃げようとした。しかし、何かに服を掴まれる。俺はそれを必死に振りほどこうとする。しかしその力は強く、まったく逃がそうとはしてくれない。
なんなのだろうか? もう何が起こっているのか全く分からない。俺は悪い夢を見ていると思うことにした。そうでもしないと精神が耐えられない。そして、気絶しそうになった時、女の子らしき声が聞こえた。
「待って! もう大丈夫だから!」
―――なにが大丈夫なんだ? ていうか誰の声? この声は俺の恐怖心が生み出した幻聴だろうか。ああ、もう無理だ。こんな幻聴じゃ全然安心できない。
そのまま何もできず、俺の意識は闇の中に堕ちていった。
「―――はっ!」
目が覚めた時、自分の部屋のベッドの上にいた。はぁ。良かった。なんだよ。夢オチかよ。
ふっ、と息を吐く。本当に生きてて良かった。神様ありがとう! さっき残酷だとか言ってごめんなさい! 生きてるということがこんなにも幸せだと思ったのは初めてだ。
・・・でもなんであんな意味不明な夢を―――
どうせなら美少女に告白される夢とか見たかったな。三次元は無理だけど。
そういえば、と俺は思う。
夢に出てた少女は、三次元なのにとてもかわいかったな。今でもその少女の顔を思い浮かべる。後で、絵を描いてみよう。美術は自分の手の絵が描けないほど苦手だけど。もしあんな子が家に一緒に住んでいたら―――って何俺は三次元で妄想をしているんだ。それじゃ変態みたいじゃないか。
そんなことを思いながら壁の時計をちらりと見る。十二時。
「・・・・・」
今日は高校に行くのはよそう。遅刻してまで高校に行きたくないし。勉強めんどくさいし。
そう考えてベッドから起き上がる。その時身体に強い衝撃が走った。
「いったっ!」
え? え? えぇ!? 俺は身体中に貼ってあるばんそうこうやガーゼを見る。そして、その傷跡を恐る恐る触ってみる。強い衝撃が走り、思わず身体が跳ねる。それはあまりにリアルな痛み。
「・・・・・」
??? 疑問。謎だらけだ。誰か解説をくれ。状況がまったく理解できない。
―――昨日のことは夢じゃなかった・・・? 一体何がどうなって―――
「・・・あ。やっと起きた」
―――あれ? この声は夢の中で聞こえた幻聴と同じ声―――だよな? あれ? なんでまた聞こえるんだろう?
「ちょっと話がしたいからベッドから出てきて!」
なんかまた聞こえる。駄目だ。どうやら俺は完璧に耳がおかしくなってしまったようだ。ちょっと精神科に行ってくる。あ、めんどくさいからいいや。別の病気とか見つかったら嫌だし。
「話があるの! 起きて!」
・・・そういえば腹減ったなぁ。今日は朝飯食べていないからな。今の状況はよくわからないが、腹が減ってることだけはわかるので、痛みをこらえつつも台所へ向かう。
「あーー 痛くない、痛くない」
自分に自己暗示をかける。やっぱり痛みは変わらない。まあ、当然か。そんな事をしていても、まだ幻聴は聞こえる。
「そろそろ現実を見つめて!」
・・・これは俺に対する挑戦状だろうか? 三次元は面倒だ。俺が三次元を嫌う理由は軽く千を超える。が、幻聴に何を言ってもしょうがない。
台所の角にあるスーパー袋からカップラーメンを取り出す。
「さあ! 俺の完璧な料理を見るがいい!」
一人でいつものように叫んで、鼻歌を歌いながら薬缶に水を入れる。
―――その時だった。なぜか幻聴が大きな声でこう叫んだのは。
「ふ、不審者だーーー!」