現実はろくなことがない
『うわぁぁぁぁぁ!?』
俺は心の中で叫ぶ。こんな真夜中に叫んだら近所の住人とかがここにきて、完璧に俺がこの少女に怪しい行為をしようとしたと勘違いされるだろう。そして俺の青春は終わる。
よく分からないが、この少女に意識が無くてよかった。何があったのかは知らないが、どうやら気絶しているようだ。もし意識があったら絶対に俺の人生は終わっていた。
はっきり言って、そんなものが全裸の姿で落ちてきたのだから、邪な考えをするなという方が無理だった。これは女でも少し意識してしまうだろう。そう思える程この少女は可愛かった。三次元に興味がない俺が興味を持つほどだ。
―――こ、こいつ・・・三次元なのに可愛い。
そして俺の脳内で妄想が始まろうとしていた。
しかしそんな邪な妄想は途中で中断され、無理やり現実に戻された。周りの物がなぜか全て俺に向かって倒れて来る。
「うおぁぁぁぁぁ!?」
叫びながらも考える。この少女はどうする? 明らかにこの少女が何か面倒な事と関係している。
でも・・・それでも放っておくなんて事は俺にはできなかった。
俺はその少女を抱きかかえて走った。走るたびに少女の青い髪が揺れる。そして俺は、走りながら不思議な光景を目の当たりにする。
それは―――
『電柱が何かで斬られている⁉』
明らかに、何かに斬られた痕がある電柱が、すぐそばで倒れていた。
―――ど、どうやれば電柱が斬れるんだ? なにか特殊な道具でも持ってるのか?
少なくともカッターでは斬れないことは俺が実証済みだ。
しかし、そんなことについて深く悩む余裕は無かった。次々に、近くの物が俺に向かって倒れてくる。
―――と、とにかくまずは逃げてこの状況を判断しなければ。
そう考えたが、もう走れるほどの体力は無かった。おまけに、人間なのかよくわからないが、何かが近づいてくる気配を感じる。
―――近づいてくるこいつは何が目的なんだ? ていうかこいつはなんなんだ? それにこの少女はなんなんだ? なんで上から落ちてきた? そしてなぜ全裸?
さまざまな疑問が浮かんでくる。とりあえずすぐにどこかに隠れよう。このよくわからないやつに何をされるかわからない。というか完璧に相手は俺を殺そうとしているみたいだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
しかし、ブロック塀の影に隠れようとしたのが運の尽きだった。
俺のリュックから学校にこっそり持ってきたパソコンが出てきて、コンクリートとぶつかり鈍い音を出した。リュックに入るほどの小さなサイズだったものの、真夜中だった為とても響いた。その音に気づき、何かが確実に俺の方へ近づいてくるのが分かった。
―――ああ、今日の俺はとことん運が悪いな。教師にパシリ扱いされ、あげくの果てに殺されるのか。
「今思えば、俺は現実逃避をしていたのかもしれないな・・・」
俺が今までの人生を振り返ろうとした瞬間に、ふとここまで抱いてきた少女のほうへ目が行った。目は開いていないが、それでも凄く神秘的なオーラを感じる。
俺はため息をつく。暗くて何だかわからない、何かがすぐ近くにきた気がした。
―――俺は決断した。
カァァァァン!
甲高い音が辺りに響く。俺は少女をそこらへんの草の上に寝かせ、手に日本刀を持って対抗する。どうやら相手も剣か刀らしい。ということは、人間の確率が高い。
俺は暗くて何も見えないので適当に日本刀を振って必死に闇を斬る。相手の凶器が俺の体に何回もかする。とても痛い。それでも必死に振り続ける。
俺はもう無我夢中で戦っていた。
―――何がなんでも、この少女を守ろう。
その考えしか、俺の頭には無かった。
俺はもう片方の手に麻酔銃を持つ。相手の剣と俺の剣を交差させる。その瞬間を狙って、麻酔銃を相手の持つ光る刀身の方へと放った。銃声みたいな音がした後、高い音が暗闇に響いた。
カラン、カラァァァン!
闇の中をキラキラしたものがゆっくり落ちていった。