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現実は疲れる

「はぁ~疲れた! なんでこんなにも現実は疲れるんだ!」

 俺は高校からの帰り道に思いっきり叫ぶ。神様はなんて残酷なんだろう。こんなにも優しい健全な男子高校生は、今のこの世では珍しいというのに、つまらない労働やら勉強やらを強制させる。これには、同意する人間も多い事だろう。


 俺の名前は中島(なかじま) 直行(なおゆき)。普通のアニメ好きな高校生一年生。趣味はアニメ鑑賞、インターネットサーフィン。学力はなかなか良い方だ。部活は当然帰宅部。

 

 名前の由来は、自分の道を迷わずに真っ直ぐ進んでほしいという意味らしい。なので俺は、美少女を愛し、アニメなどを勉強より最優先にして、この名前の由来のような人間になれるように頑張っている。この名前を付けた両親とは高校生になって、俺が別居している為最近全然連絡がとれていない。よって俺は一人暮らしだ。しかし、振込はちゃんとしてくれるので生活には困らない。


 当然、家に帰ってもしゃべる人もいないので、いつもパソコンをつけて適当に過ごしている。こんな生活を送ってみると、一人暮らしは気楽で良いと思う事もある。パソコンで俺がアニメを見ていて怒られることも、気持ち悪がられる事も無いし。

 そして今、そんな俺は高校も終わり自転車で帰宅途中。


「・・・どこに、『現実はつまらない!』なんて言う健全な高校生がいるんだろうな」

 俺の願望に、俺の口数の少ない親友がボソッ、と呟いたのが分かった。俺はその呟きに答える。


「いや、それが普通だろ。その証として、今この世には現実逃避しているヲタクとかが大量にいるじゃないか」


「・・・確かにそれは否定できないけど、それを健全と言ったら日本の社会は確実に終わるな」


 そう横から真顔で言ってくるこいつは、俺の同志の(あかつき) 陰留(かげる)だ。影の薄さは高校一だと思う。なんていうか・・・こいつは、強い感情を出さないのだ。こいつの喜怒哀楽は特殊な状況でしか見られない。

 そんな陰留と俺が仲良くなった理由。それは―――


「でも、お前だって三次元の女と付き合うのは嫌だろ?」


「馬鹿かお前。何当然の事を言っているんだ」

 ・・・とまあ、そう言う事だ。


 陰留は、俺の入っている高校にある『三次元逃避極秘作戦実行団』という、俺の創った軍隊の数少ないメンバーなのである。ちなみに略して、『三次元逃避団』である。これは個性的なメンバーが集まってできている。主な目的は、リア充の発見と研究と、アニメについての討論会だ。今もメンバー募集中だ。この存在を教師も知っているが、なぜか白い目で見るだけで潰そうとはしてこない。それがせめてもの救いだった。


「・・・それじゃ俺こっちの道だから」


「ああ。また明日!」

 陰留はいつも通り静かな顔でそう言うと、俺とは別の道へ自転車で進んでいった。


「・・・はぁ」

 一緒に話していた陰留がいなくなり、とてつもなく暇になった俺はため息を吐く。しばらく何をするか悩んだ後、近くのDVDショップへ向かう事にした。


 俺は入口から店へ入るとすぐに、見るからにヲタクみたいな脂肪分たっぷり、毎日カップラーメンとチキンを食べてますよ的なアピールをしている人のいるコーナーに入った。この店にはよく来る。中古の安いDVDがたくさん売ってるからだ。


「それじゃ始めるか!」

 そう叫んで、俺はいろいろなDVDをあさり始めた。なんか脂肪たっぷりな人に見られたような気がした。

―――気持ち悪いなぁ。そんな哀れな視線で俺を見ないでくれ。そう思いつつ、俺は財布と相談しながら、主にアニメのDVDをじっくりと見始めた。



「―――うん? ・・・やばっ!」

 しばらく時間が経過してから、ふと時計を見る。気が付くと、店に入った時刻から四時間が経過していた。当然外は凄く暗い。俺は慌てて帰りの支度を始める。レジへ向かおうとすると、まだ横に脂肪たっぷり星人がいた。


・・・この人がいるとこの店の売り上げが減るような気がする。そう思ったが時間がないので、俺は素早く明日鑑賞する予定のDVDを買って、家に向かって全力で自転車をこぎ始めた。



―――風が冷たい。そして寒い。俺は凍える身体を頑張って動かして自転車のペダルをこぎ続けていた。まあ、冷静に考えれば今深夜の時間帯だし、寒いのも当然なんだけど。

 もうそろそろ家に着くだろう。あたりはまだそんなに明るくはなっていない。この様子なら、二時間くらいは寝れるだろう。俺はそう考えてふっ、と息を吐く。良かった。寝られる。


―――そう安心していた時だった。突然、聞きなれない鈍い音が俺の耳に入ってきた。


『な、なんだー!?』


 反射的に俺は自転車から降りて、その場から離れていた。その瞬間、すぐ前にあった電柱が俺の自転車をぺったんこにする。


「・・・・・」

 唖然。しかし、いつまでもこのままでいるわけには行かない。

 口を開けながらも、脳を稼働させ始める。


―――え~~~と・・・。昨日アニメで徹夜したのがまずかったか・・・? 確かに二日で睡眠時間3時間はまずかったかもしれない。幻覚でも見えるようになったか? 

しかし何回瞬きしても、目の前の電柱は倒れたままだ。


―――なんだ? なんなんだ? もしかして昨日願った二次元と三次元の融合という願いがかなってしまったのか? 俺は神の子だったのか? よし、それだったら真っ先に現実に舞い降りた天使に会いに行こう。

 そんな感じで適当に考えた結果、結論が出た。


「よし、とりあえず逃げよう!」

 俺は汗を大量にかきながらも、乾いた笑顔を浮かべて言った。

 

―――これは本当にやばい! 現実で、科学的にありえない現象が起きている。

そんなのが起こっている場所に近づける程俺に勇気はない。

俺は急いでその場から離れて家に帰ろうとした。・・・しかし、できなかった。



 どさ。

「・・・どさ?」

 な、なんなんだ一体。目の前に何かが降ってきた音がした。と、とりあえず無視しよう。関わらない方がいいような気がする。


・・・そう考えたが、なぜかそれが気になってしょうがなかった。しかたがないので、どこに何が落ちているかよく分からない暗闇の中を手で探ってみた。


 まず最初に分かったのは、さらさらした感触。・・・まるで人の髪の毛のようだ。おそらく、この独特なツヤツヤ感からして、女子の髪の毛だろう。

 そして次に、俺はそこより下を探ってみた。そこは、なぜかぷにぷにしていた。まるで人の胸を触っているような感触。いや、触ったことないけど。

俺はさらに下に触ろうとして、一つ危険な予想が頭をよぎった。そう。それはもし本当なら本気でやばいレベルの予想だ。


 少し慌てながらもリュックから懐中電灯を取り出す。夜迷った場合に備えて常に俺は懐中電灯をリュックに入れている。そんな俺の手は震えていた。

そして、神に祈りながら懐中電灯を点けた。そこに映っていたのは―――



 青色の髪をした、全裸の少女という俺の最悪の予想通りの光景だった。


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