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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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アフターヘヴン。

作者: megu狐
掲載日:2026/06/28

20xx年、人間は天使との戦争を始めたーーーーーー

結果は人類の圧勝。人類の化学と兵器の前には天使の魔法など無力なものに過ぎなかった。そしてーーーーー


「さぁ、新鮮な天使の眼球、値段は500万コインから!」

威勢のいい声が響き渡る。ここは天使の臓器、又は天使そのものを富裕層へ売りつける非合法のオークション会場だ。買われた天使の臓器は富裕層が自慢のために保管しておくらしい。そして買われた天使がどうなるのか、それはオークション司会者と買った富裕層にしか分からない。

捕獲した天使を状態がいいならそのまま売りに出し、状態のいい臓器があるなら解体して売りに出すのだ。

もちろん、政府に見つかったら懲役なんかでは済まない。即刻死刑になるだろう。


俺は、捕獲した天使の状態を見て、解体する仕事を手伝わされている。解体の手順は、まず捕獲された天使に睡眠薬を飲ませて、くまなく状態をチェックする。一つでも傷があれば、その天使は解体してオークションに出す。傷が見当たらなければ、買って貰えるように着飾り、会場へ運ぶ。俺は今日も仕事場の椅子に腰掛けた。




今日の天使は、と気になった俺は天使の概要が掛かれてある紙を見直した。

『見た目年齢 12歳

脱走の意思 有り

外見に傷 無し

名前 黙秘中

性別 黙秘中

希少価値 A+

特異点 無し』

よくある内容だ。


「やっ、やめてぇ………私の事、殺さないでくださいぃ………!」

今日、最初に担当する天使は目の前の解体用の椅子に腰かけ、俺を見ながら震えている。睡眠薬は飲んでいるはずなのに。生まれつきそういう、クスリが効かない体質なのだろうか。

余程俺の事が怖いのだろう。隙あらばこの縄を解こうと純白の綺麗な翼を必死にばたつかせている。

「安心しろ。お前が変なことしない限り俺はお前を傷つけない。」

そう言っても目の前の天使は聞く耳を持たず、彼女を縛っている縄と格闘している。

こんなにも暴れているのなら、この隙に睡眠薬と解体器具をこの部屋に運び込んでもいいだろうと、俺はこの部屋を出た。

薄暗い廊下を歩き続ける。所々から吹き付ける隙間風の音が、ホラー映画のような雰囲気を作り上げていた。

突き当りを右に曲がると、『倉庫』と書かれた薄汚れた看板が有った。ここに天使の解体に使うものや、オークションの時に天使に着させる服が全て収納されている。

普段なら誰も居ないこの部屋だが、今日は先客がいた。

「あら、アンタ。こんなところで何やってんのさ。」

今日も朝から強めの酒を飲んでいたのか、酒臭い母親が絡んで来た。

「っ………道具取りに来ただけだってば。ってか今日も朝から飲んだのかよ」

少しきつい物言いだったが、俺の母親はこれくらい言わないと真面目に仕事をしてくれない。

「お前はいつもそうだよなぁ~いっつもいっつもぉ~いいらげんにしろよぉ~」

呂律も回っていないのに、自信満々に人を叱る度胸だけはご健在のようで。もはや何語か分からない言葉を使って、母親は俺に説教を続けている。

しかし、急に母親は黙った。

「本当は、ホントはこんなはずじゃ、こんな筈じゃなかったんだよぉ~!」

まるで赤ん坊のように泣き崩れる母親をなだめるのはもう何回目だろうか。

暫くすると母親は倉庫で寝てしまった。もう置いていこう。

帰りの廊下を一人で歩きながら、呟いた。

「父さんがいれば、こんなことにはならなかったのに………」

父さんとは、俺が10歳の頃に天使との戦争にパイロットとして招集されてから一度も家に帰って来ていない。

あの時は子供ながらに『死』を痛いほど理解した。

そういえば天使はさっき脱走しようとしていた。早く部屋に戻ろう。

駆け足で部屋に入ると、先程の天使が肩で息をしながら地面にへたり込んでいた。

天使「はぁ、はぁっ、はぁ………あっ!………すみません………」

彼女を縛っていたロープは千切れ、椅子は無造作に倒されている。恐らく俺が部屋を出て行った時のまま、必死に翼を動かしてロープをちぎり、窓から脱出しようとしたのだろう。窓枠には引っ掻いた痕が残されている。

呆れながらもよく見ると、翼に傷が出来てしまっている。

「………何てことしてくれてんだ………」

困ったようにつぶやいた俺に気付き、天使の顔は一気に青ざめていった。

「あっ、あのっ………ご、ごめんなさいっ!」

「あー、悪ぃ。ちょっとこのベッドに横になってくれないか?」

天使は半ばあきらめた表情で俺の指示に従った。

「じゃあちょっと注射するぞ」

その言葉も耳に届いていないのかのように、天使はすぐさま眠りに落ちた。

ここからが俺のメインの仕事、天使の解体作業だ。

倉庫から持ってきたメスをよく消毒し、天使の腹部に切り込み線を入れ、ペンチの様なもので天使の腹部をこじ開ける。何とも言えない、血生臭い匂いが部屋中に広がった。

ここからは臓器別に分け、ホルマリン漬けの容器に密閉保存する。臓器ごとに相場の違いはあるとはいえ、どの臓器も目玉が飛び出るほど高額だ。傷がつかないよう、丁寧に容器に移す。

もうこの独特な悪臭には慣れてしまった。

埃を被ったランプが照らす埃っぽい部屋の中で、俺は必死に目の前の天使の臓器を体から引き摺り出していった。




ようやく今日1件目の仕事を終えた俺は、さっき使った解体道具を洗い、再び仕事部屋へ戻って来た。

次の仕事も天使の解体または装飾作業。俺は捕獲した天使の状態などを大まかに観察し、その結果を書いた紙を見る。

『見た目年齢 ■■■

脱走の意思 ■■■

外見に傷 ■■■

名前 ■■■

性別 ■■■

希少価値 ■■■

特異点 ■■■』

俺は言葉を失った。全ての項目に、まるで誰かに意図的に塗りつぶされたかのような黒いインクが塗りたくられている。

こんな事、今までは全くなかった。まさか、この仕事の存在が政府にバレたのか?

気を動転させながら、目の前に座っている少女の顔を凝視した。

「こいつ、堕天使か?」

真っ黒な翼。溶けかけた天使の輪。昔読んでいた本で知った堕天使の姿に酷似している。

もっとも、その本の中では堕天使おろか天使でさえ、『空想上の存在』とされていたが。

俺は少し動揺しながら、母親を呼ぼうと部屋を出ようとした。その時、堕天使には睡眠薬が効かないのか、堕天使が俺を呼んだ。

堕天使「ねーねーちょっと君、僕のこと殺したいわけ?」

思いがけない言動に俺は戸惑ったが、そんなこと気にしない、と言わんばかりに堕天使らしき少女は話し続ける。

「そもそも天使は政府機関の研究対象。堕天使は天使を気付付ける可能性が有るから見つけ次第殺すように、言われてるでしょ?」

少女の強気な言動に少し腹が立った俺は、強い言葉で言い返した。

「いきなりなんだよ。てか、俺が呼びに行ったのは、母親に堕天使をどうするか聞くためだよ。お前に関係ないだろ!!」

しかし堕天使は、

「そっちこそ何なんだよ!ってかさっきも言ったけど政府は堕天使を見つけ次第殺せって言ってるんだよ!?」

俺の予想を上回る堕天使の生意気さに俺はとても腹が立ったが、人間はどうやら腹が立ちすぎると逆に冷静になるらしく、俺は少し落ち着いてしまった。

しかし堕天使はまだ言いたい事があるらしく、

「ここって噂になってる天使のオークション会場だよね、ここで売られた天使ってどうなるか知ってる?」

と俺に問いかけた。

俺は知らなくて当たり前、というふうに答えた。

「知ってるわけねぇだろ。第一、知ってても社長に守秘義務掛けられてんだし。」

堕天使は得意気に語った。

堕天使「だいたい富裕層に買われた天使は養子として迎えられるか…」

肝心なところで言葉を濁らせた堕天使に腹が立った俺は強く言いつけた。

「何言い淀んでんだよ、早く言えよ!」

それに驚いたのか、はたまたこんなにも食いついて来る人間は初めて見たのか、堕天使はとても気まずそうに答えた。

「………天使の心臓には不老の効果があるって知ってる?」

俺はその言葉を聞いて絶句した。確かに天使の心臓は他の臓器より高く売れるし、俺が堕天使について知った本でも、『天使の身体には不思議な効果が有る』と書かれていた。

もしその本に書いてあった言葉が本当なら、そんな使われ方をされてもおかしくないはずだ。

でも、それならわざわざ天使を丸ごと買うより心臓だけ買う方が解体する手間が省けるのに、どうしてだろう。

そしてその疑問を言葉にする前に、堕天使は俺の疑問の答えを俺に教えた。

「天使の眼球には千里眼、天使の輪には多幸感をもたらす、ってな感じで天使の体には人間が摂取すると人間に良い効果をもたらすことがあるの。だったらまるごと買った方がお得でしょ。そして、その効果を『ギフト』って言うの。『ギフト』の効果を特に感じる人をギフターって言うんだ。」

目の前の堕天使が一通り話を終えた後、辺りに気まずい沈黙が走る。

堕天使「僕の名前はルナ、君、僕の主にならないか?」

「……はぁ?」

俺は突然のルナの発言に目を丸くした。

主ってなんだ?必死に頭の中の辞書で『主』と言う言葉の意味を探す。

しかし、この状況のせいか、部屋に漂う埃のせいか、正しく思考が回らない。

「主ってなんだよ。てか、なんでまだ会ってちょっとしか話してない奴の主にならなきゃいけないんだよ。」

ルナはさらに予想外なことを言った。

「君には主の素質がある。この世界の、そして、天使がどうなってるかを僕と探しに行かないか?」

俺は少し考え、言葉を発した。

「お前の体を摂取するってどういうことだよ。まぁ捕獲された天使がどうなるかは気になるけどさ…」

しかし、ルナは心配いらない、と言うふうに続けた。

「僕の体なら大丈夫。僕は天使だった頃、カミサマに『無限再生』の能力を授かったんだ。だから天使の輪を貫かれない限り、絶対に死なない。」

「それに、僕の主になれば、沢山の美人な天使に会えるよ、それでも主にならないの?」

年頃の少年に、美人という言葉は破壊力が高すぎる。

「少し………いや、ちょっとでいいから、考えさせてくれ」

「ふ~ん……つまんないの」

ふてくされた顔をしながら、ルナは出窓に腰かけた。

ルナの白い髪が夕焼けの色に染まって揺れている。

煩くて鬱陶しくてしかたないこいつだが、静かに佇んでいる時だけは普通の少女の様だった。


「おい、居るのか!さっさと出てこい!」

すると、俺の仕事部屋の前から、荒々しい成人男性の声が聞こえて来た。耳を澄まして聞いてみると、それは社長の声だった。

「誰?あのおっさん。怖っ。よっぽど僕に会いたいの?」

ルナはまだこの状況に気付いていない。これが最悪な状況だと。

社長はが声色の時は、大体誰かが仕事でミスをした時だ。そしてこういう時に限って、あいつは愛用している銃を胸ポケットに入れている。

そして社長は、一度起こると手を付けられないほど狂暴になる。

誰が仕事でミスをした、一体誰だ。やはり俺の母親だろうか。朝から強い酒を浴びるほど飲んでいたからミスしたっておかしくない。

考えを巡らせている内に、俺の部屋のドアをドンドンと叩く音が聞こえて来た。

社長「早く開けろ!どうしてくれてんだ!」

開けたくないが、開けなければもっと酷い目に逢うかもしれない。

ここで開けるしかなさそうだ。

仕方なくドアを開けると、そこには仁王立ちで顔を真っ赤にした社長が居た。

「お前ぇ………何やってんだこの馬鹿!」

「しゃ、社長………何のことですか………?」

社長「何ほざいてる!お前が解体道具を最初に取りにいかなかったせいでさっきの天使を出品すんのが遅れたんだよ!お得意様がカンカンだぞ!」

『解体道具を取り忘れていた』………?

思い出した途端、背筋に何か良くないものが走るのが良く分かった。

今日の朝殺った天使の事か?

あれは確かに俺が悪い。でも、オークションの入場時間には間に合うようにしたはずだ。

そこで俺は、倉庫で酔った母親をなだめていたことを思い出した。

きっとあのせいでオークションに出品が間に合わなかったのだろう。

俺は俺の過去の行動を深く後悔した。

あんな母親、放っておいたら良かったのに。

もう間に合わない。社長のポケットから銃身の一部が伺える。

光を鋭利に反射したその姿は、全てを力でねじ伏せる支配者のような気風まで感じられてしまった。

「さっきからボーっとしやがって………お前のそういう所がダメなんだよ!分かるかぁ⁉何とか言ってみろよ‼‼」

「す………すみません」

「何喋ってんだぁ⁉お前にそんな権利はないだろぉ‼」

社長は怒りに任せて俺の目の前に銃口を向けた。

社長の腕の震えが、充血した目から止め処なく流れる涙が、やけに遅く感じられた。

嗚呼、これが『死ぬ』ってことなんだろうか。

折角なら最期くらい、洒落た走馬灯でも見れたらよかったのに。

ルナ「ちょっとぉ………そこのおじさん!」

突然の事だった。

ルナが社長に話しかけた。

怒りを孕んだ声色で。

遅く感じていた世界に一気に現実味が戻った。

「僕の主に何するつもりなの!」

「はぁ?何だこの小娘は……」

「僕の名前はルナ!そこにいる主との『契約天使』だ!」

ルナはとんでもない事を言った。

まだ俺はルナと契約していないのに。

部屋中に、支配者に純粋な力で立ち向かおうとするどこかの主人公の様に真っすぐな怒気を孕んだ声が響き渡った。

「…………ははっ、何を言っているんだ、お前は?」

社長の乾いた笑い声の後、社長は、真顔で目の前で浮遊しているルナを睨みつけた。

「こいつ、堕天使なんじゃねぇか?いいなぁ、堕天使は希少だから高く売れるんだよなぁ!」

そう叫んだ社長は、近くに会った解体用ナイフを乱暴に手に取り、ルナを作業台に縛り付けた。

「さぁ……先ずは腕から行くか。こいつは高く売れるぞぉ……」

完全に金に目が眩んでいる。うわごとを繰り返しながら、社長はナイフを消毒している。

「腕でも脚でも目玉でも、お好きにどうぞ。どの道、君は僕を殺すことはできない。」

社長は狐に摘ままれたように目を丸くした。きっと、これ迄自分が解体して来た天使とは全く違う反応だったのだから。

次の瞬間、社長は解体用の肉切ナイフでルナの腕を切り落とした。堕天使だからか、血は流れなかった。

いきなりの惨状に吐き気が込み上げてくる。

「ハハッ!こいつは高く売れるぞ!次は反対の腕にするか……それとも両足にするか……」

社長は、嬉々とした表情で切り落としたルナの腕を見つめている。

ルナは、少しも苦しくないと言っているような顔をしていた。

すると、ルナは拘束されている手を器用に動かして俺にこっちに来るよう指示した。

「なんだ?ルナ。作戦が有るのか?」

「…僕が痛がる演技をしながら、拘束を外す。その隙に近くの机にある拳銃を奪うんだ。出来る?」

「拳銃って、あの社長の……?」

よく見ると、作業台から少し離れたところ、解体器具の置き場に社長の拳銃が無造作に置いてあった。

俺は社長にバレないよう、軽く頷いた。

ルナは、声を出さず口だけ動かして、「頑張って」と言っていた。


「い‘‘っ……!ぃったぁい……」

「待って、もう、無理ぃ……やめてぇ……」

「痛っ!いったぁい……」

少し煽情的な声でルナは演技を続ける。

社長「それはァ……『もっとしろ』って事かァ?」

社長は、愉悦に満ち溢れた少しおかしな表情でルナに美しい銀色の肉切ナイフの刃を見せびらかしている。

「目玉……綺麗だなァ、高く売れそうだ」

危い笑みを浮かべながら、社長はルナの眼窩に指を突っ込もうとした。


「……触んないでよ」

「何だぁ?小娘が」

「きったない手で、僕の国宝級の顔触らないでくれる?」

いきなりルナが不敵な笑みを浮かべる。最初から外れていたかのように拘束を外し、身体の自由を確認するように関節を動かしている。

そして、

「早くして!僕だって演技大変だったんだから!」

俺はその一言でようやく『ルナと社長を殺す約束』をしたことを思い出した。

すかさず机の上の拳銃を手に取る。冷たい感触が掌に広がった。

「……駄目だ」

手が震えて撃てない。

誰かを撃つ事さえ初めてなのに、よりによって社長だなんて。


「しょうがないなぁ。僕がやってあげる」

いつの間にかルナが俺のそばに居た。一瞬だけ、空気がふわっと軽くなる。


瞬きするほど短い出来事だった。

ルナは引き金を引いた。

乾いた銃声が空気を切り裂き、社長が倒れた。

「……社長……!」

思考が完全にフリーズする俺の前に、いきなりルナが跪いた。

「よろしく、主。」

そのまま、恥じらいも無く俺の手の甲にそっとキスを落とした。


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