第9話 和歌解説
小倉百人一首 三十五番
紀貫之
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける
人の心はわからないものですから、あなたの気持ちも、さあどうだかわかりません。しかし、昔馴染みのこの地で、梅の花は昔のままの香りを漂わせ、美しく咲き誇っています。
「人」は相手のことを指すと同時に、人間一般のことも指している。
「いさ……ず」は「さあどうだか、……ない」という意味。
「ふるさと」は慣れ親しんだ、昔馴染みの土地のこと。
「にほひ」は、花が美しく咲くことと、香りが漂うことを表している。
作者の紀貫之は平安前期から中期にかけての代表的歌人。三十六歌仙の一人。『古今和歌集』の撰者の一人。六歌仙を選んだことで知られる。『土佐日記』『新撰和歌』の作者。
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小倉百人一首 八番
喜撰法師
わが庵は 都の辰巳 しかぞ住む 世をうぢ山と 人はいふなり
私の小屋は都の南東にあって、このように平穏に住んでいる。しかし人々は、辛い憂き世から逃れて住む宇治山だと言っているようだ。
「庵」は、僧が暮らす簡素な仮小屋。
「辰巳」は南東を指す。当時は方角を十二支で表しており、辰と巳の間のこと。
「しか」は漢字では「然」と書き、このようにという意味。
「宇治山」は「宇治」と「憂し」の掛詞。
「人」は世間一般の人々のこと。
「なり」は伝聞を表す。
作者の喜撰法師は六歌仙の一人。




