思い出のオルゴール
♪ポーン、まもなく目的地に到着致します。
東京から車で2時間ちょっと、ここは北関東の人気の温泉地、1年前に予約をした老舗旅館に到着した。
入口で車を預け受付に向かった。
「予約をしました山田です」
「山田様、お待ちしておりました」
「すみませんね、急に1人来れなくなってしまって…」
久しぶりの姉妹での旅行だ。お互いに子育てが終わりのんびりと過ごす日々である。
3人部屋に通された姉妹は移動の疲れも忘れて温泉に向かった。
温泉で疲れを癒し、豪華な夕食を堪能し、旅館内にあるBARに行き話に花を咲かせる。
「でも本当にあっという間だったね」
「そうね半年前に入院して、病状も良くなってきた矢先に急に逝っちゃった」
「一緒に来たかった、母さんと…」
歳のせいかめっきり酒に弱くなった2人はほろ酔い気分で部屋に戻り眠りについた。
翌日朝から温泉を満喫したあとに旅館の人に入力してもらったナビに従って人気のうどん屋に行った。お土産売り場もあり、それぞれにお土産を買った。ナビの”家に帰る”を選択して帰路についた。
姉の家に到着した。
「それじゃあ2日後の四十九日で会いましょう」
姉妹はそんな会話で別れた。2人には弟がいる。母は長男でもあるその弟と同居していた。
四十九日は弟の家で行われる。
当日姉は少し遅れて弟の家に到着した。仏壇の前に座り、手を合わせて母に挨拶をした。隣で弟がこの仏壇、結構高かったんだと言った。姉は持参したお土産を取り出そうと紙袋に手を突っ込んだとき、仏壇の前に見覚えのある木箱を見つけた。
「この木箱、誰のお供え?」
ちょうどその時、妹が部屋に入って来て隣に座った。
「この前の温泉のお土産、母さんにと思って買ったものよ」
「あなたもこれを買ったのね」
そう言って姉は紙袋から同じ木箱を取り出して、隣に並べた。
2人して同じものを買ってどうしたの、と隣で弟が呆れていた。
姉はゆっくりと木箱の蓋を開けた。
♪ポロン、ポロン、ポーン
聴き心地の良い音が響いた。
「この音を聴くと母さんを思い出すのよ。あの人よく携帯電話をどこに置いたか忘れたから、場所を割り出すために電話を掛けたわ」
「そうそう、私の座っている座布団の下から鳴ったこともあるわ」
母の携帯電話の着信音と同じ音の響きに3人は自然と笑顔になっていた。
このオルゴールは蓋を開ければ母を思い出せる魔法の箱となった。




