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「うがぁ〜……ぐひぃ〜……」


 翌朝。エルザさんに蹴られてベッドから落ちると、抱き枕のように毛布を抱え込んでイビキをかいてる姿がそこにはありました。今日も元気に朝チュンだ。


 この日はまた、王宮に移送される当日であった。


 深夜に攻防戦を繰り広げていたので今朝は遅く、エルザさんと一緒に乾パンをかじって朝食兼昼食を取り終えると、沸かしてくれたお茶をすすっているタイミングでルゥナが勢い良く扉を開け放ち、


「お姉さまになんもしてねぇよなぁ?」


 第一声がコレだった。


「なんもしてねぇよクソガキ……」


 そちらを見るでもなく、優雅に茶を飲みながら呟いてやる。


「あん? なんか言った?」


「いや別に? ただ、お姉さまのカラダって暖かいんだなーって」


「は、お前テメッ……!」


 いいざまにゃ~♪ と、ほくそ笑んでいるミアの姿を脳裏に浮かべ、慌てふためくルゥナに鼻を高くしてやる。胸ぐら掴んで殴れないだろぉ? 大好きなお姉様が目の前に居るもんなぁ? 暴力振るうなんてムリっしょ~?


(どちらかと言えば、ざまぁないにゃ~。だと妾は思うぞ)


 などといい気になっていたら、聞こえてきたのは声真似をする幼い声だった。あぁ、川姫の存在を完全に忘れていた。存在感薄いというか身体の中で黙ってるから忘れてしまうというか、触手の力で振り払ってもらえばとっくに逃げれたのでは……!?


「一緒に寝ただけだ、寒かったからな。ほら立て出立するぞ」


「はーい」


「ルゥナとは一緒に寝てくれないクセにぃ〜!」


 ルゥナさまがわざとらしく唇を尖らせている間にも、川姫に協力してもらってこの場から脱するよりも先に、椅子から立ち上がるとすぐに手首を掴まれて縛られてしまい――時すでに遅しであった。


「お前の場合、寝る、の意味が少し違うからな……。ま、そんな事はともかく、では乗れ」


 そのまま背中を押されるようにして眩しい屋外へ連れ出されると、そこには赤茶色の巨大な馬が佇んでおり、荷台には奴隷商が使っているような人間用の檻が載せられていた。


 鉄格子には人目を避ける為の布が被されており、床の部分には簡素な板材が敷き詰められている。道も舗装されてないので、走り出したとしたら絶対にガタガタとした激しい振動がこの身を襲うはず。だというのにクッションなどどこにも見当たらず……つい、うげーっと顔をしかめてしまった。


「ここに入るん、っすか……」


「そうだ、乗り込め。これも形式的なもの。悪いな」


 大変な思いをしているエルザさんに言われたら、こちらも渋々飲み込むしか無かった。嫌々ながらも檻に入れられて馬に引かれていく、情けないオレ。


 まるで人身売買の奴隷のようだが、実際にある意味、奴隷としてこれからの人生を歩むのだ。この仕打ちは、それを実感させる為のものでもあって……。なんかもう悲しいよ。


「悪いが我慢してくれ」


 布を被せる際に目配せしてくれたエルザさんの優しさだけが、今の救いだった。

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