053 第十九話 アトラへと続くアトラの小話
王宮内。
えんじ色の絨毯がどこまでも敷かれている豪奢な廊下には、切り花と共に裸婦像や裸婦画がずらりと飾られており、そこに、その幼い後ろ姿はあった。
他の姉妹と同じ色を持つ少女の頭は自分でカットしているのか、あるいは手先の不器用な姉妹に任せたのかは分からないが、肩上に切り揃えられているショートヘアの毛先はやや乱れており、うねりを伴うラフな髪型をしていた。
「ちわっちわーんっ、ちわっちわーん。ちわっ、ちわっ!」
らんらんすきっぷと思わせて……振り向きざまに指差しッ! 後を追ってくる誰かを驚かせる作戦は、多分成功。ワレに付き纏う透明な気配は消えました。フフフ、しょうめーつっ! ……まっ、誰も居ないんだけどね~。
ずしちょんっ。どうも、アトラです。両手で数えられない歳になりました。そんなことより……鏡の前で身だしなみちぇーっく!
カチューシャよし、触覚よし、エプロンドレスよし、そ・し・て! お気に入りの短いスカートっ! ――あ、ちなみに中はスパッツです。
えっちなガーターベルトよし、投げナイフも全部よし! かんぺ……ぁ靴下がズレて……。うむ、良きにて候。まないたぺったん、キニシナイ。
階段を上がって踊り場に掛けられている姿見に自らの容姿を映し出すと、その箇所だけ長く伸ばしている特徴的な横髪をご満悦な様子で指に通し、上から下へと衣服の乱れをシッカリ整えたかと思えば、立て掛けていた箒を肩に乗せてつまらなそうに行くのだった。
はぁ、今日も掃除でごぜーます。っと、なにやら声が。いそいそ……いそいそ……。聞き耳じゃーぃっ!
「男一人にどれだけ時間を要しておるのだ」
「申し訳ありません。どうやら複数の協力者を得たようでして」
「それは言い訳に過ぎぬ」
「ですが……」
ととっ、なにやらオトナな会話……。アトラにはヨクワカリマセン。
低い背丈からすれば巨大に見えるその扉の先からは、女王陛下とアトラの姉の姉にあたる誰かであろう声が聞こえてきていた。まるでだるまさんが転んだでもするかのように身体を静止させて、(ふむふむ)と大人の会話に聞き耳を立てるアトラ。
「逃し、一日を過ぎる毎に、我が寝室へとメイドを一人寄こせ。直々に教育を施してやる」
「それはあの、幼年部や見習いもでしょうか……」
「そやつらにはお前らで教育を叩き込み、いち早く使えるようにし、市中に放て」
「了解しました」
「決して国から出すな。各国にも書状を送り、協力を要請しろ」
「しかし、確保したとて引き渡してくれるでしょうか」
「素直に保護したと伝え、引き渡した場合には、男を多めに提供すると伝えろ」
「かしこまりました」
「今宵はお前だ。辱めを覚悟しておけ」
「はい、女王様……♡」
これ以上聞いてはイケナイとこの触覚(横髪)が言っている……ずちゃちゃちゃっ! サラだばー!
第一章おわり。第二章へつづく。
☆あとがき☆
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(読書体験の邪魔になるので、このような文言は章末だけに留めるつもりです)




