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017

 泥棒猫の小屋にはベッドが一つしか無いとのことで、世話を焼いてくれていたオバチャンに誘われるがまま空いていた子供部屋を使わせてもらう事にし、今晩はそこで休むことになった。やっと独りの時間が確保できると深く息を吐き出し、木材の良い香りを吸い込む。


 そういえば所持品は……。


 カーゴパンツのポケットに両手を入れて何かないかと探るが、指先に触れたのは祖父の形見である小さな小銭入れと、その中に仕舞われていた数百円程度の小銭のみであった。


 絶望的だった。本当にそれしか持ち合わせてはいなかった。サバイバルで使えそうなものを無理やり上げるとしても靴紐とベルトくらいで、まだ使われなくなったこの子供部屋のほうが便利そうなものがある。ランプの中で赤く燃焼して光を放っている石炭みたいな小石とか特にすごい。


 携帯は不携帯だし鍵も開けっ放しだもんなぁ……。ジュースでも買いに行こうとしてたのは分かったわ。ここじゃあ流石に使えないだろうなぁ。あ、でも財布自体は便利か。ポケットに直入れでも困らないけどさ。


 木枠に藁を敷き詰めてシーツを掛けただけの簡易的なベッドで横になりながら溜め息を吐き出し、明日は早いらしいので草枕に感動しつつ寝ることにする。誰かに夜這いでもされたらどうしようかとも心配していたが、結局それは杞憂であった。



「朝だよ、ほら起きてっ」


 いつの間にか気を失っていた目を開くと、部屋に差し込む陽の光よりも先にこちらを覗き込む泥棒猫の顔がそこにはあって、これは夢ではないのだと改めて思い知らされていた。


 朝を迎えて目覚めると、そのまま一階へと降りてオバチャンと朝の挨拶を交わし、昨晩頂いたものと同じ一杯のハチミツジュースを飲み干して、すぐに出立となった。


 そう、メシは途中で休憩した時にしようと泥棒猫に言われてしまったのだ。そんなに急がなくても良いような気もするが、渋々着いて行くほか無かった。


「食べるとお腹に血液が集中して、動きが鈍くなるからね」


 その言葉がいかに重いものか……。今日も一日、移動らしい。とはいえ昨晩振る舞ってもらえた栄養満点なご馳走のおかげか、脚部に筋肉痛はあるものの、一晩明けて身体の疲れはあっさりと取れていた。


 外に出ると緑の香りがする爽やかな風が一面に吹き渡り、頬を撫でる。昨晩、鶏の丸焼きをご馳走してくれたオバサンは今朝も同じ場所に座って煙草を吹かしており、こちらに目配せをして頷いてくれたのが印象的だった。他の若い者たちはまだ寝ているらしい。ともかく――。


 これから放浪の旅に――いや、終わりの見えない逃亡生活が始まるのだ。

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