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「なら奇跡とか超能力は?」


「奇跡は現実改変とも言える、魔法以上になんでも引き起こせる上位互換の聖人的、あるいは天使的なもの。人から天使の御業へと、魔術・魔法・奇跡と並ぶ感じ。超能力ってサイのことよね。千里眼や透視とかの」


「そういうのには興味ないの?」


「まず超能力というものは霊能力と同じで感覚的なものなの。魔術の修行を続けていれば透視くらいは出来るようになるし、霊能も空間――つまりエーテル界にこびり付いた過去の光景、情念の残滓をエーテル体の眼で視て脳内の視覚野で認識する透視とも言える。女子なら誰でも持ってる第六感ってやつよ。私は物品の記憶を読んだり川姫様を見るので精一杯だけどね」


「やっぱ興味を抱くのは魔法ですか」


「魔法……主観的な世界だから仕方ないけど、先天的な神通力って感じ。本人もなにも解らず感覚頼りに出来ちゃってる感じ。学問としては興味あるけど、無知な天才に興味を抱いたところで話しにもならないし。私も軽い物しか飛ばせないし……」


「魔法が使えない魔術師っていう異名、たとえ僅かでも使えるんなら返上しちゃっても良いのでは?」


「私のは神智学の流れにある魔術的な戯れ。天才的な魔法と言ったら笑われる」


「凡人からしてみれば全部同じに見えるや」


 などと知的好奇心に駆られて気を緩めてしまっていたのがいけなかったのだろう。ソフィアと会話しながら湖畔を歩いていると、カチッという感触が前触れもなく靴底から伝わり、頭に浮かぶは”地雷”であった。


 あ、やっちまったかも……。


 一度よぎった言葉はフォントサイズを拡大させてデカデカと脳内を支配していき、指先に至るまで身動きが取れなくなってしまった。咄嗟に歩みを止められた自分を褒めたい。


「なにしてるの?」


「なにか踏んで、スイッチのようななにかを……見てくれませんか……」


「うーん、たしかにパネルのようなものが」


 バネェィル……。ふ、ふるる震え……あぁぁあ落ち着け足ッ! か、踵がガタタタタタ動くなぁああッ!


「ななになにこれ!」


「さぁ?」


「さぁ? って! 罠だよねコレ、古代遺跡のダンジョンとかによくあるやつでしょコレェ!? もっとよく見て!?」


 踏んでしまっているほうの足に体重をかけてガタガタと震える脚を必死に抑え込み、代わりにもう片方の脚を震わせながら冷や汗かいてだるまさんが転んだ状態の俺。そんなこちらの前にしゃがみ込んで地面の砂を払い確認してくれていたかと思えば、顔を上げて社会の窓をまっすぐに凝視するソフィア。違うソコじゃねぇえええッ!


「マスター、オトコを観察するなら今です」


「そうね、コレを下ろせば……」


「はぁぁ~!? 今はそんなコトをしている場合じゃなくてですね!? コレをどう作動させずに……」


 とか文句を言っている間にも隣にやって来たかと思えば、片足に全体重をかけて実質的に片足立ち状態となっている人間を崖から突き落とすがごとく「えいっ」と両手で押し、すぐさま身を引くロシュー。


「ぁテメェッ……! オトコになりたいんじゃねぇのかよッ!」


「「どっち?」」


「あごめん前言撤回」


「でも無事そうでなにより」


「あらホント」


 よろけた勢いでパネルスイッチからは足が離れてしまっており、しかし爆発も無く五体満足のまま二人と言い合っている自分がいた。よくよく観察してみると砂埃を被って地面と同化していたらしく、地雷や罠のわりにはカモフラージュが浅いような感じがした。押下されて周囲よりも一段下がっているパネルは白のタイル貼りで草花を象った青の文様が入っており、人の営みが感じられないこの場においては少々不自然な代物に思えた。


 そんな人の痕跡を今こうして発見してしまったわけだが、なんじゃこれと三人で囲み見下ろしていると、地面の中からチチチチチ……と竜頭を巻くような音が微かに聞こえ、続いて複数の歯車が回るようなカラクリ音が聞こえてくるのだった。


「まさか時限式ッ……」


「あの世で結ばれましょう」


「縁起でもねぇよ! 逃げッ……」


 言いかけたその時、湖のほうから突如として轟音が鳴り響き、湖面が大きく乱れて水中から石造りの道がせり上がって来るものだから、逃げようとしていた足も止めて呆気に取られてしまい、冷静にも死ぬとすれば今だなと。


 仕掛けが終わったのか、ガチャリと跳ね上がって元の高さにパネルが戻ると、荒ぶっていた水面は穏やかに静まっていき、祭りの後に訪れるような静寂の中、先に口火を切ったのはソフィアであった。


「歓迎されてるみたいね」


「いや絶対罠でしょ……」


 浮上した道の先を眺めると、先程まで存在しなかった小さな島が湖上に現れており、蜃気楼がごとく霧の中に浮かんでいて、湖畔からでも鬱蒼とした緑に侵食されているのが窺えた。この道はそちらへの架け橋となって我々を導いているらしい。


「とりあえず行ってみましょう」


「好奇心は猫をも殺すってことわざ知りません?」


「なら私はネコじゃないから平気ね」


 相変わらずというか、射撃時以外はもう全部が無表情みたいなものだが、あまりにも決断が早くてワクワクが隠し切れていない。それどころか「湖に現れた幻の島……」とか呟いて自分を更に高揚させており、このような摩訶不思議を前にして三十二才のオカルティストを引き止めるのはもはや無理であった。


 そのクセ地雷犬のようにまずはロシューの背中を押して先に行かせ、安全が確認されると身体を仰け反らせながらつま先を下ろして一歩を踏み出したかと思えば、馬車一台分の幅をした濡石を杖先で突いて慎重に歩み始め、まさに石橋を叩いて渡るを体現するのだからなんとも。

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