表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/168

116 第四十六話 強引・マイ・ウェイ

「今日はヒマだし、ちょっと探索に行ってみない?」


「この暑いのに……元気だねぇキミも」


 ツリーハウスのテラスで穏やかな朝食を取り終えると、荷下ろしを手伝って損害でも出たら嫌なので手伝いたい気持ちも山々に、非常に心苦しいが! 忙しそうな船員達を横目に黄金の水を飲み干しまして、あまりにもやる事が無いのでこの島の散策へと出掛ける”許可”をボスネコに取っていた。


「いやだってワクワクするじゃん! 隔絶された孤島、密林の奥地、独自の生態系……ヘンな生き物がきっと沢山生息しているはず! せっかくだしちょっと見て回ろうよ」


 さも明るくお散歩に誘ったけども、魔獣成分が混入した事により今後どのような影響が出てくるのか、考え始めてみれば一晩開けたというのに頭からこびりついて離れず、身体でも動かして気を紛らわさなければ恐怖に押し潰されてしまいそうだった。


 これは病気と同じで病院に行って先生に診てもらわないと安心出来ないのと同じ。たとえソフィアであろうとも、表面化していない魔獣の影響を診れるとも思えない。自分で自分を誤魔化さなければ不安で不安で仕方が無かった。という事で、本日はテンション高めにお送りして参ります。


 いかにもダルそうな眼差しを向けてきたミアには探索と言ったが、それはつまるところソフィアの言に従うならば、クリフォトの影響を見て回ることを暗に意味していた。話しによると、海に囲まれたこの場所においても魔獣が出没するらしいので、昨晩聞かされた話しも相まって焦燥感にも似た心配が仄暗い頭によぎり、より一層心がざわついてしまっていた。


 故に、幼き老婆達から危険を遠ざける為にも、動植物の観察ついでに魔獣調査を行ってみたいと思う。魔法を使うと痛いみたいだし、だからと言って傷付きながら物理攻撃をしている姿も想像したくはない。年寄り連中は家に籠もっててくれ。魔獣が居たらぶっ倒してやるぜ!


 とか強がってみるけども、本心で言えば言葉の通りに散策のつもりだった。例の不思議な妖精等を始めとして、此処にしか生息していない独自の環境進化を遂げたヘンテコな生物群をもっと観察出来たらなと、無邪気な期待を抱いていたのだ。


「島の奥は危険だで、やめとき」


「キミは嫌な予感とか感じないの?」


 長老やミアにも危険だと引き止められたが、少しくらいならば大丈夫だろうと踏んでいた。身を隠す必要のない環境で自由に動き回れる解放感を味わいたかったのもある。そう、これは調査だ。この惑星をもっと知る為の。


 若いうちに進んで努力もしたいし、イイネされるようなひょろい男にはなりたくない。クール振ってる奴はイタイだけだ。あちらでは全てを諦めていたけども、しかし第二の人生と言うのならば俺は泥の中を突っ走る軽トラになりたい。そう、強くてカッコイイ男に憧れていた。そのくらいは叶えてもイイだろ。だって自分の努力の範疇で好きに出来るのだから! 筋トレはダルいから実践的な現地調査だ。


 皆の忠告も押し切って小盾を腕に装備し、鉄拳を握り締めて意気揚々とジャングルの奥地へ入り込んでいくと、幸いなことに島の中央付近には火山があり、狼煙が如く煙まで昇っていて方向感覚を見失う事もなく足を進められた。


 因みに、渋々といった様子で着いて来てくれた俺の子守り――いや違うパーティーはいつも通りであったが、危険に飛び込むという事でロシューは久方振りとなる執事の姿をしており、最初から肉壁としての役目を全う”させる”気満々であった。誰がとは言わない。


 なお、長老が溜め込んでいる書物の山に目を煌めかせてむさぼるように読み始めたシスターは、どちらにせよ非力なのでお留守番。本来ならばこちらもお留守番して出港日までダラダラと過ごしていた方が良いのかもしれないけども、あわよくば島民達に感謝されて、チヤホヤされて……世話になっている以上、少しはこの島に協力したい。この気持ちはホンモノだ。


 これは後の祭りであるが、完全に舐めていた。詳しくは後述するとして、ともかく、もしも魔獣と遭遇したとして鉄拳の威力も確認したかったし、得も言えぬ恐怖や心配、食と住を提供してもらっている申し訳無さや感謝されたい虚栄心などに合わさって、更には一種の冒険心までくすぐられてしまっていた。自分でも頭と心がゴチャゴチャとしていてどうかしていると思う。


 集落は柵に護れてるから心配は要らないと言う長老のその言葉が、痛みを負ってでも我々は我々自身を自衛する覚悟がある。客人に手間を掛けさせるわけにはいかない。と言っているように聞こえて、なんだか居た堪れなくなってしまった。いったいどれ程の被害を被っているのかは不明なものの、様子を見て回らなければ。と、義務感まで追加。


 しかし体力も着いてきたし、将来的には魔獣狩りをして稼ぐのも良いかもしれない。みなの世話になってばかりだし、無能な自分を否定したかった。俺にも出来ると証明したかった。一匹だけなら、一対三と更にガーゴイルならなんとか……。ウサギみたいに多ければ逃げれば良いだけだし。


 ――とか安易なことを考えて人は死ぬんだよなぁ。こえぇなぁ……。と、更にやる気と恐怖感が追加。もうね、蒸し暑いのにガクブルっすよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ