よくある卒業パーティのよくある婚約破棄のよくあるざまぁのお話
テンプレテンプレ
昨今流行りの物語の舞台は、大抵が卒業パーティだ。
「真実の愛」を見付けた婚約者に令嬢がパーティで婚約破棄される。
それが最近の流行。
かくいう私も、今、その渦中に居る。
しいて物語と違う点は、この国ストリーブ王国の国王夫妻が微妙な顔をしてこの場にいらっしゃる事くらいかしら。
その隣では、つい先日まで隣国ヒューランドへ留学してらした王弟・ベルナード様も大変微妙な顔をされていた。ベルナード様のあんな顔、今まで見た事ないから余程この状態に複雑な気持ちを抱かれているのね。
「エリザ!聞いているのか!」
外見だけは王子様、頭の中はずっと春。
それが私、エリザ・シューレリュードの婚約者であるノータリー侯爵家のアレクだ。両親が知人だからという理由で、私とアレクの間には交流も無いのにお互いの家の利点があったから結ばれた婚約だった。
もちろん隣には、大変可憐な姿をした、男爵が昔屋敷で働いていた女性と火遊びをした結果生まれ、平民だったもののリーガリュ男爵家の血を引く者としてリーガリュ男爵家の人間となり学園に入学したネーシェ・リーガリュ男爵令嬢の姿。
卒業パーティの婚約破棄断罪物語といえばもちろんよくある構図だ。
ええ、私はもちろん悪役令嬢。ネーシェを虐めた事は無いけれど構図としては絶対そう。
「よくも平民風情がネーシェに嫌がらせをしたな!お前のような悪女を侯爵家の人間として迎え入れる訳にはいかない!」
お約束展開が来たわ、もうお約束過ぎてつまらないと思うけれど、アレクは完全に自分に酔ってる。
というか待って今「平民風情」って言ったかしら?気の所為よね、さすがに。第一平民って、今アレクの隣に居る方の事だし。
とりあえずこのつまらないお約束展開に乗ってあげましょう。
まあ、私は長期休暇はヒューランドに居る事の方が多かったから嫌がらせなんて出来ないのだけど。
「私はそこの方の事なんて、お名前しか知らないわ。第一私は自分より劣る人間に構っている暇なんて無いもの」
「なっ…!ネーシェがお前より劣っているだと!?ふざけるのも大概にしろ!」
私は聞きたい。
可憐さだけで私と同じ舞台に立てると思っているのかと。幼い頃から自国の学園を飛び級までした私が今まで、どれだけの事をして来たかも知らずに何を言っているんだと。
「とにかく、お前との婚約は破棄させてもらう!」
「アレク、貴方のお父様は了承しているの?」
「ふん!これは俺とお前の問題だろう!」
「馬鹿なの?」
おっといけない思わず本音が。
だって家と家との繋がりの為の婚約なのにそれを理解していない貴族だなんて……ああでもこれもお約束だから仕方ない。
「その婚約破棄、受け入れるわ。婚約破棄の手続きもすぐにしてしまいましょう、書類はある?」
「随分素直じゃないか、書類ならここにある。すぐにでもお前と縁を切ってしまいたいからな!」
「なら、さっさと済ませましょう。この場で婚約破棄の手続きをしてもよろしいでしょうか」
念の為、この場に居る方々に確認を取る。
国王陛下が笑いながら頷いてるしいいか。この辺もお約束よね。ありきたりな展開だわ。
ベルナード様も悪戯っ子のようなお顔で笑ってる。昔から変わらない笑顔だわ。
アレクが署名して渡してきた書類に、私はさっさと署名した。
「これで晴れて赤の他人です、ノータリー侯爵令息」
「お前のような悪女と縁が切れてせいせいする!ネーシェ、これからは君とずっと一緒だ!」
脳内お花畑の2人は幸せそうだった。
でもこれは、よくある婚約破棄断罪物語。ええ、よくある話だけど、昨今はそれ、続きがあるのよね。
「ノータリー侯爵家に融通していた穀物類、今後は適正価格でのご購入をお願い致しますね」
「ん?」
「婚約しているよしみでかなりお安く売っていたので。それとあと、婚約しているよしみでお貸ししていた以前ノータリー領で起きた水害被害の復興費用も、お早めに返してください」
「ちょっと待て、それは隣国のヒューランドとうちが面しているからと、ヒューランドからの支援だったはずだ」
彼の言葉に私はため息を吐くしかなかった。
そういった事もきちんと把握していない、それもまたお約束。
「それ、実際はヒューランドからこの国、ストリーブ王国を仲介してノータリー領にお貸ししているだけです。私の婚約者のよしみで」
「は?何でお前が婚約者だとヒューランドから借りる事が出来るんだ?」
……この人、貴族名鑑も覚えてなかったの…?それとも覚えたけど疑問は無かったの…?
まさかそれほどとは。
「アレク様、私の家の爵位、言えますか?」
「爵位も何も、平民だろ?」
「馬鹿なの?」
その言葉しかもう私は言えない。
周囲の生徒たちは「婚約者の爵位を覚えてない、だと…」とドン引きしている。
「いや!そもそもお前の家、貴族名鑑に載っていないじゃないか!」
「載ってない家の人間が侯爵家に様々な融通をしたりこの学園に通ったり出来る訳が無いでしょう!本当に馬鹿!そもそも平民と侯爵家の婚約って何なのですか!興味が無い事は調べる事すら出来ない馬鹿とは思って無かった!」
私、アレクに「長期休暇はヒューランドに帰る」って伝えていたのに。
元婚約者がこんなに馬鹿だなんて…。
「エリザ嬢」
私とアレクのやりとりを見ていた国王陛下は、アレクの事など無かったかのように私に問い掛ける。
「はい」
「ノータリー侯爵令息との婚約も破棄された事だし、私の弟と婚約してくれないか」
「兄上!?」
今日一日でベルナード様の沢山の表情を見ている気がするわ。
昔からヒューランドへ滞在する事が多かったベルナード様は、私にとてもよくしてくれた。正直、アレクとの婚約が決まった時には「初恋は叶わないって本当なのね」と思うくらいには、ベルナード様が好きだった。
ベルナード様は陛下に「いけ!言え!」と言われ、戸惑いながらも私の元へやって来る。
「エリザ嬢、いつしか貴女が私に向ける微笑みが無くては幸せを掴めないのではと思うようになってしまった。私は貴女にずっと微笑んでいて欲しい、貴女がずっと笑っていられるような幸せを、貴女に捧げたい。どうか私と、生涯を添い遂げて頂けませんか」
跪き、私の手を取るベルナード様。
顔が熱くなる中、私の答えはもちろん。
「喜んで……ずっと、お慕い申しておりました…」
国王陛下の元から響く拍手が、会場内へと広がった。
呆然としているのはアレクとネーシェだけだ。
陛下はアレクに告げた。
「ノータリー侯爵令息アレク・ノータリーよ、其方は侯爵家嫡男として家督を継ぐには様々な物が足りないようだ。弟に跡継ぎの座を譲る事を命ずる」
「え……いやお待ちください国王陛下!そもそも何故エリザが…」
「婚約破棄した相手に敬称も無しとは……まして他国の公爵令嬢に…」
「へっ!?」
「エリザ・シューレリュード公爵令嬢の母君は、ヒューランドの王妹だという事も知らなかったのだな…」
だからヒューランドからノータリー領に復興費用を貸すという事が出来たのに。元々ノータリー領はヒューランドとの行き来に最も使われる街道もあるから、国からという名目で費用を貸せた。
これもまた、よくある話。
私はただ、この国に留学していただけ。だって自国の学園は飛び級で卒業してしまったのだもの。
ヒューランドに来ていたアレクの父と私の父が、昔この学園で同級生だった事から「国違うけど家格としては国同士の結び付きにもなるし」と結ばれた婚約だったのだけど。
その後の事は、何度も言うけどお約束、もちろんよくある展開で。
よくある卒業パーティの、よくある婚約破棄の、よくある婚約破棄された令嬢が幸せになってした令息が不幸になるお話。
アレクは侯爵家を継ぐ事は出来ないだけでなく、父親であるノータリー侯爵に勘当され、平民になりました。
よくあるざまぁみなさいって展開。
私はベルナード様と幸せな結婚をして幸せに笑って暮らしました。
テンプレざまぁ(優しめ)でした。